日独シンポジウム「持続可能な農地利用のための政策と法 ―ドイツと日本-」
主 催:文科省科学研究費・基盤研究B「農地の法的社会的管理システムの比較研究」、ドイツ・ゲッチンゲン大学農業法研究所
共 催:早稲田大学法学部、早稲田大学比較法研究所
日 時:2022年9月10日(土)10時00分~17時00分(9時30分-10時00分 登録)
場 所:早稲田大学早稲田キャンパス 8号館 法学部 B 107教室
参加者:42名(うち学生5名)※会場来場者のみ。
2022年9月10日、早稲田大学にて、日独シンポジウム「持続可能な農地利用のための政策と法 ―ドイツと日本-」が開催されました。
最初に、楜澤能生教授(早稲田大学)が「企画趣旨説明」を行いました。楜澤教授は、農林業の持続可能性を担保するような農林地維持管理法の確立が、各国の共通な課題となっているという現状に触れられました。ドイツでは、従来の中小の家族経営体が農地所有権の主体となる農業構造が変化し、非農業部門の法人企業が農地を取得していく中で、農地が一部企業へと集中する傾向にあります。これにより、法人の持分取得(シェアディール)を通じた土地取得への対処が、現在の法的課題となっています。また、日本および中国においても、農業の生産性向上による農業経営の規模拡大や農地取引規制の緩和をとりまく問題が、法政策的課題となっています。楜澤教授は、このシンポジウムは以上のような現状を受けて開催されたと述べられました。
その後、五つの研究報告がなされた後、全体でパネルディスカッションを行いました。
持続可能な農業的土地利用を実現するための公的手段としての補助金-欧州共通農業政策を事例として-
Anna-Lena Poppe研究員(ゲッチンゲン大学農業法研究所)
Anna-Lena Poppe研究員は、EUの財政フレームワークにおいて「天然資源及び環境」が占める予算割合を紹介した後、持続可能な農業土地利用を実現するために、公的手段である農業補助金が重要であると指摘されました。また補助金は、直接支払いと農業環境気候対策の二本柱により構成されている点を、詳しく紹介しました。最後に、共通農業政策、公的資金の考え方、今後の改革動向について論じられました。
日本における「みどりの食料システム戦略」のねらいと課題
安藤光義教授(東京大学)
安藤教授は、みどりの食料システム法の概要を紹介し、特に農業者に関する施策の今後の発展方向と課題を検討されました。また、これれと対比し、EUの直接支払いの環境要件の強化の推移を概観したうえで、EU離脱後に環境支払いへの一層のシフトを進める英国の状況を紹介されました。最後に、日本、EU及び英国における現行政策の問題点について議論されました。
土地取引とシェアディールに対する法的規制
Anna Kiermeier講師(弁護士、ゲッチンゲン大学農業法研究所)
Anna Kiermeier講師は、土地取引に関する法的規制の流れと承認要件を紹介し、法人の持分取得(シェアディール)が農林地取引法上の目的を議論した後、その具体的なリスクと抽象的なリスクをそれぞれ論じられました。そして、これらのリスクを排除するための憲法上の解決手段を、(1) 食料安全保障、(2) 市場と物価の安定性、(3) 農業構造上のリスク、(4) 家族経営と農村地域の保全という四つの観点からそれぞれ議論されました。
持続可能な農地利用のための土地法政策―ドイツの場合
Prof. Dr. Jose Martinez教授(ゲッチンゲン大学農業法研究所、所長)
Prof. Dr. Martinezは、持続可能な農地利用と土地取引に関するドイツの現状と課題を展望した後、それらに関する政策転換が十全にバックアップされない背景には、EUと連邦、州、市町村の間での複雑な権限配分という問題があると指摘した。そして、いくつかの判例を検討し田植えで、この問題を解決するためには、司法や国民投票による解決というより立法府での政治的意思決定、即ち首尾一貫し実行可能な農業法の整備こそが望ましいと議論した。
持続可能な農地利用のための土地法政策―日本の場合
楜澤能生教授(早稲田大学)
楜澤教授はまず、戦後の農地改革を経て整備されていった「耕作者主義」と「農地の集団的自主管理」の制度について説明した後、これらの制度が市場競争原理によって攻撃されている現状を批判し、それら二つの制度は持続可能な農地利用を目的とする政策として再定位されるべきであると議論した。そして、現在の社会を持続可能社会へと転換する上で、自然に直接働きかける主体が同時のその所有主体でもあるという、個体的所有の概念に基づくものへと、農地所有権を概念化するべきであると論じた。
パネルディスカッションと討論
司会:文 元春教授(早稲田大学)・楜澤能生教授(早稲田大学)
全ての報告を終えた後、報告者たちが登壇し、パネルディスカッションを行いました。その中で、消費者に対して農業生産物を適正価格で提供するための制度や、日独の土地取引規制のあり方、環境保護のための制度配備をした後しばらくは農業生産物が減り農家の所得が減ることに関する対応策のあり方、有機農産物への需要に関する日独の違いなどについて討論を行いました。
(文:松田和樹・比較法研究所助手、魯潔・比較法研究所助手)