【教員便り】福島スタディツアー「福島でアート」実施報告
兵藤 智佳 准教授(平山郁夫記念ボランティアセンター)
「心のカーテンを開ける」
プログラム名:福島復興アートスタディツアー「福島でアート」
活動実施日:2026年5月2日(土)~5月3日(日)
活動場所:福島県富岡町

ゴールデンウィークの晴れ渡る青空の下、「今の福島を自分の足で歩き、布を使ってカーテンをつくるスタディツアー」が東北芸術工科大学との共催で行われた。東日本大震災と福島第一原発事故から15年が経つ福島県には、いまだ帰還が困難な地域があり、人々の帰らない家々のカーテンは閉まったままだ。参加学生たちは、「持ち寄った布切れでカーテンをつくり、自分たちの手でカーテンを開けたい」という思いで、富岡町の街歩きをして、住民に布の提供を呼び掛けた。町で唯一のスーパーマーケットの前で制作は行われたが、100人しかいない町の小中学生のうち、10名の子供たちも会場に集まった。
そして、みんなで一緒につくったカーテンは、どこから見ても「カーテン」には見えないものになった。それでも、一つ一つの布には、今、その町に住む人たちの物語がある。亡くなった妻の着物を差し出そうとした高齢男性もいた。たくさんの布が集まり、大学生たちは、みんなで一緒に「カーテンのようなもの」をつくった。その場は、アートの実践である。「それにどんな意味があるか」を考えるのではなく、自分が感じるがままに、思うがままに自由に表現するのが活動のひとつの目的だった。最初は、「どうすればよいのか」と発想していた早稲田の学生たちが、「どうしたいか」に集中するようになり、気がついたら、「カーテン」の周りで子供たちとの鬼ごっこに夢中になっていた。
一方で、夜に行ったふりかえりでは、参加した大学生が「自由にやってと言われたらどうしていいかわからない」「自分が本当にやりたいことがない」と言い始めた。それは、「そんなことを言ったら恥ずかしい」と思って、これまで言えなかった思いだから、言葉にしたら気持ちが溢れた。参加した学生たちは、福島で、自分の思うがままにアートを制作してみたり、人のいない道路に寝転んでみたら世界が少しだけ違って見えるようになったし、「なんだかおもしろい」と感じたのだ。東京での自分たちの日常が「やらなくてはならないこと」に縛られていることも発見した。
「閉じていた福島の家のカーテンを開ける」はずだった今回のスタディツアーは、やってみたら「大学生の心のカーテンを開ける」活動になった。そして、心のカーテンを開けてみたら、そこに住む人たちが集まってきたし、手作りのお餅も持ってきてくれた。「復興支援」という名前では伝えきれない小さな実践がそこにはあるし、その価値を感じた学生たちは、次なる福島での活動を模索し始めている。
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