金子麻詩歩(修士課程(英文学コース)在学生)
進学に際して
修士課程に進学したのは、就職前にもう少し自由に好きなことをやりたい、と漠然と思ったからです。私は英文学に限らず、色々な国・言語の文学に興味があったため、進学先を選ぶ際には大変悩みました。しかし学部の卒業論文でウィリアム・モリスの散文作品を扱ったことで、モリス研究の奥深さに惹かれ、英文学コースへの進学を決めました。進路に関しては他コースの先生も含め、多くの方々が親身に相談に乗ってくださり、大変ありがたかったです。
大学院生活
私が大学院に入学した年に新型コロナウイルスの流行が始まり、従来のように学生生活を謳歌できなったのは心残りです。しかし、教員と学生が協力して、なんとか大学院生活を充実させようと工夫を続けていました。そして困難な状況にあるからこそ、社会を俯瞰し、学びを得ようという前向きな雰囲気が生まれ、多くの学生の支えになっていたようです。
在学中、私は栩木伸明先生の研究室に所属していました。研究内容や研究の進め方などは各々に委ねられており、ゼミの授業は、自分で計画を立て、マイペースに学びたいことを追求できる、またとない機会でした。先生が学生の主体性を尊重し、「何事でもやってごらん」と背中を押してくださりながら、手厚いサポートもしてくださったのは、今でも印象に残っています。ゼミで私が行っていたのは長編物語詩の精読で、翻訳と解説、着眼点などを毎回10枚ほどのプリントにまとめ、それを元に先生やゼミ生と議論をしました。メンバーはそれぞれ研究分野が異なっていたので、臆することなく意見を言い合うことで、互いに視野を狭めることなく切磋琢磨できました。
また、開講される授業の多様さは文学研究科の最大の魅力でしょう。他コースや常勤の先生方の講義はもちろん、英文学コースに関して言えば、柴田元幸先生、中村和恵先生など、他大学に所属されている先生方の授業も開講されています。そのため、英米文学に限らず、インド文学やカリブ海文学など、英語で書かれた作品を余すことなく学ぶことができます。他にも、大学図書館のデータベースや、大学院生用のラウンジ、閲覧個室など、集中して勉強できる環境には大変助けられました。
研究にかけた思い
私の研究内容はヴィクトリア朝イングランドにおける中世北欧受容であったため、歴史や書誌学、文化史などの知識を、複数の言語の資料にあたって収集する必要がありました。そして論文を執筆する時には、それらの前提知識をどのようにわかりやすく説明するか、が大変重要になります。膨大な情報を取捨選択し、研究対象の作品の魅力を損なうことなく、わかりやすい言葉で自分の意見を論文に仕上げるというのは、非常に骨の折れる作業でした。先生のご指導のもと、自分の文章を俯瞰して適切な言葉を選ぶ訓練は、これから先、なかなかできるものではないと思います。
また、学生の自主性と自由を重んじる早稲田大学の雰囲気は、私の研究姿勢に合っていました。机に齧り付いて論文を読むだけではなく、何事も学びだと思い積極的に外に出て行き体験を重んじる。そうすることで、自分の研究とは関係がないように思える分野の知識や、フィールドワークで得た気付きなどが、研究に役立ったことも少なくありませんでした。
修士課程を振り返って
私にとって修士課程は、学ぶということの醍醐味を存分に味わった二年間でした。面白いと感じたものを追い求めること、粘り強く資料を集め、作品に向き合うこと、視野を広く持つこと、自分の意見や気付きを他者にわかりやすく説明すること。これらの経験は、今後の進路に関わらず、私を支えてくれる強みになると思います。大学院生活では大変なこともありましたが、その分、貴重な学びや気付き、経験をもたらす、何物にも変え難い時間を得られました。
プロフィール
新潟県生まれ。早稲田大学文学部英文学コース卒業後、同大学大学院文学研究科英文学コースに進学。在学中は英国における中世北欧受容、特にウィリアム・モリスの翻案叙事詩を研究。修士論文の題目は「ウィリアム・モリス『シグルド』研究」。
(2023年2月作成)