Research Organization for Nano & Life Innovation早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

News

ニュース

シリーズ「未来の早稲田を担う研究者」第14回宇髙勝之 教授

ナノ・ライフ創新研究機構で活躍する研究者を紹介するシリーズ「未来の早稲田を担う研究者」。第14回目は、宇髙勝之 教授(理工学術院/ナノ・ライフ創新研究機構)です。

この回では、データ通信量が指数関数的に増加し続けている現在の情報化社会で、これを支える情報通信機器の高性能化、低消費電力化を目指し、量子ドット集積光源、シリコン光スイッチ、ファイバ間ポリマー光スイッチ、ナノ構造光センサなど、光デバイスの技術開発に挑む、宇髙教授の研究をご紹介します。
 

「未来の早稲田を担う研究者」第14回 宇髙 勝之 教授

本インタビューは本学のナノテクノロジー分野の研究者と民間企業との連携を推進する窓口「早稲田大学ナノテクノロジーフォーラム」が制作しました。
 

データセンタ用集積波長可変レーザの実現に向けて

 情報通信技術の発達により、日々発信される情報量が爆発的に増えており、これに伴う関連機器の消費電力急増が深刻な問題となっています。我々は、光が電子と比べて「高速」「高エネルギー効率」デバイスが可能であることに着目し、光集積回路や光センサなど、デバイスに応用する研究を進めています。素子や情報機器、ひいては通信ネットワークの低消費電力化を図り、グリーンで安全安心な社会に貢献することを目指しています。
 Wi-Fiや5Gサービスなど、無線は一般の消費者に最も近いところにある通信手段ですが、その裏で世界中休みなくゼタバイト規模の情報をやりとりしているのはグローバルな光ファイバネットワークです。光ファイバが導入される前、衛星通信の時代には情報伝達に明らかな遅延がありましたが、現在ではそれを感じることはほぼないでしょう。この光ファイバ分野で日本はトップクラスの技術を有していますが、中国をはじめとする他国の技術開発力におされ、日本の次世代光通信研究は旗色が悪い状況にあります。この打開策のひとつとして、NEDO未来開拓研究プロジェクト「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクト」(PL:東京大学特任教授・荒川泰彦、2012-2022年)が立上げられました。本プロジェクトでは、大量の情報を高速で扱うデータセンタを主なターゲットとして、LSI間を光信号でつなぐ技術の実装を目指しています。この中で我々は、革新的光源の研究を分担しており、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体であるInAs/GaAsを用いた1.3μm帯量子ドットレーザと光変調器の集積化により、低閾値、高温度安定、高機能な超小型光源の開発を図っています。具体的には、東京大学との共同研究のもと、InAs/GaAs多重積層量子ドット基板上に、我々のもつイオン注入と熱処理による組成混合(QDI)技術を用いて光変調器をモノリシックに集積作製することで高機能で波長可変なレーザの実現を目指しています。

図1:データセンタ用革新的光源の断面図と特性

 

世界で誰も成し遂げていない偏光無依存高速動作光スイッチの実現へ

 より高速な情報処理を行うために、スイッチングは非常に重要な技術です。汎用的な通信用機器ではMOSFETなど、電気でスイッチングする素子が主力となっていますが、電気的応答速度に制限されず、低消費電力で高速動作する光スイッチの小型化、低コスト化による市場導入が望まれています。なかでも、既存の半導体技術を活用し安価なシリコンと組み合わせる技術であるシリコンフォトニクスが低コスト化の点で有望です。私は、元々は遠くに大量の情報を飛ばすための光源(レーザ)を専門としていましたが、切り替えることで色々な機器に、そして人々につながっていくというところに面白さを感じ、光スイッチをライフワークのように研究しています。近年は特に、実用化に向けてボトルネックとなっている特性である「偏光無依存性」かつ「高速動作」の実現に向けて取り組んでいます。横波である光には偏光と呼ばれるその振動面に任意性がありますが、デバイスにおいてはどのような偏光でも変わらない特性を得ることが重要です。特に我々が取り組んでいるマッハ・ツェンダ型光スイッチは導波路の屈折率変化を利用して光変調を行いますが、導波路を伝搬する光の屈折率が偏光により少しでも異なると期待する特性が得られません。そのため偏光によらない屈折率変化を実現すると共に、他方、消費電力増大の要因となってしまうオフセットを電気を使わずに調整をするトリミング技術の開発を進めています。
 どのような素子構造により理想的な特性が得られるかというベースとなる基本的技術を大学で構築し、その先の実用化に向けた作製技術開発は産業界と協働して進められるのではないかと考えています。

図2:高速光ネットワーク用シリコン光スイッチの構造と特性

また、低コストなスピンコート塗布によるポリマー光スイッチの研究も進めています。近年、伝送容量の増大を目的として、光ファイバを1本のコアだけで用いるのではなく、4コアなど複数で用いるマルチコアファイバの研究が進められていますが、いずれのコアの信号を取り出すか、あるいは切り替えるかという場面では必ず光スイッチが必要になります。現状のシリコンスイッチでは大きさが合わないため、ポリマー光スイッチを応用できないかと考えています。
 

離れたところの微小な信号をキャッチする高感度光センサ

 センサも非常に関心高く取り組んでいるテーマです。Society 5.0の社会では、各機器がつながるだけではなく、何が起きているかを判断してフィードバックし、安全や健康に備える、というところまで期待されています。光センサならではの高感度性や光ファイバと融合させたリモート性などを活用できる用途開発を目指しています。
たとえば我々は、シリコンナノ構造による光センサの研究をして、世界トップクラスの感度を達成してきました。また表面プラズモン共鳴を応用して、局所的な屈折率の変化を計測できるセンサも研究しています。この実現には、従来クレッチマン方式というプリズムに金属薄膜を堆積し表面プラズモンを励起させる構成が採られますが、サイズが大きくなるばかりで無く、光ファイバとの融合性にも問題があります。我々は、光スイッチでも用いているポリマーで導波路型クレッチマン構造を作製しており、理論値に近い感度が得られています。

図3:シリコンナノ構造高感度光センサの構造写真と特性

 以前カテーテル手術に接する機会がありましたが、カテーテルを入れて目的箇所まで通すという手法に着想を得て、上記の光センサと光ファイバとの融合により離れたところのセンシングに応用できないか、と思うようになりました。光ファイバセンサ自体はすでにありますが、さらに光ファイバの先端にガラスやシリコン、プラズモンなどの高感度なナノ光センサを取り付ければ、たとえば離れた位置からプラント制御や閉塞内部の環境計測、さらに動物・農作物などの内部計測などごくわずかな変化や状態の確認が遠隔でできるようになると考えています。

 デバイスの研究開発は既存の特性を凌駕する数値が出てこそ、という厳しい考え方があり、大学で実施する上では難しい面もあると思います。一方で私自身は、物理現象を理解して初めて新しい発想が生まれ、新しい設計指針を思いつき、そして特性指針を定められるのではないかとも考えています。この双方の考え方をうまく産業界とも共有しながら、デバイス開発、社会実装を進め、情報化社会に貢献していきたいと考えています。さらにこのような創造的かつ実用的な研究を大学で推進する上で、博士課程の学生の力が欠かせません。博士課程を経て育成される思考力と論理構築力、実行力を備えた人材は、今後より一層の競争激化が予想されるものづくり産業において必要不可欠であると考えておりますが、近年では博士課程に進学する学生が減っていることが現状です。博士課程進学を増やす上で産業界での博士課程卒人材の一層の高い評価や処遇が絶対的に必要であり、ぜひご理解をお願い致します。
 

参考文献

– S. Heinsalu, Y. Isogai, Y. Matsushima, H. Ishikawa, and K. Utaka, “Record-high sensitivity compact multi-slot sub-wavelength Bragg grating refractive index sensor on SOI platform”, Optics Express, vol.28, No.19, 28126, 2020. (Editor’s pick)
– Y. Hiraishi, T. Shirai, J. Kwoen, Y. Matsushima, H. Ishikawa, Y. Arakawa, and K. Utaka, “InAs/GaAs quantum dot intermixing by dry Etching and ion implantation”, Physica Status Solidi A, vol.217, issue 10, 1900851, 2020.
– S. Isawa, Y. Akashi, R. Morita, R. Kaneko, H. Okada, A. Matsumoto, K. Akahane, Y. Matsushima, H. Ishikawa, and K. Utaka, “Regional band-gap tailoring of 1550nm-band InAs quantum dot Intermixing by controlling ion implantation depth”, Physica Status Solidi A, vol.217, issue 3, 1900521, 2020.
– Y. Akashi, S. Matsui, S. Isawa, A. Matsushita, A. Matsumoto, Y. Matsushima, H. Ishikawa, and K. Utaka, “Demonstration of all-optical logic gate device using MQW-SOA and 10Gbps XNOR operation”, Physica Status Solidi A, 1800529, 2018.
– Y. Kimura, H. Kobayashi, K. Ema, Y. Matsushima, H. Ishikawa, and K. Utaka, “Polarization-independent and colorless switching operation of three-dimensional 4×4 polymer optical switch with two-layered waveguide structure”, Japanese J. Appl. Phys., Rapid Communications, vol.56, No.12, 120304, 2018.

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/nanolife/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる