大須賀沙織(東京都立大学人文社会学部人文学科フランス語圏文化論教室 准教授)
私がフランス語フランス文学コースを志望した理由(研究者を志した理由)
私は早稲田大学第一文学部を卒業したあと、一度就職したのですが、長期の留学をしたいという思いがあり大学院に戻ってきました。バルザック研究を指導してくださる先生方がいらっしゃり、仏文の先生方はみな懐かしく、早稲田に戻ることが自然な選択でした。人前で話すことが苦手で、教壇に立って人に教えるなどということは、考えるだけで恐ろしいことだったので、研究者になろう、大学教員になろうと思ったことはありませんでした。むしろ国際機関や国際協力の仕事に就くことを夢見ていました。ただ、学部時代に出会ってから強く心を引き寄せられていたバルザックの『セラフィタ』という作品をよりよく理解したい、論文としてまとめたいという思いだけがありました。
フランス語フランス文学コースの雰囲気、教員・学生などとの交流
私にとって仏文は学部生の頃から居心地のよい場所だったようです。学部時代も穏やかな雰囲気の中でフランス語と文学の勉強ができる生活に至福を感じていて、ぜいたくで幸福な時間を過ごしているうちに4年が経ってしまい、卒業するときにはとても寂しさを感じました。大学院に戻ってきてからは、ゼミの中だけでなく、研究室の区別を越えて、先生方や先輩方と交流するなかで、留学や奨学金のことなどを教えていただくことが多く、こうした環境がどんなに恵まれていたか、あとになって知ることとなりました。ゼミでバルザックのテクストを読んだこと、書いたものにコメントをいただきながら修士論文の方向性を探っていったこと、今振り返ると貴重な時間でした。学会発表にも恐怖を感じていましたが、先輩方の様子を見ながら学び、ゼミで予行演習をしてコメントをいただきながら準備をしていくことができました。助教を務めていたときにも感じたことですが、フランスと不思議な縁で結ばれ、集まってきた人たち独特のやわらかな空気感があり、私にとっては自然体で過ごせる場所でした。
研究にかけた思い
修士論文と博士論文では、バルザックの神秘思想と、背景にあるキリスト教文化を深く理解したいという思いがありました。どこまで奨学金がつづくかわかりませんでしたし、就職がどれほどむずかしいかという話もたえず耳にしていましたが、研究職に就くというイメージがなかったために、与えられた環境の中で、できるところまでやろうという気持ちで目の前の課題に取り組んでいました。
修了後、博士後期課程での生活を振り返って
現在は東京都立大学で働いていますが、同じ仏文ということもあり、学生時代に学んできたことと助教時代の経験をそのまま生かすことができています。フランス語、フランス文学、フランスの歴史や文化について学部時代から学んできたことは、授業や卒論指導をする上で基礎になっています。研究の面では、博士論文を終えたあと、そのときごとに湧き上がってきた課題に取り組む中で、最近は古い時代にさかのぼることも多くなり、大学院時代にラテン語、ギリシア語、中世フランス語を少しでも学んでおいてよかったと感じています。それから、日々の仕事をしていく中で、何かを決めなくてはいけないときなどに、仏文の先生方との交流の中で交わした言葉がふと思い浮かび、指針となったり、心の支えになったりしています。早稲田からは離れましたが、同じ仏文ということで学会や研究会、論文審査などでときどきつながれることをうれしく思っています。
プロフィール
福島県出身。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業後、早稲田大学大学院文学研究科フランス文学専攻修士課程修了。早稲田大学大学院文学研究科フランス語フランス文学コース博士後期課程に進学後、パリ第4・ソルボンヌ大学フランス文学専攻に留学、Master 2 課程修了、Doctorat 課程修了、博士(文学)。フランス語フランス文学コース助教を経て、現在は東京都立大学人文社会学部人文学科フランス語圏文化論教室准教授。