椿田有希子(国際基督教大学教養学部助教)
私が早稲田大学で日本史の研究を志した理由
私は、もともと早稲田の出身ではありません。にもかかわらず、いずれは早稲田で学びたい!と切望しておりました。というのも、20歳そこそこの頃、当時第一文学部で教鞭をとられていた深谷克己先生(現、早大名誉教授)の数々の著作にすっかり魅了され、研究者を目指すなら他ならぬ早稲田で!と思い焦がれたからにほかなりません。
日本近世史ゼミの雰囲気
ところが、望みが叶ってようやく大学院から入学した早稲田ですが、最初の頃は非常に戸惑いました。というのも、基礎学力があまりにも不足しており、先輩たちの繰り広げる議論に全くついていけなかったからです。こんなことで私はこの先やっていけるのだろうか…等々、胃潰瘍になりかけるほど悩んだことも、幸い今や大学院時代の懐かしい思い出の一コマです。
研究にかけた思い
議論に必死に食らいつき、研究報告でダメ出しされたくないという後ろ向きな理由ながらも日々図書館に通い詰め、自分なりに励んだ結果、まがりなりにも次第に「研究を生涯の仕事にしたい」と思うようになりました。それには、日本史学コースの先生・諸先輩方や同期・後輩たちの、研究に対する真摯な姿勢が大きく影響しています。加えて、深谷先生のご退職後に着任された谷口眞子先生からは、なまなかな気持ちでは研究者としてやっていくことはできない、絶対にこの道で生きていくのだという強い覚悟が必要であることを陰に陽に教えていただきました。要するに私は、早稲田で、「歴史学徒たるもの、いかに生きるべきか、いかに社会に貢献すべきか」を体得したといえるでしょう。これは私にとって一生の財産です。
修了後、博士後期課程での生活を振り返って
紆余曲折を経て現在、私は、国際基督教大学(ICU)にて、日本近世史の授業を担当しています。早稲田で学んだ歴史学の現代的意義、すなわち歴史学とは決して過去の事象の暗記などではなく、現在の我々の立ち位置を再考し、さらには将来の我々がいかにあるべきかを模索するためのクリエイティブな学問であることを学生に伝え、ともに考察を深めるべく日々奮闘している最中です。こうした、未だ答えの出ない問いと自分自身も向き合いつつ、歴史学の楽しさを一人でも多くの学生に感じてもらうことこそが、早稲田で培った私の強みであり使命なのだと信じて、今後もより一層教育研究活動に献身する所存です。
プロフィール
神奈川県出身。横浜市立大学文理学部文科人文課程卒業後、早稲田大学大学院文学研究科史学(日本史)専攻修士課程に進学。2012年12月、博士(文学)早稲田大学。その後、早稲田大学文学学術院非常勤講師、神奈川県立公文書館非常勤職員等を経て、2021年4月から国際基督教大学教養学部助教。研究テーマは、江戸時代の政治・社会と民衆との関係性、近代以降における江戸時代イメージについて、ほか。
(2022年1月作成)