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Translation and the Politics of Japanese Modernist Poetry: Conversation and Readings by Sawako Nakayasuを開催

Translation and the Politics of Japanese Modernist Poetry:
Conversation and Readings by Sawako Nakayasu

2019年7月12日、詩人・中保佐和子氏(ブラウン大学助教授)による「Translation and the Politics of Japanese Modernist Poetry: Conversation and Readings with Sawako Nakayasu」と題した講演が行われた。司会はジョーダン・スミス氏(城西国際大学准教授)とスティーブン・カール氏(本学非常勤講師)が務めた。本講演は二部構成で行われ、第一部では中保氏が左川ちかと李箱(イ・サン)の作品を紹介し、第二部では中保氏自身の詩作における翻訳と創作との関係について語った。会場では、本学学生や教職員のほか翻訳家や一般の方々など、大勢の参加者が熱心に聞き入った。

まず最初に中保氏は、日本のモダニズム詩人は西洋モダニズムの単なる模倣や分派だと見なされがちだが、左川ちかと李箱の詩を詳細に検討すると、文化的・言語的な影響が読み取れることを説明した。その際、考現学(都市の生活・風俗・意匠の研究)の父である今和次郎に言及し、彼が作成した図(電車の中の様子やスカートの裾の変化が描かれたもの)が、「マント」や「スカアツ」などの外国語が一体となったモダニストの詩に、いかに視覚的なテクスチャーを与えているかを紹介した。

左川ちかは当時の文化的な状況から強い影響を受けている。当時はシュールレアリスム、フューチャリズム、ダダイズムといった、新しい芸術概念が翻訳を通じて紹介された時代でもあったが、中保氏は、1905年から1931年まで活発に活動し文化的コミュニティに対して強い影響力のあった「MAVO」という前衛芸術グループの重要性を強調した。そして、左川ちかが関心を抱いた様々な芸術運動に関連して、左川ちかの詩における「絵画的」あるいは視覚的な要素に言及し、詩の中にある色とモチーフを踏まえた構成とが、キュビストの絵画技法から立ち上がるイメージのようなものが生んでいることを、一行一行解説した。さらに、左川ちかの詩を特定の場所で改行すると、新しい解釈が可能になることを示した。ここでは、1つの詩を基に、特定の従属節に改行を加えた3つのバージョンを作成し、改行でそれぞれの詩の解釈がわずかに変わることを示した。これにより、翻訳における困難と可能性を提示した。

続いて中保氏は、日本の朝鮮占領下の時代に生きた詩人、小説家、建築家の李箱を紹介した。作品を用いながら、日本の近代詩は確かに西洋の影響を受けているがアジアとの交流も無視できないと考察した。さらに、日本の植民地政策が破壊的な結果がもたらしたことは否定できないが、李箱が新しい芸術形式に出会い、非常に興味深い作品を作り出したことは、日本の帝国主義が残した複雑な遺産に他ならないと述べた。

中保氏は、モダニズムの詩を検討する際の翻訳の重要性を主張した。意識的であろうとなかろうと、詩人は自分の創作を刺激するために翻訳を活用したためだ。二つの言語で生き、創作も行なった李箱の場合、作品が文章になる前からすでに頭の中で翻訳が行われていただろう。李箱は我々には知るべくもない言語と言語の交渉から詩の言語を培ってきたと中保氏は推測する。李箱は言語と別の形式とを組み合わせた表現も行った。中保氏は李箱の詩「破片ノ景色」を朗読したが、この作品では声のコラージュを取り入れたり、三角形や、Xという性の区別のない非人間的な主語を用いたりしている。

中保氏は、李箱が「化石化した」という普通の表現ではなく「化石した」という表現を用いたこと挙げながら、「誤訳」の可能性への考えを述べた。中保氏によれば、「誤訳」は誤りとしてではなく、既成概念を打破する手段と生産的に捉えることが可能である。中保氏は別の例として、李箱がひらがなとカタカナを逆転させたことを挙げた。例えば、李箱はカタカナを使うべき外国語にひらがなを用いた(「スリッパー」など)。

第2部では、中保氏は自身の作品集『Mouth Eats Color: Sagawa Chika Translations, Anti-Translations, & Originals 』(2011)を紹介した。これは、中保氏が『The Collected Poems of Chika Sagawa 』(2015)を訳す過程で着想を得た作品集である。『The Collected Poems of Chika Sagawa 』では正確さと読みやすさを重視し、完成までに10年を費やしたが、『Mouth Eats Color』では翻訳をパフォーマンス・アートとして捉え、のびのびとした創造的なプロジェクトになっている。これは音楽とダンスによるインプロビゼーションを行なった自身の経験から着想を得たのだという。中保氏はまた、『Texture Notes 』(2010)から数編を朗読し、この本は「テクスチャーの翻訳」というアイデアから生まれたと説明した。

講演の終盤、中保氏は、まだ原稿だが最新作『Some Girls Walk into the Country They Are From』を紹介した。これは、最終稿ではない詩(英語)を複数名に選ばせ、好きな言語に訳してもらうという、創作と翻訳の過程を表現した作品である。この本は、創作と翻訳の即興性だけでなく、「誤り」だとみなされうる「ずれ」をないがしろにしないことの大切さを称える。中保氏は最後に、悪訳や杜撰な訳は価値のヒエラルキーを反転させる可能性があるので好意的に捉えていること、また翻訳という概念を広く捉えることを支持していることを述べて、講演を終えた。
本イベントの最後に、司会のジョーダン・スミス氏とスティーブン・カール氏の示唆に富んだコメントがあり、中保氏に質問がなされた。それから研究者、翻訳家、学生と中保氏とで質疑応答が行われ、イベントは予定時間をわずかに超えて終了した。イベント終了後、中保氏をはじめとする登壇者は、会場に残って来場者たちと談笑した。

■イベント概要

Translation and the Politics of Japanese Modernist Poetry:
Conversation and Readings by Sawako Nakayasu

日時:2019年7月12日(金)13:00-14:30
会場:早稲田大学戸山キャンパス33号館16階第10会議室
登壇者:中保佐和子(ブラウン大学助教授)
司会:
ジョーダン・スミス(城西国際大学准教授)
スティーブン・カール(早稲田大学非常勤講師)
使用言語:英語
参加対象者:学生・教職員・一般
主催:
スーパー大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点
早稲田大学文学研究科国際日本学コース(Global-J)
共催:
早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所
早稲田大学総合人文科学研究センター「創作と翻訳の超領域的研究」研究部門

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