2020年4月1日
文学部長 草野慶子
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。入学式のない春を迎えた戸山キャンパスにも、いつもの春と変わらない花と緑があふれています。
皆さんが早稲田大学文学部に入学されたこの2020年春は、歴史に刻まれる春となりました。グローバル化によって国の境界をこえて広がったウィルスが世界に混迷をひきおこし、その結果として逆説的に、世界に存在するさまざまな境界を改めて引き直し、強化しています。国家、民族、都市、階級、政治的立場、その他、私たち人間のあいだに引かれる可視/不可視のあらゆる境界が再びその力を強めています。移動の自由は著しく制限され、私たちは、集まること触れることを禁じられようとしています。あるいは自ら進んで制限し、禁じようとしています。
そして大学の外でも中でも、私たちはいま、親しく隣に座り、互いの目を見て、言葉を交わすことをためらいます。いつ無効となるかわからない遠い距離が、この春、私たちのあいだにはあるようです。
新入生の皆さんは、この距離を再び縮め、いま世界にある分断を、のりこえる世代となるでしょう。どんなかたちでそれがなされるかわかりません、正確な予測もできません。けれども確実に、皆さんは勇気をもって逞しく、その使命を果たすでしょう。果たしてください。
この2020年の春を、私たちはいつまでも記憶にとどめるでしょう。そして皆さんがこの春に早稲田大学文学部の学生となられたことを、いまこのとき希望として心に刻み、いつかその希望が私たちの世界になにをもたらすか、ともに確かめることになるでしょう。