赤松秀亮(別府大学文学部史学・文化財学科講師 日本中世史担当)
研究者への道
5歳の頃、NHK大河ドラマ『秀吉』を観たのがきっかけで歴史に興味を持ちました。そこからすっかり歴史少年となった私の幼少期の楽しみは、学習漫画や城郭・甲冑の写真集を眺めることや、親に頼んで博物館や史跡に連れて行ってもらうことでした。その後も歴史への関心が衰えることはなく、尊敬できる中高時代の恩師との出会いもあって、将来は中学・高校で日本史の教員になろうと文学部に進みました。
早稲田大学に入学し、日本史コースに進んで最も驚いたのは、高校までに習ってきた知識とは比べようもないほど、深く精緻な研究の世界が広がっていたことです。教員を目指すうえで、単に免許をとるのではなく、教科書の記述の根底にある研究という営みがどのようなものか、自分自身でも取り組んでみたいと思うようになり、大学院進学を選択しました。
修士課程を振り返って一番に思い出されるのは、とにかく忙しかったということです。自身の研究に加え、ゼミでの報告準備や当時非常勤講師を務めていた中学・高校での授業準備に追われているうちに、気づけば修士課程での生活も残すところ半年になっていました。その時期になって、ようやく研究を通して新たな発見をすることの魅力に気づき始め、さらに深い研究をしたいと思うようになりました。最終的に、博士後期課程(以下、博士課程)へ進む決断をするきっかけとなったのは、中高の教員として働きながら素晴らしい論考を世に問い続けている先輩研究者たちの存在です。ひと口に研究者として生きると言っても、様々なキャリアがあることに勇気づけられ、ライフワークとして研究を続けていくことを決意しました。
大学院に進学した時点では、研究者になろうとしていたわけではありませんでしたが、ゼミや研究会などで学問の最先端に触れるうちに、研究への思いが少しずつ大きくなっていきました。また、研究を続けるなかで様々な人との出会いや機会にも恵まれ現在に至っています。
日本中世史ゼミでの出会い
学部で日本中世史を専攻してから博士課程を修了するまで、荘園・村落史をテーマに海老澤衷先生(2019年3月退職)からご指導いただきました。研究領域が近いこともあり、多くのことを教えていただきましたが、落ちこんでいる時には優しく励まし、慢心している時には厳しく戒めるなど、先生の人情味溢れるご指導は研究を続けるうえでの力になりました。同じく、日本中世史の教員である久保健一郎先生は、一人の研究者として大学院生と向き合ってご指導くださいました。久保先生のゼミでの鋭い指摘や真摯な研究姿勢、豊かな学識は、研究者としてかくありたいという指針になっています。
加えて、同じ時期に在籍していた先輩・後輩とは日常での交流はもとより、海老澤ゼミでのフィールドワークや合宿では寝食を共にし、折々のゼミ懇親会時には時間を忘れて議論を交わすなど多くの刺激を受けました。また、鎌倉遺文研究会やゼミの共同研究では第一線で活躍しているゼミの先輩方と交流する機会も多く、折に触れて懇切なアドバイスをいただきました。研究者としてのモデルとなる先輩が多く、気軽に頼ることができる自由闊達さも日本中世史ゼミの魅力であると思っています。
研究にかけた思い
ほぼ決まっていた就職先をお断りして博士課程に進んだこともあり、それまでの人生で最も真剣に一日一日を過ごしました。いま振り返ってみても、あれほど頑張ったことはないというのが実感です。そうした日々のなかで、ひと際苦労したのが論文の執筆です。博士課程に進学してしばらくすると、先行研究や史料から新たな発見を導き出し、ゼミや研究会で手ごたえある口頭報告ができるようになってきました。しかしそれだけでは、博士課程を修了することはできません。自分の研究を論文にまとめ、それが査読のある全国的な学術雑誌に掲載されることが求められます。そのためには研究の内容を、筋道を立てて説得力をもって他者に説明できる論理的思考力や文章力が必要です。博士課程2年次頃までは査読誌への掲載にいたらない日々が続きました。それでもめげずに審査の所見から課題を洗い出し、周囲から意見をもらうことを通して、どのように論文を書いたら良いかがわかるようになっていきました。精魂込めて書いた文章が採用されず、鋭い指摘を突きつけられると時には落ち込むものですが、諦めずに論文を書き続けたことは人生の糧になっています。
博士後期課程での生活を振り返って
あっという間に過ぎ去った4年間で、あれほど悩み続けたこともなかったですが、研究を志す仲間が周りにいて勉学に打ち込むことができる夢のような日々だったと感じます。現在は、大学で講師として働いています。早稲田に入学した当初抱いていた教育への思いは今も変わらず、研究と教育を両立する充実した日々を送っています。
プロフィール
1990年、東京都生まれ。2013年、早稲田大学文学部日本史コースを卒業。同年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程日本史学コースに進学。2019年、同研究科博士後期課程を修了。博士(文学)早稲田大学。研究テーマは日本中世史(荘園・村落史)。早稲田中学・高等学校、本郷中学・高等学校などでの非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(DC2)、早稲田大学総合人文科学研究センター助教を経て、2020年4月より別府大学文学部史学・文化財学科講師(日本中世史担当)。