比研主催講演会『民衆間的世界における汎地球主義の始まり』
【主 催】 早稲田大学比較法研究所
【共 催】 早稲田大学EU研究所、早稲田大学法務研究科
【日 時】 2024年10月21日(月)16:00-18:00
【場 所】 早稲田キャンパス 8号館219会議室
【講演者】 ウォルフガング・パーペ (元日欧産業協力センター事務局長、CEPS研究員)
【世話人】 須網 隆夫 (研究所員、早稲田大学法学学術院教授)
参加者:20名(うち学生5名)
2024年10月21日(月)、早稲田大学にて講演会「民衆間的世界における汎地球主義の始まり」が開催されました。講演者のウォルフガング・パーペ博士(元日欧産業協力センター事務局長、CEPS研究員)は、汎地球主義を提唱する著作『Opening to Omnilateralism』を公刊しています。パーペ博士は、同書に基づいて、グローバル・ガバナンスの今後の姿について刺激的なヴィジョンを紹介しました。
パーペ博士が提案するグローバル・ガバナンス体制の軸となる重要概念は、 “omnilateralism(汎地球主義)”と “interpopularity(民衆間)”です。Omnilateralismは、ローカルからグローバル、そして国家関係を越えた「全ステイクホルダー」のインプットを求め、interpopularityは国家間とは区別される人と人の関係にフォーカスします。国連憲章に掲げられている “We the peoples” との言葉に象徴されるように、国家を超えた人と人との関係、そしてグローバルレベルでの民主主義的ガバナンスの実現が希求されているとパーペ博士は述べました。
Omnilateralismとinterpopularityに基づくグローバル・ガバナンスは、「国家(nation)」の再考を促します。
国家は、国連やWTO等の既存のグローバル・ガバナンス体制の基本的単位とされてきました。しかし、それは同時に、COVID-19のパンデミックや気候変動のような国境を越える課題の解決の足かせになってきたとパーペ博士は問題提起をしました。そのような状況の中、国家が及ぼす障壁の克服に向けてのステップとして評価されているのが、EUです。EUに限らず、国際関係に参加する全ての国家は主権の絶対性を失うことから、今後は共有された主権を観念するべきであるとパーペ博士は指摘しました。
パーペ博士は、omnilateralismとinterpopularityの下、国家以外のあらゆるステイクホルダーの声をグローバル・ガバナンスに反映することが要請されていると論じました。市民社会やNGO等のステイクホルダーには、声を発する権利だけではなく、意思決定に具体的な影響を及ぼす投票権をも国家と肩を並べるかたちで与えることが必要になります。これを可能にする仕組みは徐々に導入され始めており、そのさらなる民主主義的発展が求められています。
パーペ博士は、今後のグローバル・ガバナンス体制は、より「人ベース」の考え方に移行するべきであると述べました。また、従来のグローバル・ガバナンスが欧米中心的・個人主義的な傾向にありましたが、今後はアジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国のより全体的・包摂的、そして人間関係を重視する考え方を取り入れていくように求められているとします。このように、よりomnilateral及びinterpopularな関係性の中でお互いから学び合うことこそ、未来のグローバル・ガバナンスの在り方であるとパーペ博士は論じました。
質疑応答では、民主主義や市民社会の役割等について質問が寄せられ、活発な議論が行われました。
(文:ドイル彩佳・比較法研究所助手)