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News through 2023

2023年度までのニュース

開催報告:多和田葉子2023年度アカデミック・ワークショップ

今年も多和田葉子さんをお迎えし、院生2名の研究発表と多和田さんの記録映像の鑑賞を行った。司会は松永美穂、コメンテーターは岩川ありさ准教授。
まず一橋大学大学院修士課程の土屋結花さんが、「独楽と麻薬——『変身のためのオピウム』について」というタイトルで発表を行った。『変身のためのオピウム』に登場する22人の女性たちがいずれも「見られる存在」であることを指摘し、さらにそれらの女性たちにしばしば回転する動きが見られること、回転が陶酔や忘我の境地につながること、さらに支配・被支配の関係を逃れる際にも「陶酔」が関わっていることに着目した。これに対し、彼女たちの置かれている状況の「暗さ」と作品の意外な「明るさ」についてのコメントや、一人称の語り手「わたし」と女性たちの曖昧な関係、さらに彼女たちを見ている存在について、意見が出された。

次に東京大学大学院博士後期課程のケイアナンさんが、「多和田葉子の初期作品における卵の表象——『かかとを失くして』と『無精卵』を中心に」というタイトルで発表を行った。『かかとを失くして』において主人公が持参する鞄の中身であるゆで卵と、新たな生を生み出すことのない無精卵。ゆで卵は異国から書類結婚のためにやってきた「私」の異類性を象徴するという解釈とともに、卵の殻が人間の皮膚のように他者と接する表層であり、自らを守る壁のような存在であると同時に個人のアイデンティティを構成する一つの要素でもあることが指摘された。また『無精卵』においては女と少女の関係が分析され、女の出産を暗示するかのような表現と並んで、女の書いた文字が少女によって継承されること、女の住む家が抜け殻となると同時に少女が新たな生を迎えることなどが述べられた。また、作品における変身や分身のイメージ、言葉のアニミズムへの可能性も指摘された。

最後にソン・へジョンさんが、東京大学大学院在学中の約5年間にわたって世界各地で撮りためた研究用の映像が紹介された。インド、タイ、ミャンマー、アメリカ、ドイツ、日本などでの多和田さんによるパフォーマンスや講演、ワークショップなどの様子が記録された貴重な映像であり、「声」や「朗読」の研究から映像による記録へと移行したいきさつなどをソンさんが解説した。また撮影当時のイベントのプログラムやパンフレットなどの資料も示された。イベントでのコラボレーションについての質疑応答も行われた。聴衆の関心も高く、活発な議論が行われ、大変充実したワークショップであった。参加した学生からは「早稲田を拠点として多和田を研究する学生たちが発表し、交流できる場は貴重である」「今回のワークショップは、多和田葉子を研究している一学生としては、大変貴重な機会でした。土屋さんとケイさんの発表は大変興味深く、多和田葉子さんご自身の反応を伺えることもとても面白かったです。また、ソン・ヘジョンさんの「多和田葉子 旅する声の記録」の上映から、映像という形を通して多和田さんのグローバルな作家としての位置や活動を改めて考えることができ、この会に参加できてよかったと改めて思います。」との感想が聞かれた。

(報告者:松永美穂)

ワークショップ概要

日時:2023年5月17日(水)16時半〜19時

場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館第10会議室(16階)

司会:松永 美穂(早稲田大学 教授)

コメンテーター:岩川ありさ (早稲田大学 准教授)

主催:スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点

共催:早稲田大学大学院文学研究科現代文芸コース

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