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News through 2023

2023年度までのニュース

開催報告:産学協同シンポジウム「人流データ 活用の進展」

スーパーグローバル大学創成支援実証政治経済学拠点では、 2023 年 3 月 1 日に「人流データ活用の進展(Advances in Utilizing Mobile Location Data) 」と題して、人流データ に関するオンライン産学協同シンポジウムを開催しました。

シンポジウム概要

【第一部】

ドコモの 8500 万サンプルのデータから作られる人流データの可能性
浅野 礼子(株式会社ドコモ・インサイトマーケティング)

【第二部】

“Invisible Killer”: Seasonal Allergy and Accidents
明坂 弥香(神戸大学 経済経営研究所 助教)

How Long Do Voluntary Lockdowns Keep People at Home? The Role of Social Capital during the COVID-19 Pandemic
黒田 雄太(大阪公立大学 大学院経済学研究科 准教授)

Nightless City: Impacts of Policymakers’ Questions on Overtime Work of Government Officials
片山 宗親(早稲田大学 政治経済学術院 准教授) 研究者データベース

第一部では、8500万台の携帯電話の基地局へのアクセス情報によって構築される人流データの現状を学生たちに紹介することを目的とし、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの浅野礼子氏が人流データの基礎と実際的な応用例について説明しました。パネリストと参加者も含め、人流データの潜在的な活用法について活発な議論が行われ、現在実装中の新しい機能などについても紹介がありました。

第二部では、近年の経済学の研究でどのように人流データを利用しているかについて紹介されました。神戸大学の明坂弥香氏は花粉症と事故の関係について報告を行い、人流データを用いて花粉回避行動の程度を類推する方法を紹介しました。大阪公立大学の黒田雄太氏は、人流データから作成された市区町村レベルのモビリティー指数をもとに、コロナ禍における社会資本と移動の関係を分析する研究を紹介しました。最後に、早稲田大学の片山宗親(筆者)は、外生的な仕事量の増加が霞が関で働く官僚の残業時間に対する影響を推定する研究について発表しました。シンポジウムの第二部は、パネリストと参加者による活発な議論で締め括られました。このイベントは、学生や専門家が人流データの最先端の現状とさまざまな分野での潜在的な活用方法について学ぶ機会を提供しました。

 

参加学生報告

経済学研究科 修士課程2年 遠山拓也

シンポジウムでは、人流データがどのように実務及び研究に利用されているのか、紹介していただきました。会場では、多くの質問が寄せられており、盛り上がりを見せていました。また、先生方が研究に対して、議論をしており、研究が洗練されるのを間近に見ることができ、非常に勉強になりました。

プログラムの第一部では、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの浅野さんがドコモの保有している人流データとその応用例について、講演しました。紹介していただいた応用例で興味深かったものをあげると、商業施設の利用者数を見ることで、企業の業績を予測するというものです。これにより、株式投資が有利に働くことから、金融機関のビジネスチャンスがあるように思いました。また、他の興味深かった応用例として、人々がどのような交通機関を利用しているのかを把握するというものです。この結果をうまく使うことができれば、満員電車が少しでも解消していくのではないかと感じました。

プログラムの第二部では、先生方の現在取り組んでいる研究についての講演でした。明坂先生は花粉と事故の関係について、講演しました。花粉が活発になる時期に、人々の行動が変化するのかについて調べるために、人流データを利用していました。花粉をテーマにした斬新的な研究で、非常に勉強になりました。次に、黒田先生は、コロナ禍においての人流について、講演しました。選挙の投票率が高い地域であれば、コロナ禍において、自粛していたことが結果として出ており、興味深いと思いました。最後に、片山先生が霞ヶ関の官僚の残業について、講演しました。霞ヶ関の人流データを使用して、官僚の残業を把握していました。このような残業の把握方法が今までにない切り口で、非常に斬新だと感じました。

私自身、将来の経済状態の予測に興味があり、人流データが経済予測に有用であると感じました。具体的には、人流データを利用すれば、企業の生産活動を政府の統計が出る前に把握できる可能性があります。今後、シンポジウムで学んだことを活かして、研究を行っていきたいです。

政治経済学部経済学科 4年 豊野拓巳

一年前に開催されたスーパーグローバル大学創成支援事業ワークショップ「携帯電話の位置情報の活用手法」において、携帯電話の位置情報の特徴やその可能性を知ることができましたが、携帯電話の位置情報データ(人流データ)が経済学の近年の実証研究において具体的にどのように用いられているかをより深く学びたいと考え、今回のシンポジウムに参加しました。本シンポジウムは二部構成で、第一部では、日本国内の人流データの一種であるドコモのモバイル空間統計の提供内容やその活用事例が紹介され、第二部では、本データを使用した経済学における実証研究の報告が3件行われました。第一部で人流データに関する詳細な説明を聞いたのちに、第二部で本データを用いた研究報告を聞くという流れで構成されていたため、人流データに関する理解を深めつつ、研究においてどのような条件下で本データを活用できるかを考えることができ、将来の自分自身の研究の方向性を検討するうえでも大変有益な機会となりました。また、本シンポジウムでは、学内の学部生や大学院生、大学教員のみならず、学外の方々も多く参加されていて、ディスカッションの時間も活発な議論で盛り上がりました。

第一部では、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの担当の方から、人流データに関する詳細な解説を伺いました。具体的には、人流データによって日本国内居住者のみならず、訪日外国人の分布や移動までとらえられることなど、本データの特徴を学びました。とくに人流データの長所として、基地局にもとづいて得られる人流データは、GPSとは異なり、電源をオンにしているだけで確実にデータが取得できることや、GPSよりも大きなサンプルサイズが得られるという点で質の高いデータであることを知り、人流データを用いることの強みを理解することができました。また、人流データの解説に加えて、その活用事例についても数多く紹介されました。具体的には、人流データは渋滞予知、都市変化の把握、出店計画、公共交通、防災、訪日外国人観光など、多岐にわたる分野に応用されていることを知りました。これらの応用事例を通じて、人流データは、私たちを取り巻く経済社会のさまざまな構造を明らかにし、よりよい政策提言を行ううえで、大変貴重なデータであることを実感しました。さらに、アカデミアのみならず、たとえば出店計画の検討における材料としてなど、日本中の企業や自治体が人流データを活用できる可能性も高まっていることを知り、人流データの実社会での有用性を再認識しました。
第二部では、人流データを用いた経済学分野における3つの実証研究が紹介されました。それぞれの発表について、どのように人流データが活用されているかを意識しながら拝聴しました。

1つ目の研究「“Invisible Killer”: Seasonal Allergy and Accidents」では、花粉の飛散により交通事故が増えるのかという問いを検証し、実際に花粉の飛散が交通事故を増やすことを示し、一方で花粉との接触機会を自発的に回避する傾向はみられなかったことを明らかにされていました。花粉という身近な題材を対象とする着眼点が素晴らしく、また複数のデータを組み合わせて分析を行うことで、説得力のある議論につなげられることを学びました。とくに人流データについては、花粉の接触に対する回避行動として、外出を控えたかどうかを把握するために活用されていて、本データのひとつの活用法として大変勉強になりました。

2つ目の研究「How Long Do Voluntary Lockdowns Keep People at Home? The Role of Social Capital during the COVID-19 Pandemic」では、コロナ禍における緊急事態宣言の効果がソーシャル・キャピタルの多寡によってどのように異なるかという問いを、パンデミックの時期による効果の異質性にも注意を払いながら検証し、ソーシャル・キャピタルが低い地域では高い地域よりも、緊急事態宣言下で政策の目標とは逆に外出を増やす傾向がみられ、その傾向はパンデミックが進むにつれて強まることを示されていました。コロナ禍において適切な政策的対応が要求されているなか、本研究は、緊急事態宣言の効果を評価するうえで、ソーシャル・キャピタルの多寡という重要な視点を提供する価値の高い研究であると思いました。人流データを用いることで、対象者が自身の居住地域にいるかどうかの情報まで取得できることから、緊急事態宣言下の外出の有無まで識別できるという点に、本データに対する新たな学びが得られました。

3つ目の研究「Nightless City: Impacts of Policymakers’ Questions on Overtime Work of Government Officials」は、一年前のシンポジウムでも伺った内容でしたが、質問主意書が霞が関の官僚の残業にどのような影響を与えるのかを検証し、質問主意書の受け取りによって官僚の残業が有意に上昇することを明らかにされていました。人流データの応用方法が斬新で、日本でかねてより問題となっている官僚の長時間労働の問題を、人流データを用いて、霞が関における人数の変化によって検討している点が大変興味深いと思いました。また、1つ目と2つ目の研究が分析対象となる具体的な地域を定めていなかったのに対して、本研究は霞が関という特定の地域を研究対象とされていたことから、人流データの活用方法として、日本全体だけでなく、日本のある特定の地域に焦点を当てて、その地域での人びとの移動をとらえるアプローチでの研究も可能であるという知見も得られました。

地理情報システムが急速な広がりをみせるなか、今回紹介された人流データは、経済学などの社会科学の諸分野で、研究で幅広く活用されていくことになるのではないかと考えています。人流データは、日本国内での人びとの位置をほぼ正確にとらえているため、人間行動に関わる研究であれば、活用事例は数多くあるに違いありません。私が関心のある医療経済学や教育経済学でも、本シンポジウムでも紹介されたコロナ禍の緊急事態宣言などの非医学的介入を含め、人流データを活用できる可能性は大きいと考えています。これまでに経済学の実証研究で広く用いられてきた行政業務データやサーベイデータに加えて、人流データの活用も視野に入れながら、研究活動に取り組んでいければと思います。

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