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「翻訳の力―詩歌を訳す?―」開催報告

2019年11月15日、早稲田大学総合人文科学研究センター「創作と翻訳の超領域的研究」部門主催、スーパーグローバル大学創成支援事業 国際日本学拠点共催にて、「翻訳の力―詩歌を訳す?」をテーマとして講演とワークショップ「翻訳合」およびディスカッションを行った。冒頭、部門代表より挨拶があり、総合司会の趣旨説明のもとにまず第一部として「六百番歌合」を翻訳し、その出版を間近に控えたマッコーリ氏と与謝野晶子をはじめとする詩歌の訳業で知られるバイチマン氏による講演がなされた。

まずマッコーリ氏は、翻訳者が異文化のテクストを読者の文化圏に引き寄せた形で訳す(自国化:domestication)べきか、それともテクストの生まれた文化圏の異質性を残したまま訳す(異国化:foreignization)べきか、という翻訳の根本に横たわる問題を提示し、古典文学の翻訳の場合はそこにテクストの生まれた前近代と読者の属する現代文化の間に生じるもうひとつの差異が加わるという点を指摘した。このような問題設定のもと、マッコーリ氏は、五七五七七という形式、歌枕や掛詞による意味の二重化、本歌取りに見られるインターテクスチュアリティなど、和歌の翻訳者が直面する課題を具体的な英訳例に基づいて丁寧に紹介し、論じたが、それは同時に翻訳という営みが和歌という文学ジャンルの精細さと豊かさをより鮮明に聴衆に感じさせるという点でも、強く「翻訳の力」を訴えることとなった。

続いてバイチマン氏は、自ら翻訳された与謝野晶子『佐保姫』からいくつか作品をとりあげ、マッコーリ氏の提起した論点にしばしば言及しながら、実際の翻訳過程においてどのような判断と選択が求められるかという事例を実際的に示した。訳語の選択から行のわかち方、そして「散らし書き」の視覚的な効果をどのように翻訳にとどめるか、という困難な作業を紹介し、さらに自己の翻訳を推敲していく過程を詳細にたどることで、優れた翻訳行為が必然的に深く細緻な解釈行為を伴うあり様を強く聴衆に印象づけるものとなった。

両氏の発表に続いてワトソン氏によるコメントが予定されていたが、急なご入院により、講演資料に基づいてあらかじめ入院先で収録された録画によるコメントとなった。ワトソン氏は、両氏の講演内容に踏まえながら、マッコーリ氏の講演については、翻訳の受容における心身状況の影響に言及し、また何行に訳出するかという問題提起に対して、他の翻訳例も参照することで補強し、深化させた。バイチマン氏の講演についても、提起された訳文におけるフォーマットの問題からさらに電子媒体における表現の可能性に触れ、また音イメージの問題など、講演の論点を発展的に取り上げることで、多くの示唆をもたらしてくれた。

この後、休憩を挟んで第二部の「ワークショップ「翻訳合」&ディスカッション」に移った。これは今回の催しの企画者の一人であり司会を務めた緑川氏の発案により、古来より行われた「歌合(うたあわせ)」を詩歌の翻訳において行おうとするものであり、知る限りでは前例を見ないユニークな試みとなった。具体的には、ウォーラー氏が和歌、ハウウェン氏が短歌からいわば「お題」として翻訳対象となる作品を示し、これに対して国際日本文化プログラム(JCulP)に所属する学部学生が試訳を提出、補足説明の後に、出題者がコメント、そのうえで自身の訳を示して解説を行う、というものである。

まず、ウォーラー氏より出題された『金葉和歌集』中の大納言経信作和歌と『新古今和歌集』より前大僧正慈円の和歌について、3名の学生による試訳の披露と説明がなされた。ともに第一部の講演の中で示された枕詞や文字(音節)数などの長短やリズム、またテクストの表面では直接指示されない作者の感情などをどこまで/どのように英語訳に移すか、という問題について真摯な検討がなされたことがうかがえるものであった。またそれに対してウォーラー氏が与えたコメントと自訳の解説も、和歌という文学形式のインターテクスチュアリティに触れるなど、作品解釈の深化が翻訳によって引き出される実例をよく示してくれるものとなった。この後、さらにマッコーリ氏が講評を述べた。

次に、ハウウェン氏が出題した正岡子規と塚本邦雄の短歌について、学生4名による試訳の披露と説明がなされた。正岡子規作品を担当した2名の学生は短歌の形式にこだわらず、それぞれの解釈を散文に近い形に敷衍することで余すことなく表出しようとした。塚本作品は象徴性に富んだ難解な作品だったが、その解釈に挑むだけでなく、ひとりの学生は塚本作品の前衛的な性格を表わすために、翻訳ではあえて訳語の一部を大文字にして実験的な印象を与える、という興味深い試みを行った。これらを受けて出題者であるハウウェン氏は、ともに「絵」をモチーフとする二作について、子規については創作理念としての「写生」との関わりを述べ、塚本については背景に性的なイメージを指摘するなどして自己の訳について解説し、学生の試みを肯定的に補強する懇切なコメントを加えた。この後バイチマン氏が短く印象を述べた。

この後、聴衆から質問と応答が限られた時間の中で行われ、最後に今回の催しの発案・企画者である陣野英則氏(文学学術院教授・早稲田大学総合人文科学研究センター所長)より、挨拶と謝辞があり、「翻訳歌合」という画期的な試みの中で、「文学に関わる生成と研究と学生の教育」がリンクできたことが成果として述べられた。

■イベント概要

主催:早稲田大学総合人文科学研究センター「創作と翻訳の超領域的研究」部門

共催:

スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点

早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所

科学研究費助成事業(基盤研究(C):(課題番号16K02377、代表:陣野英則)

日時:2019年11月15日(金)14:50 – 17:40

場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館3階 第一会議室

司会:緑川眞知子(早稲田大学・明治学院大学・関東学院大学大学院 非常勤講師)

 

第一部 講演とコメント

①講演:トーマス・マッコーリ(シェフィールド大学東アジア研究所助教授)

②講演:ジャニーン・バイチマン(大東文化大学 名誉教授)

③コメント:マイケル・ワトソン(明治学院大学国際学部 教授)

第二部 ワークショップ「翻訳合」&ディスカッション

①短歌翻訳:アンドルー・ハウウェン(東京女子大学現代教養学部 准教授)

②和歌翻訳:ローレン・ウォーラー(イエール大学大学院博士候補生、元高知県立大学准教授)

他に文学学術院学生が試訳発表を行った

(報告作成 文学学術院 安藤文人教授)

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