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持続可能社会への転換期における法と法律学の役割 —アジア・リージョナル法を展望して

持続可能社会への転換期における法と法律学の役割 —アジア・リージョナル法を展望して
Posted
2014年7月9日(水)

1.持続可能社会への転換と法・法学

現代産業社会は「将来世代が自らの必要を満たす能力を損なうことなく、現在世代の必要性を満たすような発展」を実現する持続可能社会へと転換することを求められている。従来の「大きな政府」か「小さな政府」かの選択肢は、いずれも資源投入を拡大し続け、労働生産性の向上を追究して経済を成長させることを共通の前提としてきた。その結果自然資源の枯渇を早め、生産と労働の過剰を帰結した。持続可能性は、富の生産総量の限界を前提とする脱生産主義に立ち、有償他律労働を相対化して生産と所得を切り離し、無償の自律的社会的有用活動を再定位させて、資源生産性・環境効率性を追究する中でしか達成されない。経済・社会・エコロジーの三つの要素間のバランスを取りつつ調整するレベルを越えて、三要素の新たな関係を構築することが求められている。その筋道を示し社会を転換へと誘導すること、これが社会科学の直面する喫緊の課題の一つであり、法、法律学もこの課題遂行という視角から来し方を顧み、行く末を展望することを求められている。

2.リージョナル法

国民国家の領域内で完結してきた経済が、国境を越えてグローバル化されてきたのに対して、政治・法は、少なくとも同じスピードでグローバル化されてはこなかった。そのために、経済諸関係が政治的、法的に規律されるという国民国家内部で確立されてきた構造が、グローバルなレベルでは形成されていない。これが金融、通貨、貧困・格差、地球温暖化といった領域で危機的な状況を発生させている根本の要因である。こうした危機を回避し持続可能社会への転換を準備するためには、国民国家を越えたリージョナルなレベルにおける国家性、公共性、法規範―これをとりあえずリージョナル法と呼ぶことにする―をどう構想するか、EUという実験に学びながらアジアの領域でこれをどのように展望するかという課題にとり組まなければならない。

3.国内法とリージョナル法

リージョナル法を展望する場合、それは無から生じるものではなく、各国民国家がその歴史的、地理的、文化的コンテクストの中で蓄積してきた経済、政治、法の連関構造を前提とし、相互にそれぞれのコンテクストを尊重しつつ普遍的に妥当する規範を探求するという作業を経なければならない。ここではまず国民国家内での法と、政治・経済・社会との構造的連関を探究し、その上でこれを他国のそれと丸ごと比較する比較法社会学的手法が求められる。この作業には学際的協働が不可欠となる。またいったん形成されたリージョナル法と国内法の関係を法学的にどのように整序するかも大きな課題となる。

4.研究の展開

  1. 持続可能性と法:①各法領域で、持続可能性が法的にどのように位置付けられているか、について比較法研究を実施する。②各法領域で、持続可能性概念を法概念、法原理としてどのように位置づけることが可能かを検討する。
  2. アジア・リージョナル法:①アジアにおける既存のリージョナル法規範を分析し、課題を明確化する。②当面の研究領域としてどの分野を取り上げるかを検討し、その分野におけるリージョナル法形成の可能性について検討する。

定例研究会

―事前申込は不要ですので、直接会場にお越しください。

【第2回】
日時 2013年5月22日(水) 16:30-18:30
演題 戦後フランスにおける国家の経済関与—フランス・モデルの限界とその後
講師 大橋 麻也 研究員(法学学術院 准教授)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室
【第3回】
日時 2013年6月26日(水) 16:30-18:30
演題 日本における持続可能な発展原則と予防原則
講師 大塚 直 研究員(法務研究科 教授)
会場 早稲田キャンパス8号館3階大会議室
【第4回】
日時 2013年7月24日(水) 16:30-18:30
演題 福島県浪江町原発被災者の精神的被害の現状と法的支援をめぐって
講師 須網 隆夫 研究員(法務研究科 教授)
和田 仁孝 研究員(法務研究科 教授)
会場 早稲田キャンパス8号館3階大会議室
【第5回】
日時 2013年10月23日(水) 16:30-18:30
演題 20世紀型福祉国家の持続可能性—超少子高齢社会における社会保障制度のあり方—
講師 菊池 馨実 研究員(法学学術院 教授)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室
【第6回】
日時 2013年11月27日(水) 16:30-18:30
演題 「持続可能社会」法学の構築を目指して—新学術領域「Law and Sustainabllity—巨大リスクの克服と持続可能社会法学」申請に寄せて
講師 上村 達男 研究員(法学学術院 教授)
大塚 直 研究員(法務研究科 教授)
中村 民雄 研究員(法学学術院 教授)
会場 早稲田キャンパス8号館3階大会議室

 

【第7回】
日時 2014年4月26日(土) 13:30-17:30
演題 「持続可能社会」法学の樹立を展望して
講師 上村 達男 研究員(法学学術院 教授)
苦瀬 雅仁 氏(環境省総合環境政策局分析官)
菊池 馨実 研究員(法学学術院 教授)
楜澤 能生 研究員(法学学術院 教授)
会場 早稲田キャンパス8号館3階大会議室

 

【第8回】
日時 2014年10月29日(水) 14:00-17:00
演題 「持続可能社会」法学の樹立を展望して(第2回)緑の福祉国家(脱成長の福祉国家)の可能性
講師 廣井 良典 教授(千葉大学 教授)
上村 達夫 研究員(法学学術院 教授)
甲斐 克則 研究員(法務研究科 教授)
菊池 馨実 研究員(法学学術院 教授)
楜澤 能生 研究員(法学学術院 教授)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室

 

【第9回】
日時 2015年2月23日(月) 15:00-17:30
演題 「持続可能社会」法学の樹立を展望して(第3回)持続可能性と世代間正義
講師 宇佐美 誠 教授(京都大学大学院地球環境学堂 教授)
齋藤 純一 教授(早稲田大学政治経済学術院 教授)
会場 早稲田キャンパス27号館B2階小野記念講堂

 

【第10回】
日時 2015年5月27日(水) 16:00-19:00
演題 プロジェクト連続講演会 第1回「持続可能社会と社会法・ジェンダー法」
講師 矢野 昌浩 教授(龍谷大学)
三成 美保 教授(奈良女子大学)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室

 

【第11回】
日時 2015年6月24日(水) 16:00-19:00
演題 プロジェクト連続講演会 第2回「持続可能社会と医事法」
講師 佐藤 裕一郎 教授(東京学芸大学)
山口 斉昭 研究員(早稲田大学 教授)
甲斐 克則 研究員(早稲田大学 教授)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室

 

【第12回】
日時 2015年7月22日(水) 16:00-19:00
演題 プロジェクト連続講演会 第3回「持続可能社会と行政法・財産法」
講師 山下 竜一 教授(北海道大学)
小澤 隆一 教授(東京慈恵会医科大学)
田村 達久 研究員(早稲田大学 教授)
蔡 茂寅 教授(国立台湾大学)
会場 早稲田キャンパス8号館3階大会議室

 

【第13回】
日時 2015年10月28日(水) 16:00-19:00
演題 プロジェクト連続講演会 第4回「人口減少社会と法―法哲学と労働法の見地から」
講師 山田 八千子 教授(中央大学法科大学院)
水島 郁子 教授(大坂大学大学院)
会場 早稲田キャンパス9号館5階第一会議室


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