経済的意思決定における感情の影響に関する実験研究
今回の講演会では経済的意思決定における感情の影響に関する実験研究が紹介された。近年急拡大する本分野では、感情を読み取るフェイスリーディングソフトやVRのような新しい機材を導入することで研究が大きく進展している。多くの研究者が興味を持つ分野でもあり、本学の大学院学生のみならず、学部学生、ポスドク研究員、教員や他大学の研究員、教員の参加もあり盛会であった。
ノゼア教授は経済学実験で感情の測定と感情誘導にそのソフトや機材がどのように使われ、どのような新しい研究が進んでいるかを、自己の最新研究を含めて、様々な研究事例を挙げて説明された。始めに、基本的なソフトとハードの活用方法について、さらに、感情の測定と感情の誘導を利用した研究が紹介された。それぞれが行動経済学の重要なトピックであり、いずれも大変興味深いものであった。
内容としては、まず感情を測定する方法が紹介された。伝統的にアンケートが多く使われてきたが、近年はフェイスリーディングという人の顔の細かい変化を分析し、その時の正確な感情を測定するソフトの機能が向上している。次に感情を誘導する方法が紹介された。特定の感情と関係ある被験者の経験を思い出せる方法、文章あるいは映像を見せて誘導する方法などがある。特に最近はVRも有効な手段として使われている。続いて感情の要素を導入した経済学実験が示されたので、ここに紹介する。
- 正直性との関係: VRを用いて感情を誘導してどの感情がより正直な報告と関係しているのかを研究した論文が紹介された。幸福感はプラス効果があり、恐怖はマイナス効果があった。
- リスクに対する態度との関係: 感情を誘導するさまざまな映像を見せ、その後、リスク態度を測定した研究が紹介された。不快感は幸福感よりリスクテイクの傾向が強かった。
- 寄付行動との関係: 寄付行動と幸福感の関係を、フェイスリーディングを使って測定した研究が紹介された。意思決定の前に幸福感を高く持っていた参加者がより高い寄付額を選択したが、その後、高まった幸福感はすぐに通常に戻るという結果が報告された。
- 信頼性との関係: 信頼ゲームにおける感情の影響をフェイスリーディングで測定した研究が紹介された。不快感が相手に対する信頼に有意な負の影響を与えていることが報告された。
講演会後には経済学研究科大学院生に対して特別に個別指導の時間が設けられ、提携形成、株取引、公共財供給ゲームでの懲罰行動にかかわる彼らの実験に対し、今後の研究成果に有意義な助言が与えられた。