本多まりえ(明治学院大学文学部 准教授)
研究者を志した理由
中高時代から英米文学や映画に関心があり、漠然と研究者を志していました。早稲田大学の学部2年生の時に故・大井邦雄先生の「英米演劇」を聴講し、シェイクスピアの面白さを知りました。いつも楽しそうに授業をされ舞台鑑賞に勤しむ姿を拝見し、大井先生のように好きなことを仕事にできればと思い、研究者の道を目指すことを決意しました。
英文学コースの雰囲気や学生生活
修士課程では大井先生にご指導頂きましたが、私の修了と共にご退職されたため、博士後期課程ではアンソニー・マーティン先生(2019年にご退職)の指導を受けました。私が博士後期課程に入った頃から副指導教授という制度ができ、冬木ひろみ先生にもご指導を頂き、ゼミにも参加させて頂きました。この制度は大変ありがたかったです。また、自発的に読書会を開催して下さる先生もいらっしゃり、シェイクスピアのソネットや文学理論の読書会に参加させて頂き、刺激を受けました。修士課程と比べ、博士後期課程では院生の雰囲気は全般的により真面目になりましたが、先生と学生との飲み会、学生同士の飲み会は定期的にあり、そのような場での学びも多かったです。
博士後期課程時代の研究に対する姿勢
修士課程では学部時代からの仲間が多く、まだ研究の厳しさも知らなかったため、楽しく過ごしましたが、博士後期課程に入ると本格的な研究生活が始まり、ゼミでの発表準備、学会発表の準備、論文の執筆など、研究に従事する時間が増え、忙しくなりました。博士論文のテーマは、シェイクスピアと同時代の印刷工で作家のヘンリー・チェトルでしたが、マイナーな人物のため資料があまりなく、海外から論文を取り寄せるなど、最初は苦労をしました。しかし、研究を重ねるうちに、知らないことを知る喜びを味わい、のめり込んでいきました。本記事のタイトルは、シェイクスピアの『夏の夜の夢』の「まことの恋が順調に進んだためしはない(“The course of true love never did run smooth”)」という台詞をもじったものですが、きちんとした研究には試行錯誤や失敗などの困難がつきものだと思います。
修了後、博士後期課程時代を振り返って
今の時代、大学教員になるには、公募で仕事を見つけるのが一般的ですが、博士後期課程を修了してすぐに専任職を得ることは難しく、私も苦労しました。しかし、「若い頃の苦労は買ってでもせよ」というように、博士後期課程時代に研究で苦労し、精神的に鍛えられたお陰で、そうした困難にも耐えられたのだと思います。研究に関しては、修了後は博士論文で一部取り上げた作家ロバート・グリーンやトマス・デッカーを研究しつつ、シェイクスピアの研究も行い、研究の幅を広げました。
早稲田大学大学院の博士後期課程に進んでよかった点は、「英文学コースの雰囲気や学生生活」で触れました先生方のご指導や院生との交流などの点ですが、院生について少し補足させて頂きます。博士後期課程には年配の方々や中国出身の方々も何人かいらっしゃり、前者からは人生についていろいろ教えて頂いたり、後者からは中国の風習や文化など教えて頂き、とても勉強になり視野も広がりました。早稲田がアジアで有名だという話は、恥ずかしながら中国出身の後輩から教わりました。ここ数年、早稲田とイギリスのバーミンガム大学が提携し、シェイクスピアに関する共同研究が行われ、冬木先生などの先生方が講演会やシンポジウムなどを両大学で開催されてきましたが、このような国際的なプロジェクトも、明治時代から海外に広く門戸を開いてきた早稲田だからこそ、実現できたのではないかと思います。人生は一度きりですので、早稲田の博士後期課程への入学を希望される方は、年齢や国籍に関係なく、チャレンジして頂きたいです。
プロフィール
早稲田大学第一文学部英文学専修卒業、早稲田大学大学院文学研究科英文学専攻修士課程・博士後期課程修了。博士(文学)早稲田大学。博士後期課程では、シェイクスピアと同時代の印刷工で作家のヘンリー・チェトルについて研究しつつ、バーミンガム大学大学院(The Shakespeare Institute)に一年間留学しM.A.を取得した。博士後期課程修了後、博士論文を基に日本学術振興会や東洋大学の出版助成を得て、著書Henry Chettles’s Careers: A Study of an Elizabethan Printer, Pamphleteer, Playwright(2015年、英宝社)を出版した。また、博士後期課程在学中に英文学コースの助手を務め、修了後は、早稲田大学他での非常勤講師、東洋大学での助教を経て、現在は明治学院大学で准教授としてシェイクスピアなどを教えている。詳細はこちらを参照。https://researchmap.jp/read0144749
(2022年2月作成)