2017年4月からスタートした早稲田ボランティアプロジェクト（通称：ワボプロ）の活動を紹介します。
ワボプロ活動紹介 自分ではない誰かの視点に立つこと
会社で、学校で、通勤電車の中で、コミュニティで……、日常の様々な場面で起こる「問題」の根源にあるものは何だろう。それを解きほぐす方法が分かれば、社会はもっとよくなるんじゃないか。
私たちactはそのような思いから活動を行っています。
まずは、日常生活で、社会生活の中で起こった「なんか、ひっかかるな」と感じる出来事を解きほぐすために再現をしてみます。その時にポイントとなるのは、自分ではない誰かの視点に立つこと。それを具体的に行うために、自分ではない誰かになる＝演じてみるという方法をとります。
actはこの方法を使って、課題の山積する高齢化団地など様々な場所に出かけていって、そこに暮らす人々と共にリアルに起こっているコミュニティの課題にアプローチしています。
今回は、そのような活動とは異なり、この方法を様々な人に体験してもらおうという主旨で早稲田小劇場どらま館でおこなったイベントについて紹介します。
参加者（観客）は学生だけではなく、一般の社会人も多くいました。私たちは日常で実際に体験した「なんか、ひっかかるな」と感じた出来事を３シーン選び、観客の前で再現して見せました。そして、その登場人物になり代わり演じた学生たちが「その人物として」どのようにこの出来事が見えたかということを、いわば「代弁」するように丁寧に解きほぐしていきました。
例えば、開演直前の劇場。ある学生は目の前に白杖の杖を持った方がいるのに気づきます。開演直前なので自分も急いでいるけれど、事情が分かるから仕方ないなと見守ります。何か手を差し伸べた方がいいのかもしれないけれど、迷惑かもしれないし……。そんな風に逡巡しているとき、後ろから声が聞こえます。
「なんか、進むの遅くない？もうすぐ開演だから早く席に着きたいのにね」
友人づれの２人組の若い女性が、ぶつぶつ文句を言っています。自分は白杖の方の真後ろにいるので事情が分かるのですが、その子たちからは見えていないらしいのです。内心はらはらしましたが、彼女たちに事情を話す勇気もなく……。
そんな、もやもやを抱えたまま自分は着席し、白杖の方は自分の席を見つけるのに苦労しながらようやく着席できたようです。
このような場面で、あなたがこの主人公だったら、あるいは、白杖の杖を持った方であったら、２人組の女性であったら、どのような「心の声」をつぶやくと思いますか？
想像しただけでも沢山のつぶやきが胸に浮かぶかもしれませんが、実際に「その人になってみる」（＝演じてみる）と、頭で想像していなかった様々な視点や気持ちに気づきます。
このイベントでは、初めにこの再現を観客席から見ていた時には「白杖の方がスムーズに席に着けるように手伝ってあげればいいのに」という意見をもっていた観客の方が、実際に演じてみることで「手伝うといってもタイミング的に非常に難しかった」と実感したと感想を述べていました。また、白杖の杖を持った役を演じていた学生からは「自分のリズムで白杖の感覚を頼りに全神経を集中させて移動している時に、突然声をかけられたり、身体に触れられた時には正直、びっくりして方向感覚を失った」という感想も聞かれました。
また、「劇場の従業員が支援すればいいのでは？」という意見が観客から出たので、実際にスタッフが声をかけながら席まで誘導するバージョンを再現しました。しかし、その行為が仰々しく感じる人や、スタッフが「仕事」として支援していることで、かえって「他人事」と感じて無関心になるなどの実感も話されました。
このように、自分の視点から、あるいは第三者的な視点から見ているだけは気づかない世界が、実際に相手に「なってみる」ことで開かれるのです。その時にひらめく解決策は、普段の自分の発想からは生まれないクリエイティブなものであるかもしれません。
