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戦後日本と映画理論:埴谷雄高の<存在論的>映画論について

戦後日本と映画理論:埴谷雄高の<存在論的>映画論について
Postwar Japan and Film Theory – Haniya Yutaka’s Ontokogical Writings on Cinema

 

2019年7月6日、山本直樹氏による講演会「戦後日本と映画理論:埴谷雄高の<存在論的>映画論について」が開催された。カリフォルニア大学サンタバーバラ校助教授である山本直樹氏は、これまで日米両国においてほとんど顧みられることのなかった20世紀日本における映画・メディア理論の史的発展に焦点を当てながら、西洋発祥の「理論」のみを普遍的言説として扱ってきた人文科学全般の地政学的批判を自身の研究テーマとする、新進気鋭の映画学者である。2018年9月から2019年8月にかけては、博報財団招聘研究者として早稲田大学に滞在し、文学学術院教授の鳥羽耕史氏と共同研究を進めてきた。その成果であり、現在日米で活躍する12名の研究者による戦後文化・メディア活動に関する論考を集めた『転形期のメディオロジー』(森話社、近刊)の内容紹介でもある本講演の会場には、国際色豊かな30名の聴衆が集まった。

鳥羽氏による簡単な紹介の後、山本氏の講演は、野間宏、佐々木基一、花田清輝、安部公房、埴谷雄高、椎名麟三『文学的映画論』(中央公論社、1957年)という書物の重要性を指摘することからはじまった。そのなかの埴谷雄高「古い映画手帖」という映画論に注目する山本氏は、1909年に税務官吏の子として台湾・新竹で生まれた埴谷の伝記的事項にさかのぼり、彼の映画体験を明らかにしていく。埴谷雄高『闇のなかの思想——形而上学的映画論』(三一書房、1962年)、埴谷雄高、小川国夫『闇のなかの夢想——映画学講義』(朝日出版社、1982年)の二冊から引用しながら、山本氏は、埴谷文学の基調主音である《自同律の不快》が植民地生まれであることに起因し、その映画認識にも関わっていること、埴谷が映画の原理の《存在論的自己矛盾》を指摘したことに注意を促す。1948年の短編小説「意識」の眼球についての実験に、埴谷の《還元的リアリズム》の具体例を見出す山本氏は、「映画的還元」とでもいうべき作用によってその相貌を一新させた影の影として立ち現れる、「もの」それ自体としての強度を持つスクリーン上の世界が、埴谷の想像力の源泉となったと論じる。そして「古い映画手帖」を引用しつつ、カメラと同一化した観客が、自分たち自身を、この世界を構成する歴史的空間と時間とに投げ出された一つの「存在」として見つめ直すことができるのだという。また、同じエッセイの「廃墟の幻想」には、「映画的存在」となりかわった私たちが、世界滅亡後も生き延びるかもしれないという黙示録的ヴィジョンを見出す。花田清輝の「対立物を対立のまま統一する」という主張を20世紀前半の哲学の主要テーマだとする山本氏は、その起源に西田幾多郎の哲学を持ちながら、日本共産党をめぐる政治的スタンスに大きな違いのあった存在として花田と埴谷を位置づける。そして、埴谷の「永久革命」に象徴される《存在論的革命論》の新左翼による評価を参照し、埴谷の《存在論的映画論》の可能性を探ることを提唱することで講演をしめくくった。

質疑応答では、埴谷雄高についての伝記的事項から、映画理論に関するものまで、様々
な質問に対して山本氏の丁寧な応答があり、活発な議論が行われた。定刻をやや過ぎたところで終了としたが、その後も会議室や廊下で日本語と英語による議論が続けられ、参加者を触発する講演となった手応えが感じられた。

■イベント概要■
戦後日本と映画理論:埴谷雄高の<存在論的>映画論について
Postwar Japan and Film Theory: Haniya Yutaka’s Ontological Writings on Cinema

講演者: 山本直樹(カリフォルニア大学サンタバーバラ校助教授)
日時:   2019年7月6日(土) 14:00-16:00
会場:   早稲田大学 戸山キャンパス 33号館6階 第11会議室
講演言語: 日本語
参加者:  学生、教職員、一般
主催:      早稲田大学総合人文科学研究センター「東アジアの人文知」研究部門
共催:         スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点 角田柳作記念国際日本学研究所

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