私が現代文芸コースを志望した理由
私が就職ではなく大学院への進学を決意したのは、学部時代にやりたかった研究をやりきれなかったという思いが強かったためでした。大学入学当初から「伝統的に文学として扱われるもの」と「サブカルチャー」との関係に興味があり、その結節点として村上春樹を研究対象としていたものの、主に戦前までの文学を中心的に扱う国文学の環境では思うように研究が行えず、現代文芸コースへの進学に至りました。
また、自分は学部生の頃から小説の執筆にも興味があり、文芸サークルと個人での活動の両方で小説を行っていましたが、現代文芸コースでは所属する学生で編纂する『知恵熱』の発行を行っており、所属する学生にも創作に興味のある学生が多いということを知り、志望を固める要因となりました。
現代文芸コースの雰囲気、教員・学生などとの交流
現代文芸コースは全体として非常に自由な場所だと感じました。研究に対する圧力のようなものは一切なく、自分の研究したい対象を、望んだ方法で突き詰めることのできる場所です。その分、研究に対する自主性がかなり試される場であるとも言えますが、自分の中にやりたいことさえあれば、それを受け止めてくださる教員・環境は揃っています。実際に自分も様々な面で相談に乗っていただき、アドバイスを受けることができました。
またコース全体の雰囲気は非常に和やかで、教員・助手さんを交えてコースの方々とざっくばらんに交流する機会に恵まれたことも印象的です。
学生間の交流も活発で、空きコマなどに論系室へ向かうとたいてい誰かがおり、助手さんを交えて文学やそれ以外の話を様々に交わすことができました。学生もみな中心とする研究テーマこそ違えど、それぞれに幅広い興味を持った人が多く、進学後すぐに毎日のように授業後に飲みに行っては延々と語り合う仲になりました。
また、在学中にコースの同期を中心として文芸同人を立ち上げ、修了後の今でも継続的に同人誌を発行、文学フリマへの参加を行っております。そのような仲間を見つけるという意味でも、現代文芸コースは自分にとって理想的な場所であったと感じます。
研究にかけた思い
村上春樹が一般的に非常に広く受け入れられていることと、80年代以降に人気を博した作品や、大きな社会現象との関係性について研究することを通して、村上春樹という作家のみならず、文学という存在がどのようにして社会と関わり、社会の中でどのような役割を果たし得るのかを明らかにすることを目指しました。その中で、村上が直接題材とした阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件と文学との関わりについて掘り下げたほか、村上の影響を強く受けた新海誠作品や、共通するモチーフを多く含む幾原邦彦作品などを俎上に上げることで、文学のみならず近年のサブカルチャーと社会の関係について大きな学びを得ることができたと考えています。
修了後、修士課程での生活を振り返って
修了後にゲームプランナーとしてゲームを作り、ユーザーに届けていく上で、研究を通して常に考え続けていた「サブカルチャーと社会の関係」という視点は大いに役立っています。
また、修士を通して養われた「作品と向き合い、多角的に分析し、思考を言語化する」という能力は、企画立案を行い、アイデアに対し意見を述べ、共同でコンテンツを作り上げる現場において非常に重要な能力であることも実感しております。
文学とサブカルチャーについて研究を行い、同期たちと継続的に文芸活動を行って来た経験もあり、初年度からシナリオの執筆を任されることができたことも、現代文芸コースでの経験が仕事に活きた一例であると感じております。ゲームシナリオの執筆は経験がなく苦労も絶えませんが、先行作品の分析を通して技術を学ぶ中にも、修士経験は活きています。
仕事を始めるとそれに忙殺され、気がつくと文学から離れてしまいそうになるという感覚がありますが、現在も続く同期との交流や文芸活動を通して自分を文学に繋ぎ止められている感覚が強くあり、そういう意味でも修士の2年間は自分の中で非常に重要な時間であり続けていると感じています。
プロフィール
熊本県出身。東京大学 文学部 言語文化学科 日本語日本文学専修(国文学)卒業後、早稲田大学大学院 文学研究科 現代文芸コースに進学。在学中は村上春樹とサブカルチャーの関係をテーマに研究。修士論文の題目は 「村上春樹とサブカルチャーの問題」。修了後は株式会社セガにてゲームプランナーとして企画立案、シナリオ執筆などを担当。
(2021年2月作成)