School of Human Sciences早稲田大学 人間科学部

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人間の祖先は高温を好む? 共通祖先生物の性質の判明に前進

早稲田大学人間科学学術院の赤沼哲史准教授と、東京薬科大学生命科学部応用生命科学科の山岸明彦教授、横堀伸一講師らの共同研究により、全生物の共通祖先生物が90℃以上の環境に生息した超好熱菌であったことが推測されました。地球最古の生物に関する膨大なゲノムデータを比較解析する新しい研究手法により得たこの研究成果は、化石や微化石からは得られないものです。本研究の手法を用いて全生物の共通祖先生物の多くの遺伝子やタンパク質を復元することによって、全生物の共通祖先生物の性質が次第に判明すれば、生命の起源の解明に向けた有力な手がかりが得られると期待されます。

 現在地球上に生息するすべての生物は、共通の遺伝の仕組み、タンパク質をつくる仕組みを持っており、基本的な代謝系も共通しており、こうした事実からも、地球上のすべての生物の共通祖先となる生物が存在したと考えられます。その全生物の共通祖先生物については、1990年代前半には超好熱菌であるという考えが主流でしたが、2000年代に入るもっと低い温度で生息した常温性の生物であったという考えが多く発表されるようになり、どちらの意見についても、その裏付けとなる実験的な証拠は得られていませんでした。

図1

図1.生物の進化系統樹(Woese et al., (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8467–8471を改変)。80℃以上で生息する超好熱菌の系統(赤線)が根元付近に集中している。

 2013年にPNAS誌上で発表した先行研究 (Akanuma et al., (2013) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (27), 11067-11072) では、復元した祖先NDK(多くの生物が持つヌクレオシド二リン酸キナーゼと呼ばれるタンパク質のアミノ酸配列)が90℃を超える高温でも安定であることを明らかにしていましたが、この発表に対していくつかの批判がありました。

2013年の論文への批判を受けて今回の研究では、 超好熱菌が持つアミノ酸配列を含まないデーターセットを用い、あるいは、不均一アミノ酸置換モデルを用いて祖先NDKのアミノ酸配列を推定し直し、改めて全生物の共通祖先生物のNDKを復元しました。再推定した祖先NDKが機能を失う温度の解析をおこなったところ、100℃を超える高温でも安定であることが分かりました。今回の結果からは、全生物の共通祖先生物が2013年の論文で報告したよりも高い温度の環境に生息した超好熱菌であったことが推測されました。

図2

図2.全生物の共通祖先生物が持っていたと推定されるNDKの熱変性曲線。異なる方法で推定し復元した3つの祖先NDKはいずれも105℃までは壊れることなく安定に存在した。3つの祖先NDKのうちの2つは105℃から、もう一つは110℃から変性しはじめ、115℃、あるいは、120℃で完全に変性し、機能を失った。

図3

図3.全生物の共通祖先生物の生育温度の推定。灰色の点で示した現存する微生物の至適生育温度とその微生物が持つNDKの変性温度との関係を表す検量線と、推定・復元した全生物の共通祖先生物のNDKの変性の中点温度(109℃~115℃)から、全生物の共通祖先生物の生育温度は94℃~101℃と推定された。

 全生物の共通祖先生物は今から38億年前頃に生息していたと推定されます。しかし、今から41億年前には既に生物が存在していたことを示す痕跡が最近報告され、全生物の共通祖先生物よりも数億年前には地球に生物が誕生していたと思われています。全生物の共通祖先生物よりも以前の生物はどのような生物だったのでしょうか?生命の誕生から全生物の共通祖先生物に至る間にはどのような進化があったのでしょうか?近い将来、多数の祖先生物の遺伝子やタンパク質が復元され、解析されることによって、初期生物の進化の道筋と地球環境の変遷について今まで以上に有力な手がかりが得られることも期待されます。

なお本研究は、国際学術雑誌Evolution 2015年11月号(69巻11号)に掲載されており、自然科学研究機構新分野創成センター宇宙における生命研究分野プロジェクト、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「冥王代生命学の創成」、基盤研究(B)の支援を受けて行われたものです。

 

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