Graduate School of Letters, Arts and Sciences早稲田大学 大学院文学研究科

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生半可な院生、生半可な学者になる(英文学コース:萩埜亮さん)

萩埜亮(沖縄国際大学英米言語文化学科 専任講師)

 

私が英文学コースを志望した理由

私は中学・高校時代から漠然と「学者」という職業に憧れを抱いていました。最初は歴史を研究したいと思っていたのですが、大学入学を機に哲学へと関心が移り、4年生になる頃には哲学の純粋で理念的な世界ではなくもっと現実的で「泥臭い」ものに触れたくなり、文学研究者を目指すことに決めました。

アメリカ文学を専攻した大きな理由は、大学時代にジャズサークルに所属しアメリカ文化に興味を持ったことです。当時、トレイルランニングというスポーツにも凝っていたのですが、「ジャズとランニングとアメリカが好き」というだけの共通点で、「じゃあ村上春樹の好きなフィッツジェラルドを研究すればいいか」などと安易な気持ちで大学院進学を決めました。おまけに、「ニューヨークに留学すれば本場のジャズが聞き放題なのでは」という邪な動機も少なからずありました。思い立ってすぐ、当時の英文学コース室を訪問したところ、当時の助手の方が親切に試験対策や院の雰囲気、ゼミなどについていろいろと教えて下さり、おかげでちゃんと大学院入試に受かることができました。

英文学コースの雰囲気、教員・学生などとの交流

早稲田大学の大学院というと、文学マニアや天才肌の人がたくさん集まっているディープな場を想像するかもしれませんが、少なくとも私のいた頃は良い意味で「普通」の「常識人」な学生が多かったです。勉強だけでなく、飲み会やカラオケに行って学部時代の延長のようなことをしながら和気あいあいと楽しめるのは、他の大学院では珍しいかもしれません(特に文系は孤独になり易いので、仲間がいるのはとても心強いです)。

所属していた都甲幸治先生のゼミでは、修士から博士までみんなが参加して、互いの論考をレビューしていたのですが、「自分はまだ修士だから」といった遠慮を外して平等に意見を言い合える関係は今振り返ってもとても貴重なものだったと思います。それでいて、縦のつながりが強いおかげで、先生や先輩の活躍、先輩の留学の様子などを間近で見ることができ、研究者としてどんな風にステップアップしてゆくべきかという目標を立て易かったことも幸運でした。自分はとても怠惰な性格なので、ゼミの人間関係がなかったらダラダラと博士を過ごして今頃路頭に迷っていたかもしれません(笑)

研究にかけた思い

上で述べたように、研究者としてはあるまじき生半可な気持ちでフィッツジェラルドという作家を研究し始めたのですが、20世紀初頭のアメリカ文学、特にモダニズムと呼ばれる実験的な芸術運動(フィッツジェラルドはその代表的な一人です)について学ぶにつれ、その作品や時代背景の持つ雰囲気に魅了されていきました。元々フリー・ジャズのような実験的な音楽を愛聴していましたし、同時にコミックスや映画といった大衆文化の誕生や発展にも興味があったので、ハイカルチャーからポップカルチャーまであらゆるものがごった煮になったモダニズムについて勉強するのは本当に楽しかったです。修士・博士での研究活動自体はいろいろと反省すべき点もあるのですが、当時とにかく好きなことを好きなだけ勉強したことで、アメリカに留学してからの「伸びしろ」を大きくとることができたのかな、と都合良く解釈しています。

修了後、博士後期課程での生活を振り返って

修士・博士の間は、貸与型の奨学金を得ながら、塾講師のアルバイトをしていました。風呂なし6畳一間のアパートに住みながら古本屋に通ったり、図書館や喫茶店で勉強したり、いかにも「大学院生」といった感じの暮らしはとても楽しかったです。もちろん、同級生は大手企業に就職してバリバリ稼いでいたわけですが、マイペースなのか、少しも世を拗ねることなく、深夜のファミレスで好きな小説を読むような生活をむしろ豊かに感じていました。

現在は日本の大学で教員として働いていますが、幸いなことに「もっと勉強しておけばよかった」と思うことはありません(注:「もっと論文を書けばよかった」とか「もっと規則正しい生活をすればよかった」と痛感することはしょっちゅうです)。学部の授業はどうしても一つのことを深く深く掘り下げるのには限界がありますが、大学院は授業に参加する学生の数も少ないので、本当の意味での「学問」に触れたければ、絶対に大学院に行ったほうが良いと思います。私のような呑気な人間がなんとか就職できたのは運が良かったとしか思えませんが、きちんと目的意識を持って与えられた時間を大切に使って努力すれば、とても有意義な時間を過ごせると思います。

プロフィール

東京都出身。早稲田大学第一文学部哲学専修を卒業後、早稲田大学大学院文学研究科英文学コースに進学。博士後期課程を中退して、アメリカのニューヨーク州立ストーニーブルック大学の博士課程に留学。現在は日本の大学で講師。研究テーマはモダニズム、即興文化、アフリカ系アメリカ文学など。

(2022年3月作成)

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