ゾウ害を防ぐために私たちにできること~マジぱねぇゾウ害~(第3回/全4回)
執筆:創造理工学部2年 大久保優哉
GEC科目「アフリカゾウとの共生を実践するボランティア」では、ゾウ害について学び、実際に現地に赴きその実態を調査しました。そして、調査後にはゾウ害を防ぐために私たちに何ができるかを話し合いました。全4回で配信している「マジぱねぇゾウ害」シリーズ、今回はその第3回としてゾウ害を防ぐために私たちにできることを紹介します。
“ゾウ害”とはゾウが村の耕作地を襲撃して食べてしまい、村の住民が作物の収穫ができなくなる被害のことです。前回の記事で、ワイヤーフェンスを設置することやパトロールを行うことが“ゾウ害”を防ぐのに効果的であると述べました。しかし、ワイヤーフェンスを設置するにはワイヤーを購入するお金が必要ですし、パトロールを行うにもその際に必要な懐中電灯や爆竹音を鳴らす道具を購入するお金が必要です。生々しい話になりますが、現地の方々に物資購入の資金を提供することもゾウ害を防ぐために私たちができることの1つです。
彼らが行うパトロールは簡単なものではありません。一度ゾウに畑を荒らされたら、その期は収穫できなくなってしまうので、彼らは毎晩夜通しでパトロールを行います。また、彼らのパトロールは毎回全員参加が原則です。そのため、住民の睡眠時間が1日2〜3時間程度になるという“ゾウ害”による二次被害まで生じています。パトロールを取り巻く状況を改善するために私たちは彼らに2つのことができると考えました。
その1つは見張り小屋建設の手伝いをすることです。彼らはパトロールを雨の夜も寒い夜も行います。しかし、彼らにはそれらを凌ぐための施設がありません。そこで、見晴らしの良い高台に見張り小屋を設置することでパトロールの負担を軽くすることができます。私たちは、実際に現地で見張り小屋建設の手伝いをしてきました。
2つ目は、パトロールの効率化を図ることです。先に述べたとおり、現在パトロールは毎日全員参加が原則となっています。ゾウが襲撃にくるのは年に100日ほどです。かなり頻度が高いので人員が必要なのはわかりますが、それでも毎日全員参加というのは負担がとても大きいと思います。そこで、ゾウ襲撃の記録からゾウが襲撃する可能性の高い期間を予測することで、毎回のパトロールの人員を減らし、交替で休めるようにすることで彼らの生活を楽にすることができるのではないかと考えました。
この記録には「襲撃日」や「襲撃してきたゾウの数」「襲撃時刻」「被害状況」などの情報が記載されています。私はこれらのデータが気象条件と関連しているのではないかという仮説をたてました。月毎のゾウ害の状況と気象条件をまとめたものが表1になります。そして、気象条件とゾウ害の状況の関連を調べたものが表2になります。
表2からは降水量と襲撃回数、最低気温と襲撃回数の相関係数が、絶対値で0.5以上と強い相関がみてとれます。また、降水量と平均頭数,平均侵入時刻、平均気温と平均頭数にも弱い相関があることがわかります。すなわち、降水量が多いとゾウは襲撃する可能性が低くなり、襲撃したとしてもその頭数は少なく、早い時間帯であると考えることができます。更に最低気温が低いと襲撃の可能性は低くなり、平均気温が高いと襲撃するゾウの数が多くなるとも考えられます。このことから雨が続いている時や夜の気温が低いときは人員を少なくし、反対に日中の気温が高いときは人員を多く用意することで効率的なパトロールが行えるようになると思います。
ただし、上記の結果は月毎の結果であること、また(対象の村の気象情報を得ることができなかったため)近い地方の気象情報で代替していることなどから、必ずしも結果が正しいとは限りません。より正確に調べるにはより丁寧な情報収集が必要となります。
上記の活動は“ゾウ害”を最小限に食い止めるだけの方策に過ぎず、根本的な問題の解決には至りません。なぜなら、ゾウを追い払っても再び襲いにくるからです。根本的に問題を解決するにはタンザニア政府を動かす何かが必要となります。その何かが何であるかはまだわかりません。ただ、もしかしたらそれは外国からの声かもしれません。地道ではありますが、私たちは“野生の王国を守るために、現地住民の生活が脅かされている”という事実があることを1人でも多くの方に知ってもらいたいと思います。そして、この事実を誰かに伝えることがこの記事を読んでくださった皆さんにできることかもしれません。
そして、私たちはゾウ害を伝えるツールとして、LINEスタンプを作成しました!!「うざいゾウ」というスタンプです。ぜひ、LINEで検索して、使ってみてください!このスタンプを使いながらゾウ害問題を思い起こしてもらえればうれしいです。さらには、使った相手に、この問題のことを伝えてもらえたら最高です。この問題を知る人が増えていけば、やがては問題の解決につながると私たちは信じています。
さて、次回「マジぱねぇゾウ害」シリーズの最終回では私たちが現地で1番印象に残ったことについて、述べようと思います。
【参考文献】
[1] 気象庁 タンザニア 平年値データhttp://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/nrmlist/NrmMonth.php?stn=63862
[2] CLIMATE-DATA.ORG