Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】比較法研究所主催シンポジウム 「AI・ITをめぐる法の現状と課題;民法・刑事法・手続法・金融法の観点から」が開催されました。

比較法研究所主催シンポジウム
「AI・ITをめぐる法の現状と課題;民法・刑事法・手続法・金融法の観点から」
2019年8月2日(金)15:00-18:00
早稲田キャンパス8号館3階大会議室
参加者:80人(うち学生55人)

黒沼悦郎 比較法研究所幹事

8月2日(金)に、黒沼悦郎 比較法研究所幹事の司会の下で、シンポジウム「AI・ITをめぐる法の現状と課題;民法・刑事法・手続法・金融法の観点から」が開催されました。シンポジウムには多くの参加者が集まり、各報告者が概要以下の点を議論しました

【前半部】
民法

山口斉昭 教授(早稲田大学法学学術院)

まず、山口斉昭 教授(早稲田大学法学学術院)が、「自動運転における被害の救済」について報告を行いました。山口氏は、自動走行の各種開発段階(Level.0「自動化なし」、Level.1「運転支援」、Level.2「部分運転自動化」、Level.3「条件付運転自動化」、Level.4「高度運転自動化」、Level.5「完全運転自動化」)や日本における自動運転をめぐる議論(民事責任に関する法律)を紹介した上で、1)「完全自動運転」を制度上は認めずに従来の枠組みにより制度を構築する立場と2)「完全自動運転」を認めた上で被害「補償」制度を構築する立場の二つの方向性を考察し、少なくとも当面は前者1)の方向性が現実的ではないかと指摘しました。

遠藤聡太 准教授(早稲田大学法学学術院)

刑事法
次に、遠藤聡太 准教授(早稲田大学法学学術院)が、「AIの開発・利用をめぐる刑事法規制のあり方」について報告を行いました。遠藤氏は、AIの判断過程は専門家でも説明が困難とされる(AIの判断過程の「ブラックボックス」性)点やAI開発・利用に伴う危険性と社会的便益の双方を踏まえた法的規律の必要性を指摘した上で、優先度の高い安全性確保義務のほかにもAIは多くの検討課題を孕むと論じました。

質疑応答
山口氏と遠藤氏の報告に対する質疑応答では、自動運転に関する政府補償や「運行供用者」(ドライバー)の損害賠償責任、刑事責任をめぐるいくつかの論点について意見が交わされました。

【後半部】

内田義厚 教授(早稲田大学法学学術院)

民事手続法
後半部では、内田義厚 教授(早稲田大学法学学術院)が、「民事裁判手続に関する手続電子化(IT化)」について報告を行いました。内田氏は、日本での民事訴訟IT化の流れを概観した後に、文書や事件記録の電子化、ウェブ会議の実施を含む「e提出」(e-filing)、「e事件管理」(e-case management)、「e法廷」(e-court)からなる「3つのe」の主要論点を考察し、裁判所や弁護士のみならず利用者目線(「誰のため、何のためのIT化なのか」)がIT化を進める際に重要であると指摘しました。

商法
最後に、黒沼悦郎 教授(早稲田大学法学学術院)が「フィンテック(Fin Tech)が金融法制にもたらす影響」について報告を行いました。黒沼氏は、日本の金融法制におけるAI・ITに関する論点として、高速高頻度の証券取引(High Frequency Trading: HFT)、「AI投資」※と情報開示(ディスクロージャー)との関係、「仮想通貨」やICO(Initial Coin Offering)と称される新たな資金調達方法を取り上げ、それぞれの特徴や課題を考察しました。
※「AI投資」:人工知能(AI)を用いた投資手法。大量のデータを高性能コンピューターに分析させて、個別の金融資産評価に基づく資産運用を行う。

質疑応答
内田氏と黒沼氏の報告に対する質疑応答では、ウェブ会議の第三者への公開、情報通信技術に馴染みのない利用者への支援(デジタルデバイド)などについて意見が交わされました。

【総合討論】
総合討論では、概要以下の点が議論されました。
・山口先生は、危険があるにも拘わらず自動運転の効用を重視する姿勢の危うさを指摘された。一方で、遠藤先生は、自動運転(AI搭載機器)のもたらす社会的便益の見地から可罰性を否定すべき範囲を適切に画する必要性を強調された。この立場の違いは、個人的意見の相違によるものなのか。それとも民法や刑法の考え方の相違から生じるものなのか。また、過失犯と損害賠償責任における過失は、同じと考えているのか。
・民事法上、自動運転車が、そもそも安全なのかをゼロから考える必要があるだろう。完全自動運転で事故が生じた場合に、完全自動運転車が社会的に受け入れられるかを検討する必要がある。AIのブラックボックス性を考慮すると予見可能性との関連で、自動運転は、民事責任上、過失判断と断絶したところで欠陥責任が生じる可能性がある。
・刑法学会全体の感覚からすれば、社会的便益を考慮して免責を行うことに否定的な意見が多い。犯罪と民事責任の違いは非常に難しい話で、おそらく答えはない。もし答えがあるとすれば、社会のあり方、あるいは、社会への悪影響の点から答えを考えなければならないだろう。
・自動運転に関しては、レベル3(「条件付運転自動化」)のように人が途中で介入するタイプでは、人が介入している限り、人が第一の帰責対象であるとの考え方に根差して議論が進んでいくのではないかと思う。自動運転車に乗って人の介入の余地が残されているときの運転者の義務の要求水準は、道路交通法改正により、かなり下がった。個別の義務の免除規定が刑事過失に侵食していき、生身の人間の負うべき義務が下がっていくのではないか。
・刑事司法では、AI利用による証人尋問の映像分析や事実認定の可能性が模索されている。民事裁判で、そういったことは可能か。
・民事手続法分野で、AIの利用について議論をしている研究者はあまりいない。もっとも、AIの活用は、証拠評価や主張の整い具合の面から、徐々に始まっていくのではないかといわれている。

 

 

 

アンケートでは、「大変に興味深い主題だった」、「とても参考になった」との好意的な意見が寄せられ、シンポジウムが好評であったことが示されました。

参考
開催案内

 

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