大澤穂高(修士課程(日本史学コース)在学生)
私が日本史学コースを志望した理由
私が日本史に関心を持ったきっかけは、小学生のときにNHK大河ドラマ「龍馬伝」を観たことでした。人物としてはなぜか坂本龍馬や高杉晋作ではなく徳川慶喜に興味を持ったのですが……。このドラマに影響され、将来は脚本家になって大河ドラマの脚本を書きたいと思っていました。学問としての日本史学に向き合うことを真剣に考えるようになったのは、高校生のときに家近良樹さんのご著書『江戸幕府崩壊』を読んだことが大きかったと思います。予備校の講習帰りに何気なく手に取った本だったのですが、『江戸幕府崩壊』で描かれていた幕末政治史の世界が非常に刺激的で、自分も幕末政治史の研究をしてみたいと思い早稲田大学文学部に進学しました。
学部に入学した時点では日本史に関わる仕事をしたいと考えるようになっていました。日本史に関わる仕事といえば研究者や中学高校の教員などがありますが、いずれにしても専門性が不可欠なので大学院に進学するというのは必然だったようにも思います。
日本史学コースの雰囲気、教員・学生などとの交流
日本史学コースに在籍する大学院生の研究テーマは極めて多様です。自分では触れたことのない分野を研究している学生が多く在籍しているので、研究指導を受けている近世史ゼミでの議論はもちろん、近現代史ゼミや他の時代を専攻する大学院生との日常的な会話からも日々刺激を受けています。
学部に比べて人数が少ない大学院は人間関係が重要なウェイトを占めてくるので、個人的にはそこを一番大事にしています。今はコロナ禍なので制限はありますが、三者協(学部生も交えたくずし字の勉強会)のメンバーや日本史コース室に集まっていた大学院生たちと夕飯を食べに行くこともありますし、そういう機会にはできるだけ顔を出すようにしています。孤独になりがちな大学院での研究生活だからこそゼミの時間以外での交流を通して励まし合い、愚痴を言い合うことも大切だと思いますし、私はそうした時間がとても好きです。
研究にかけた思い
大学に入学した頃はそこまで勉強熱心というわけでもなかったのですが、日本史コースに進級した学部2年生の夏頃から「日本史に関わる仕事をするならそろそろ本腰を入れなければ……」と思うようになりました。授業にきちんと(?)出席するのはもちろんですが、三者協に参加してくずし字の勉強をしたり、明治維新史学会の例会・大会に参加して専門の研究者たちがどのようなことを研究しているのか覗きに行ったりするようになったのもちょうどその頃で、そこで出会った方々には今も大変お世話になっています。
こうして少し焦り気味に研究をスタートさせ、卒業論文・修士論文は小学生の頃から興味を持っていた徳川慶喜を題材に執筆しました。大学院生の今になって思う慶喜の面白さは、幕末政治史においてキーとなる政治事項(出来事)のほぼすべてに関わっていた点、そして「近世近代移行期」とも呼ばれる時期にあって慶喜自身も近世的な政治理念と近代的な政治理念の狭間で揺れ動きながら最適解を見出そうとしていた点にあると思っています。幕末政治史の多様な論点をカバーする慶喜研究は今後ますます進展していくと思いますので、私も研究動向を追いながら自分なりに幕末政治史や慶喜への理解を深めていきたいと考えています。
修了後の予定
在学中にNHK大河ドラマ「青天を衝け」の制作に携わる機会がありました。研究で培ったスキルを活かしてドラマを支えていくという、やりがいのあるお仕事でとても楽しかったのですが、一方でスタッフさんや演者さんとご一緒するうちにドラマ制作を通してメッセージを届けることの意義を考えるようになりました。長らく日本史に関わる進路を模索していた私は「ここなら日本史に関わる仕事も、ドラマ制作もできる!」と思ってNHKの採用試験を受けました(無事、ディレクター職で内定をいただきました)。
入局後は様々なジャンルの番組制作に携わることになると思います。ただ、どのような番組を制作するにせよ日本史学の研究を通して身につけた「現代社会を相対化する視点」や「自己と社会の関係を問い続ける姿勢」は必要ですし、大きな影響力を持つテレビだからこそ、それを大切にしなければならないと考えています。
人文系の進路については色々な噂が流れていますが、研究姿勢を評価してくれる場所・研究を活かせる場所は必ずあると思っています(周りを見ていてもそう思います)。私の経験がどれだけ参考になるかはわかりませんが、人文系の大学院生が減っている今、一人でも多くの方が早稲田の文研で研究したい!と思ってくだされば私も嬉しいです。
プロフィール
千葉県出身。2021年、早稲田大学文学部文学科日本史コース卒業。2023年、早稲田大学大学院文学研究科人文科学専攻日本史学コース修士課程修了見込。学部在籍時より日本近世史(幕末維新期)をテーマに研究。修士論文の題目は「幕末期徳川政権による畿内防衛の構想と展開 ―禁裏御守衛総督・摂海防禦指揮をめぐって―」。修了後は日本放送協会(NHK)にディレクター職で入局予定。
(2023年2月作成)