Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】比較法研究所創立60周年記念国際シンポジウム 「持続可能な社会のための法を求めて―Law and Sustainability学の推進」が開催されました。

【開催報告】

比較法研究所創立60周年記念国際シンポジウム

持続可能な社会のための法を求めて―Law and Sustainability学の推進

概要

早稲田大学 比較法研究所創立60周年記念国際シンポジウム「持続可能な社会のための法を求めて―Law and Sustainability学の推進」が、2018年9月29日(土)と30日(日)に小野記念講堂にて開催されました。シンポジウムには、130人余りが参加し、2日間を通じて終始活発な議論が展開されました。

[1日目]

開会の辞

冒頭で、中村民雄氏(早稲田大学 比較法研究所 所長)が、黒沼悦郎氏(早稲田大学 比較法研究所 幹事)の司会の下で、開会の辞を述べました。

中村民雄(早稲田大学比較法研究所 所長)

中村所長は、比較法研究所が早稲田大学の創立者大隈重信の理想(「東西文明の調和」)と志(「世界の学問に裨補する〔ひほ:不足を補い、それを充たす〕」)を法学分野で実践することを目的に1958年に創設され、今年60周年を迎えたと述べました。

そのうえで、本シンポジウムの趣旨が、大隈侯の志(こころざし)を実践すべく、現代社会における法のあり方を社会の持続可能性(sustainability)の視点から批判的に省察し、等身大で飾らずに(研究途上のかたちで)環境・ケア社会・農地・金融・企業法制の共通課題を検討するものであると挨拶しました。

基調講演「持続可能性と法―環境法の視座― Sustainability and the Law」

クラウス・ボスルマン(オークランド大学)

クラウス・ボスルマン氏(オークランド大学)

中村所長の挨拶に続き、ボスルマン氏(オークランド大学)が、「持続可能性と法」と題して環境法の視点から世代間衡平(intergenerational equity)について講演しました。

ボスルマン氏は、環境法の背後にある「欧州の世界観」をDAMAGE(Dualism、Anthropocentrism、Materialism、Atomism、Greed、Economism)と表現し、現代の環境法が区分化、断片化され、経済主義的で人間中心的な考えの下で発展したと述べました。

そのうえで、同氏は、ラテン語由来のサステナビリティを強弱2種類で図式化し、将来世代の要請を考慮した地球生態系の一体性(integrity)の保全、法の根本原則として持続可能性を位置づけることの重要性を指摘しました。

質疑応答では、インテグリティが多義的(完全性、言動一致、尊厳、身体機能の体系性など)であり、適切な日本語・ドイツ語訳を見つけることの難しさが指摘されました。

「環境クラスタ」

大塚直、進藤眞⼈(早稲⽥⼤学)、⽊村ひとみ(⼤妻⼥⼦⼤学)
シャンドル・フロップ(ハンガリー国⽴公共サービス⼤学)

シャンドル・フロップ氏(ハンガリー国⽴公共サービス⼤学)

ボスルマン氏の基調講演に続いて、「環境クラスタ」が報告を行いました。
「環境クラスタ」では、まず大塚直氏(早稲田大学)が、「持続可能な開発目標」(SDGs)に言及しつつ、環境分野における問題の核心として「将来世代との衡平を確保するための課題」を指摘しました。

次に、⽊村ひとみ氏(大妻女子大学)が、パリ協定やイギリスのEU離脱(Brexit)を含めて、「イギリス気候変動委員会からみる将来世代との衡平性の確保」を国際環境法の観点から報告しました。

環境クラスタでの質疑応答の様子

そして、シャンドル・フロップ⽒(前ハンガリー議会将来世代オンブズマン、ハンガリー国⽴公共サービス⼤学)は、将来世代の利益を代表する機関の役割についてオンブズマンとしての自身の経験を交えて報告と質疑応答を行いました。

各人の報告の後に、フロップ氏の報告を踏まえて「環境クラスタ」司会の進藤眞⼈氏(早稲⽥⼤学)は、「世代間衡平を確保するための制度的枠組の必要性」と「将来世代の利益を代表する機関の基本構造」の2側面を考察しました。

 

「ケア社会クラスタ」

岡田正則、菊池馨実、橋本有生、⼭⼝⻫昭(早稲⽥⼤学)
フィリップ・フェネル(カーディフ大学)

山口斉昭氏(早稲田大学)

午後の部では、「ケア社会クラスタ」が、「持続可能なケア社会づくりにむけて」報告を行いました。

「ケア社会クラスタ」では、まず⼭⼝⻫昭氏(早稲⽥⼤学)が、今回の報告趣旨として、高齢者を含む判断能力が不十分な者に対するケアに絞って議論を行う旨を説明しました。山口氏は、自己決定・自己責任を軸にした従来の仕組みの限界から、現在はコミュニティによる共同決定を含むこれまでとは異なるモデルによる決定が日本で検討されている旨を指摘しました。

フィリップ・フェネル氏(カーディフ大学)

そして、橋本有生氏(早稲田大学)が、障害者権利条約(日本は2014年に批准)の観点からみた日本の成年後⾒法の課題を指摘しました。橋本氏は、成年後見法と条約との適合性につき、日本政府の見解や国連の障害者権利条約委員会の立場を紹介しつつ研究の現状を報告しました。

橋本有生氏(早稲田大学)

次いで、フィリップ・フェネル氏(カーディフ大学)が、英国の法改正の現状を交えて、社会ケアと人権(障害者権利条約など)との関連から持続可能性を論じました。フ ェネル氏は、社会ケアの観点から、世代間正義を考える場合に現在と将来世代を含む全体をとらえること、端的に表現することの難しいインテグリティの含意を顧慮することの重要性を指摘しました。

質疑応答では、「ケア社会クラスタ」の取り組みに貢献している実務家(弁護士)が、人権(障害者権利条約)とケアとのかかわりについて意見を述べました。同氏は、持続可能性と絡めて、障害者権利条約に謳われた新たな概念としてのインテグリティや多様性の尊重の重要性を指摘しました。

「土地利⽤クラスタ(農地)」

楜澤能生、文元春(早稲田大学)
陳小君、耿卓(広東外語外貿大学)

楜澤能生氏(早稲田大学)

「ケア社会クラスタ」に続いて、「土地利用クラスタ」が「農地に関する権利の流動化と農業構造の変動に関する国際⽐較」について報告を行いました。

「土地利⽤クラスタ」では、まず楜澤能⽣氏(早稲田大学)が、ドイツ、中国、日本を題材に「農地法制の比較法社会学」について報告しました。ドイツ、中国、日本の農地法制を比較法社会学の観点から報告するなかで、楜澤氏は、農産物市場のグローバル化に面して、日本の農地制度が現在分岐点に立っていると指摘しました。

次に陳小君氏(広東外語外貿大学)が「中国における三権分置政策と農村社会におけるその影響」を説明し、中国における農地経営権の性格や今後の位置づけを論じました。

陳小君氏(広東外語外貿大学)

その後、耿卓氏(広東外語外貿大学)のコメントに加えて、質疑応答では、国家でもない私人でもない中間に位置するコミュニティの役割の重要性が指摘されました。

写真右から、文元春氏(早稲田大学)、陳小君氏、耿卓氏(広東外語外貿大学)

 

 

 

 

 

 

[2日目]

冒頭挨拶

中村民雄(早稲田大学 比較法研究所 所長)

2日目は冒頭で中村所長が1日目の各クラスタの報告を要約し、2日目では企業・企業行動クラスタの報告者が持続可能性に光を当てて議論する旨を説明しました。

1日目の総括として、中村所長は、持続可能性に着目すると、一見つながりのないような「環境」(生態系の全体的な一体性)、「ケア社会」(本人の人間としての一体性)、「農地」(農地と人間社会の一体化)に、共通の問題意識があることに気づくと指摘しました。
そのうえで、中村所長は、現代社会が本来は総体的にとらえなければならないものを細分化し、見失ってしまっているのではないかとの各クラスタに共有の懸念を指摘しました。

基調講演「ブロックチェーン イノベーションvs持続可能な金融制度」

ルーク・テヴェノ(ジュネーブ大学)

ルーク・テヴェノ氏(ジュネーブ大学)

2日目は、まずテヴェノ氏(ジュネーブ大学)が、「ブロックチェーン イノベーションvs持続可能な金融制度」について講演しました。テヴェノ氏は、ブロックチェーンのコンセプトを説明しつつ、ブロックチェーンのもたらす種々のイノベーションの可能性について述べました。一方で、ブロックチェーンにより可能となったビットコイン取引は、膨大な電力コストがかかるために、消費電力の点で持続可能性の論点にかかわると指摘しました。

質疑応答では、ブロックチェーン技術が大量の電力消費を伴うゆえに、将来世代の利益を考慮する持続可能な開発概念とのあいだで齟齬が生じるのではないかとの疑問が示されました。続く金融のセッションにおいて、この問題はもっともであるが、いわゆる「マイニング」による取引認証手法を用いたビットコイン等の一部の仮想通貨に関する問題であり、ブロックチェーン全体の問題ではないことが指摘されました。

「企業・企業⾏動クラスタ(⾦融)」

⿊沼悦郎、久保田隆、渡辺宏之(早稲田大学)
ルーク・テヴェノ(ジュネーブ大学)

黒沼悦郎(早稲田大学比較法研究所 幹事)

次に、テヴェノ氏の基調講演を受けて、渡辺宏之氏(早稲田大学)が、持続可能な開発との関連を中心に「ブロックチェーン・仮想通貨取引に関する諸問題」について論じました。

渡辺氏は、ブロックチェーン技術の発展段階を(1)ビットコインの発行、2)資金決済や証券決済への応用、3)公的認証等、の3段階に分け、第1段階での問題点に対する法的対応策について述べるとともに、第2段階(blockchain 2.0)の実用化により社会的インフラの構築を飛躍的に発展させる仕組みについて検討しました。

渡辺氏の報告を受けて、久保田隆氏(早稲田大学)は、中央銀行デジタル通貨の課題、マネーロンダリングの問題や仮想通貨禁止論について意見を述べました。

渡辺宏之氏(早稲田大学)

質疑では、迅速な取引を可能にするブロックチェーン技術が持続可能性(社会の持続的な成長)に貢献する面と従来の公的管理の仕組みを破壊する面の両面があるのではないかとの疑問が提示されました。また、質疑で、黒沼幹事は仮想通貨取引の現状に対する法的論点を指摘しました。

久保田隆氏(早稲田大学)

 

 

 

基調講演「持続可能な経済社会と企業法制」

上村達男(早稲田大学)

経済・企業法制にかかる基調講演として、上村達男氏(早稲田大学)が、「持続可能な経済社会と企業法制」について講演しました。同氏は、「持続可能社会法学」が歴史に学び、将来に責任を持ち、人間復興の強い理念を共有するものである旨を述べました。

そのうえで、上村氏は、Law and Sustainability学が日本の法学全体において、早稲田大学法学学術院のひとつの特色を表現するものである旨を指摘しました。

質疑では、Law and Sustainability学の進展に向けた方法論上の課題などが議論されました。

上村達男氏(早稲田大学)

総合討論

総合討論では、2日間に及ぶ議論で浮き彫りになった課題が指摘されました。

議論では、持続可能性の観点からみた環境、ケア社会、農地、金融における脅威が説明されました。そのうえで、持続可能性を論じる際の各分野に共通の関心事について、インテグリティが鍵となり得るかどうかが論点としてとりあげられました。

討論ではインテグリティに関連する用語として、農地(「土地利用クラスタ」)で話題になった地域コミュニティや再生可能エネルギー、また金融規制緩和の重要性が指摘されました。また、インテグリティの多義性については、地球生態系全体の一体性、身体機能の全体性の尊重のほかに、人と自然との総合性の回復が含まれると論じられました。

最後に、持続可能性法学が、既存の法学分野の自己完結的な再生産ではなく、生成途上ながらも重要な新たな学問であり、人間のための総合学としての今後の発展と比較法研究所の取り組みを見守ってもらいたい旨の期待が述べられました。

 

総合討論の様子

 

【参考】
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