比研共催講演会
「障害者権利条約からみる成年者の支援 」2024年12月14(土)
「高齢者法――エイジズムを超えて」2024年12月15(日)
【主 催】 科研費・基盤研究A「多様性社会における「人」の再定位および人格的価値を中核とした私法システムの再構築」(代表者:片山直也)
【共 催】早稲田大学比較法研究所
【日 時】 2024年12月14日(土)15:30~18:00 早稲田キャンパス 3号館703教室
【場 所】 2024年12月15日(日)15:30~18:00 早稲田キャンパス 3号館702教室
【講演者】 クリスティーヌ・モラン(ラバル大学教授)
【世話人】 山城 一真 (研究所員、早稲田大学法学学術院教授)
参加者:55名(うち学生9名)
2024年12月14日および15日に、カナダ・ケベックにおける家族法・高齢者法研究の第一人者であるクリスティーヌ・モラン教授(ラヴァル大学)を招いて、2つの講演を行いました。
第1講演「障害者権利条約からみる成年者の支援」においては、モラン教授から、障害者権利条約と成年後見法との関係をめぐる世界的な議論の状況と、ケベック州において2022年11月1日に施行された新成年後見法の概要が示されました。伝統的な成年後見制度が障害者権利条約12条の要請に応えていないとの批判を受けて、ケベック州においては、
(1)法定後見における包括的な能力制限を廃止する、(2)一時的な法定代理権授与の仕組みを設ける、(3)能力制限を伴わない「支援」の仕組みを民法典に導入するという改革が行われました。講演に続く質疑においては、代行的決定の仕組みを全廃するという改正に踏み込むことができなかった理由、一時的代理権の法的性質と利用状況、新たに導入された「支援」の仕組みの詳細等をめぐって、会場出席者との間で活発な意見交換が行われました。
第2講演「高齢者法――エイジズムを超えて」では、社会の高齢化に対して、法学研究者がどのような対応を示すべきかという実践的関心に基づき、モラン教授が考える高齢者法の構想が示されました。高齢者法は、「高齢者」というカテゴリーを措定することを目的とするのではなく、法制度が高齢者に不当な不利益を生じさせている現状を暴き出す批判理論たる点に意義を有するというのが、その骨子です。講演に続く質疑においては、人の権利及び自由に関する憲章48条が定める「搾取」禁止原理の意義と射程、意思能力の判定にあたって年齢を考慮することのもつ意義、医療行為に対する代行的決定の方法、意思決定の代行における家族の役割と自律の原理との関係等、多岐にわたる問題をめぐる意見交換が行われました。
一連の講演は、ケベックにおける高齢者法・成年後見法に関する理解を大いに深めるものでした。充実した内容の報告をご用意くださり、両日とも1時間以上にわたる質疑にお付き合いくださったモラン先生に加えて、ご参集くださった皆さまに、この場を借りて心より感謝申し上げます。
(文:山城一真・比較法研究所員)