木浪凜太郎(修士課程(哲学コース)在学生)
私が哲学コースを志望した理由
自分の問いに腰を据えてじっくりと取り組むために進学を決めました。早稲田大学の文学研究科哲学コースを選んだのは、学部でお世話になった指導教員の先生に引き続き指導を賜りたいという思いがあったことに加えて、哲学コースそのものに魅力を感じていたためです。特に、哲学コースの教授陣が広い時代と地域の哲学をカバーしていることは注目に値します。私の研究では主に20世紀後半以降のドイツやアメリカで書かれたテキストを参照しますが、その時代・その地域のテキストだけでは問題の全容を把握しきれないのが哲学や倫理学の難しいところであり、面白いところです。色々な演習や講義を通して広い視座を持てるということは哲学コースの強みだと思います。
哲学コースの雰囲気、教員・学生などとの交流
文学研究科の哲学コースには学部時代の先輩が何人か在籍しており、先生も多くが学部時代からお世話になっていた方なので、私の場合は「未知の空間に飛び込む」という不安はありませんでした。そのなかで学部との違いを感じたのは、議論の深さと質問の鋭さです。この原稿を書いているのは修士1年の秋学期を終えた頃ですが、演習では話についていくのが精一杯の時もありますし、コース内の発表会での質疑応答では答えに窮する質問をいただくこともあります。研究分野も様々な先生方と先輩方に自分の考えを真剣に検討していただける機会は得難いものです。
演習や発表以外の場面でも交流はあります。コースの発表会やその他の集まりの後に食事に行くことは珍しくありません。哲学に関する疑問や論文の書き進め方について相談させていただくこともあれば、難しい議論は一旦忘れて趣味や日常生活の話題に興じることもあります。研究分野や年齢に関係なく、教員と院生、そして院生同士の距離が近いことが早稲田大学の文学研究科哲学コースの魅力の一つです。
研究にかける思い
現在私は生命倫理、とりわけ現代ドイツの哲学者であるクヴァンテの人格論を研究しています。私が取り組もうとしている問題は、平たくいえば、人はどのようにして納得のいく選択や意志決定ができるか、というものです。人は「嘘をついても良いか」といった単純な倫理的問題にはほぼ迷うことなく答えを出せます。しかし問題が複雑になって、たとえば「『優しい嘘』で友人を慰めても良いか」と問われれば、即答できる人は少なく、答えは人によって異なるでしょう。そして現代社会では、科学技術の発展や価値観の変化によって、新しくて答えにくい、複雑な問題が生じ続けています。このような問題に対処するには、問題を複数のより単純な問題へと解きほぐし、論点を整理し、一つずつ答えを出していくことが必要です。私はこの「問題の交通整理」といえる作業に取り組んでおり、クヴァンテの網羅的で精緻な議論をその手がかりにしようとしています。
修了後の予定
修了後は記者として新聞社に就職します。振り返ると、修士課程に進学を決めた時点では、修了後の進路を決めていませんでした。博士後期課程に進学して学問を究める道を魅力的に感じていましたが、それと同じくらい、社会の変化をリアルタイムで追う報道の道に興味を惹かれていました。生命倫理も現実の事例から議論を始めることが多々ありますから、現実の問題を追う報道という仕事への興味の素地があったのだと思います。研究の傍ら新聞社のインターンに参加するなどしてどちらの道に進むか悩んだ末、後者を選びました。
修士課程の残りの期間で先述の「問題の交通整理」の技術を磨き、就職後に取材執筆活動に役立てることで、文系の修士課程修了後に就職するというどちらかというと少数派である進路に自分なりの意味を見出したいと思います。
プロフィール
北海道出身。北海道札幌西高等学校卒業。早稲田大学文学部哲学コース卒業後、同大学院文学研究科哲学コースに進学。現在クヴァンテの人格論をテーマに研究。
(2023年2月作成)