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武田京三郎 教授(理工学術院退職教員寄贈本文庫)


武田 京三郎 教授

【ご寄贈図書】
神谷美恵子『若き日の日記』(新装版)みすず書房 2014年出版

【武田京三郎先生からいただいたご寄贈図書にまつわる文章】
今となっては、いつ・どのような経緯でこの本を手に取ったかは定かではありません。しかしながら手元の奥付を見ますと1984年となっておりますので(寄贈本は新装版)、1983年博士課程修了後電電公社武蔵野電気通信研究所(通研、後のNTT基礎研)に勤務して1年ほどの時と考えられます。通研での課題であるSi骨格高分子―ポリシラン―の電子構造の理論解明に明け暮れていた当時ですが、博士号は頂いたものの能力不足の為一向にその方向性と成果が見えず、もがいていた時だったと記憶します。

そんな苦しい時、経緯は判りませんが手にしたのがこの図書です。本を開いて何よりも驚いた事は、著者前田美恵子氏(神谷さんの旧姓)の真摯で且つ粛然たる生き方です。戦時中と言う時代背景があるのかも知れませんが、学問へのまるで身命を賭して取り組む姿勢は、これまで安穏と生ぬるく生きてきた自分への痛烈なる一撃として心を震わせ駆け巡りました。とりわけ女子に対する高等教育に理解が少なかった(であろう)当時、これほどまでに苛烈に自身を律して教育を受けようとする彼女の姿勢は私自身への戒めとなり、以来講義でも時々その有り様を紹介しました。

彼女の著作への魅了には二つ理由があります。一つは『文の力』です。自然科学と相対する我々には論文発表を以てその成果を伝達しなければなりません。その為には真実を忠実に文字列として記載しますが、その表象には科学論文とは言え人を惹きつける『文の力』が必要です。直ぐ思い浮かべられるのは、寺田寅彦博士に始まり、湯川秀樹博士や朝永振一郎博士等々、多くの近代日本の傑出した科学者は同時に素晴らしい随筆家でもありました。彼らは日常を記録し、随筆を通して『文の力』を養っていたと思われます。否、それ以上に眼前の事象を感性のままに言語化する才幹に溢れていたのでしょう。もう一つは『教養の涵養』です。とりわけ社会組織の最小単位である家庭や職場での日常会話を介しての涵養です。戦時中の得てして心がさつく日々でも、自らを失うこと無く互いに尊敬し合う日本的原風景への私自身の憧憬でもあります。これらは自然科学と相対する仕事を生業としたこの半生の間、私にとって大切なものとして心に残り続けております。

【プロフィール】
昭和30年10月 東京生まれ
昭和53年3月  慶應義塾大学工学部卒
昭和58年3月  慶應義塾大学工学研究科博士課程修了、工学博士
昭和58年4月  日本電信電話公社武蔵野電気通信研究所入所、NTT基礎研究所主任研究員を経て
平成7年4月   早稲田大学理工学部 助教授、同理工学術院教授を経て
令和8年3月   早稲田大学定年退職

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