2023年10月5日(木)、ライデン大学よりイフォ・スミッツ教授をお迎えして、講演会「西行法師の和歌と釈蓮禅の無題詩:平安後期の庶民を詠う詩歌の交錯 Saigyō’s Waka Poems and Renzen’s Sinitic Poetry: Intersecting Engagements with Non-Elite People」を開催しました。イフォ・スミッツ教授のご専門は日本文学、なかでも中世の詩歌で、このたびのご講演は、十二世紀に活躍した歌人西行法師と詩人釈蓮禅を取りあげて、両者の作品に共通する特徴と文学史上の意義をいくつかのキーワードとともに魅力的に語ってくださるものでした。
当日は、学内外の大学院生やリサーチフェロー、訪問学者、教員、研究者が続々と集まり、会場(33号館16階第10会議室)はご講演の開始前からたいへんな熱気と期待に溢れる雰囲気に包まれました。そうした中、スミッツ教授は、まず西行法師と釈蓮禅の活動について概観し、また、無題詩というスタイルが「個人化」と「即時性」という特徴を備えるものであることを説明されました。そして両者がともに旅の詩歌を残していることから、その創作が書斎の中のものではなく、「周縁」における実地の体験や交流をふまえて庶民を詠うものである点に注目されました。

イフォ・スミッツ教授(ライデン大学)
そしてさらに、両者の詩歌における周縁性は、宮廷を離れた地方性や庶民との交わりという社会的な周縁に加え、長い詞書や詩の即時性、現実性を強調する自注という周縁的テクストが存することに注意され、そのことをジェラール・ジュネットが提唱したパラテクストという用語に重ねて取りあげられました。同時期に活動した歌人と詩人に共通してみえる如上の特徴は、日本の詩歌史の流れの中に現れた興味深い画期を示すものといえ、スミッツ教授はその意義を鮮やかに解き明かしてくださいました。
ご講演に続いて、文学学術院の兼築信行教授からコメントをいただきました。兼築教授は、スミッツ教授のこれまでのご研究のうえに、新しい視点や概念を重ねたご講演であったこと、詩歌に伴う詞書や自注について、歌集や詩集の編纂という営みにおける意味や機能も視野に言及されました。また、その後は会場に集まった参加者から、パラテクストという概念や庶民を詠う詩歌の発生の背景についてなど、活発に質問が出されました。最後は、兼築教授がご講演の場を詠んだ歌が披講され、和やかな雰囲気と知的興奮の中に講演会は終了となりました。
本講演会は、スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点、早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所の主催、早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所の共催によって開催されました。
イベント概要
- 日時:2023年10月5日(木)17:00-18:30 (JST)
- 会場:早稲田大学戸山キャンパス33号館16階 第10会議室
- 参加:学生、教員、一般
- 使用言語:日本語
- 参加費:無料