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【開催報告】「少額反復紛争への司法アクセス ― 裁判を受ける権利を実効化する弁護士とリーガルテックの新たな役割 ―」7月11日(土)開催されました
Dates
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SAT 2026- Place
- 早稲田キャンパス 8号館303会議室
- Time
- 15:00~17:00
- Posted
- Mon, 25 May 2026
少額反復紛争への司法アクセス
― 裁判を受ける権利を実効化する弁護士とリーガルテックの新たな役割 ―
【主 催】 早稲田大学比較法研究所
【共 催】 早稲田大学法学部・法学研究科
【日 時】 2026年7月11日(土)15:00-17:00
【場 所】 早稲田キャンパス 8号館303会議室
【講演者】 笹田 栄司(早稲田大学名誉教授・北海道大学名誉教授)
【言語】 日本語
【世話人】 愛敬 浩二(早稲田大学法学学術院教授、比較法研究所研究所員)
【対 象】 学生、教職員、一般
【概要】
日本では、司法におけるAI活用はなお構想段階にとどまる。しかしドイツでは、すでに裁判所に複数のAIアプリケーションが導入され、大量事件の処理に用いられている。その背景には、リーガルテックプロバイダーが、少額・反復型の請求を掘り起こし、集約し、裁判手続へ接続してきたという制度変容がある。成功報酬制、費用負担の免除、請求権譲渡を組み合わせたインカッソモデルは、これまで「合理的な無関心」により行使されなかった権利を顕在化させ、司法アクセスを大きく改善した。他方で、その帰結として大量訴訟が下級裁判所に集中し、裁判所側にもAI導入を迫る構造的外圧となっている。本報告では、ドイツ連邦憲法裁判所判例、法律サービス法、連邦通常裁判所判例を手がかりに、リーガルテックとAIが司法アクセスをどのように変容させたのかを検討する。さらに、日本では、弁護士法72条・73条の制約により、ドイツ型モデルをそのまま導入できないことを踏まえ、公設弁護士事務所とリーガルテックプロバイダーの協働による「束ね型」救済モデルを提示する。AIとリーガルテックを裁判の代替ではなく、裁判を受ける権利を現実に機能させる制度的インフラとして捉え直すことが、本報告の狙いである。
◆参加される方は、お申し込みをお願いします(2026年7月8日(水)23:59まで)。参加申込フォームはこちら
※当日参加可
(2026年6月8日更新)
Link to English page
【開催報告】
参加者:29名
【講演概要】
2026年7月11日(土)、早稲田大学比較法研究所にて講演会「少額反復紛争への司法アクセス― 裁判を受ける権利を実効化する弁護士とリーガルテックの新たな役割 ―」が開催されました。講演者の笹田栄司先生(早稲田大学名誉教授・北海道大学名誉教授)は、「裁判を受ける権利」研究の第一人者です。笹田先生は、司法を大きく揺るがすAIの裁判への導入について、ドイツでの先駆的事例をご紹介し、それらが直面する課題や日本への応用可能性についてご講演されました。笹田先生が挙げた多くの論点は、本講演での「裁判を受ける権利」にとどまらず、あらゆる憲法上の権利がAIの登場によってどのように変化していくのかという課題を私たちに投げかけました。

【質疑応答】
質疑応答では、参加者から多くの質問が寄せられました。
ドイツでの取り組みを日本に導入した場合について幾つか質問がありました。日本の裁判実務の中でさしあたりAIを導入できる事件の類型として、笹田先生はサブスク被害やSNS型投資被害を挙げられ、その社会的需要が高いことも指摘しました。日本の過払い金訴訟や法テラスと、航空旅客訴訟において訴訟費用をゼロとするドイツのインカッソモデルとの違いを踏まえて、日本では、少額反復紛争において訴訟費用の高さが裁判を受ける権利の行使の障害になっているとしました。なお、ドイツにおいては、連邦通常裁判所の2021年航空旅客訴訟判決が、大量の少額の請求権を束ねて行使するインカッソモデルを適法と認めたことで、リーガルテックプロバイダーの主導による訴訟提起が容易になり、航空旅客訴訟の新受件数が2024年におよそ13万件に達したとのことです。
少額反復紛争におけるAIの導入が訴訟提起を容易にすることで、権利侵害を受けた原告の「合理的な無関心」が解消される可能性があります。一方で、SNS上の名誉毀損等に対する訴訟が頻繁に提起されるようになった場合、言論の自由への萎縮効果への懸念について質問がありました。この点について、すでにドイツでは「警告ビジネス」というものがあり、私人間で警告が多く発せられることの問題を笹田先生は指摘しました。
人間である法曹とAIとの関わり方にも注目が集まりました。ドイツでは、すでに司法修習の一部で仮想現実等を用いたAI教育が行われていると笹田先生は紹介しました。一方、ドイツの連邦通常裁判所長官や各上級地方裁判所長官によって構成される「会議」が発表しているAI基本文書は、AIによる効率化を理由に司法の人員削減は決して行われてはならないと警鐘を鳴らしています。さらに、裁判官によるAI使用の強制は裁判官の職権行使の独立に反するため禁じられる、と笹田先生は述べられました。
行政でのAI活用の可能性にも議論が及びました。ドイツでは、すでに難民認定の審査において、事実の調査を支援するためにAIが試験的に運用されています。また、社会保障の給付の決定にAIを導入する例は、ドイツではまだ見られません(アメリカではすでに例があります)。AIが活用される領域が今後広がることは十分可能であると笹田先生は付言しました。
AI使用への懸念も挙げられました。判決文の起案に接近しうる生成AI型のMAKIは、最も問題視されていると笹田先生は紹介しました。また、思考の偏り等は人間にも起こり得る問題であり、AIアプリケーション特有の問題では必ずしもないことが質問されました。この点について、笹田先生は、人間による通常の法の議論は論証可能であるが、AIが数値化によって導き出した答えは、本質的には法的な議論ではないと述べました。さらに、司法審査については、AIが十分な学習データや信頼できる情報を持たない事柄についてはハルシネーション等の問題を起こすことが指摘されました。したがって、社会の新しい問題や国民全体の動向を考慮する必要がある事案についてはAIが使えないとの見解を笹田先生は示しました。
最後に、笹田先生は、AIに関する議論が常に変化の過程にあり、AIの研究はその時点の「スナップショット」でしかないことを強調しました。笹田先生は、若い研究者たちにこれらの課題にどんどん取り組んでほしいと述べました。
(文:ドイル彩佳 比較法研究所助手)