Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】シンポジウム「法の支配とアメリカ大統領-トランプ政権とアメリカ法の改変-」を開催しました。

主催:早稲田大学比較法研究所・共同研究アメリカ最高裁判所研究会
共催:アメリカ法判例研究会

シンポジウム「法の支配とアメリカ大統領-トランプ政権とアメリカ法の改変-」

日時: 2017年5月27日(土) 13:00~17:00

場所: 早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階大会議室

司会・報告者: 宮川成雄(早稲田大学教授)
報告者:
秋葉丈志(国際教養大学准教授)
小竹 聡(拓殖大学教授)
吉田仁美(関東学院大学教授
紙谷雅子(学習院大学教授)
コメンテーター:
中村民雄(早稲田大学教授)
安部圭介(成蹊大学教
授)
原口佳誠(関東学院大学専任講師)
会沢 恒(北海道大学教授)

参加者数(学生数):53 名(うち大学院生・学部生  14 名)

 

成果の概要:

 2017年1月、第45代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプは、就任早々から継ぎざまに入国禁止令等、「法の支配」に挑戦するかのような多数の大統領令を発してきた。また前任者のバラク・オバマの健康保険制度等、重要政策分野での転換声明を 出してきた。本シンポジウムは、内政面での重要な政策分野における トランプ大統領による法の改変の試みに着目し、「人の支配」ではなく「法の支配」アメリカの理念と制度大統領の権限の専横を抑制 する対抗軸となりうるかを検討するものである。

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 シンポジウムは、5人の報告と4人のコメントで構成され、それに 続くパネル・ディスカッションがフロアー参加者との議論深化のために設定された。第一報告は、宮川氏が「移民法制の改変と人権につい ての規範意識の変化と題して報告し、トランプ大統領の入国禁止令 聖域都市への連邦補助金削減令についての連邦裁判所による暫定停止命令が、「法の支配」における裁判所の機能として現われたこととこれらの事例が人権についての国境を越えた規範意識の形成を示唆すことを論じた。秋葉先生②

 

 第二報告の秋葉氏は、「健康保険法制に見る憲法解釈の巻き返し」について、オバマ・ケア法がトランプ政権の代替法に置き換えられることの意義を、憲法解釈の転換の視点で論じた。

中村先生②

 

 これらの報告について、中村氏はアメリカの「法の支配」の強靭さを指摘し、 後続のパネル・ディスカッションの一つの視座を提供するコメントを 行った

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 安部氏は、連邦と州の関係の視点から、強い共和党の大統領が登場するときは、同時に連邦政府は「小さな政府」を志向し、連邦の関係に転機をもたらすことをコメントした。

 

吉田先生② シンポジウムの後半では、第三報告の吉田氏が「少数者の権利保障の行方とアファーマティブ・アクション」について、人種的少数者の社会的進出を促進してきたアファーマティブ・アクションの後退という大きな流れは今後も継続するであろうが、トランプ政権の下でのしい最高裁裁判官の任命による動向に留意すべきことを指摘した。

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 第四報告の小竹氏は「女性・LGBTの権利保障の行方」について、トラ ンプ政権の登場により女性の中絶を選択する権利を認める憲法判例は 直接的には影響を受けることはないであろうが、州法レベルでの中絶規制法の制定は活発化していることを指摘した。

 

 

 

紙谷先生② 第五報告の紙谷氏は 「最高裁裁判官任命の意味」と題して、「法の支配」の基盤を支える裁判所について、連邦の裁判官職は、選挙によらず終身制であるゆえに、 その時々の政治の動向に左右されず法原理によって重要政策分野に判断を下すことができるが、とりわけ最高裁裁判官の個々人の属性、例えば、宗教、人種、性別、さらには民主党・共和党いずれの大統領により任命されたかによって判決の特徴が把握されることや、終身制であるがゆえに長期在職中に判決の傾向が遷移することを論じ、トランプ政権下での最高裁裁判官の任命には重要な意味があることを論じた。

 原口先生②これら後半報告に対して、原口氏のコメントは、最高裁が大統権限の抑制について、人種的宗教的少数者の権利擁護に一定の役割 を果たしてきたが、長期的に見ると最高裁自身、世論の動向を追う形 で判例法を形成しているのであり、社会の民主的基盤の重要性を指摘た。

 

 

会沢先生② 会沢氏のコメントは、パネル・ディスカッションのための論点整理がなされ、アメリカの「法の支配」の強靭性、連邦州の関係 リベラル保守の関係の錯綜、保守における反動と漸進的な変化などの多様性、ポピュリズム対理性という対立軸の問題などが提示された。

 

 

 パネル・ディスカッションでは、フロアからの質問を交えて議論が深めらた。アメリカの「法の支配」の強靭性については、トランプ大統領入国禁止令への裁判所の差止に見られる強さと同時に、陪審制の機能不全や人種的少数者への警察暴力の頻発に見られる法の実現の度合いの劣化も同時に留意しなければならないことが論じられた。保守の多様性については、連邦政府の縮小を求める州権論の保守論者もいれば、中絶の権利や同性婚の権利を認めない実体的保守論もいるが、産業構造の変化から取り残された保守層もいる。また司法部もまた先例拘束原理に縛られており、漸進的ではあるが保守のエリート層ともいえることが指摘された。自由主義経済における憲法思想の転換という論点について、ニューディール時代の政府の積極的介入 から、レーガン時代の新連邦主義での「小さな政府」の復権を経て、 経済的自由を含め個人の自由への回帰が、国家や社会の大きな枠組みへの意識が希薄化する中で進行していることにも議論が展開された。

参考
開催概要

 

以上

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