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2023年度までのニュース

開催報告:『六百番歌合』にみえる「唐」の混乱―中世和歌・歌論の漢語への態度―

2023年6月7日、早稲田大学戸山キャンパスにおいてトーマス・マッコーリ先生(シェフィールド大学東アジア研究所 准教授)の講演会が開催されました。マッコーリ先生は、日本古典文学、とりわけ和歌の研究とその英訳で卓越した業績を積み重ねてこられた方です。特に、数々の歌合(うたあわせ)の中でも最高峰と評される『六百番歌合』の全訳には約十年の歳月をかけて取り組まれ、2019年にThe Poetry Contest in Six Hundred Rounds (全二冊)として刊行されました。また、和歌の研究・翻訳の成果をひろく人びとへと還元することに意欲的な先生は、さまざまな媒体と機会を利用され、ご自身によって英訳された和歌を広くプロモーションする活動も多角的に展開されてきました。

2023年3月より、マッコーリ先生はサバティカルを利用して早稲田大学で歌合と歌論の研究に取り組んでいらしたことから、今回は「『六百番歌合』にみえる「唐」の混乱―中世和歌・歌論の漢語への態度―」と題するご講演で、判者である藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)(1114-1204)による判詞(はんし)、およびその俊成の判定に抗議した顕昭(1130頃-1209以降)の「顕昭陳状」などを中心にとりあげられました。なお、講演ではおもに日本語を用いられましたが、たくさんの和歌と判詞の例を『六百番歌合』の中から引用される際には、ひととおり原文を読み上げたのち、そのつどご自身の英訳を添えるというかたちでお話を進められました。

ご講演では、まず『六百番歌合』に関する概要を示され、さらに歌合の勝負に関わる判断基準について整理されました。その後、『六百番歌合』の中でも「唐(から)」(漢詩文・漢籍)に由来する表現がふくまれる歌を次々ととりあげられ、それらに対して判者の俊成が示した批評の言葉を逐一丁寧におさえられました。そして、たとえば漢詩文に関係するような表現、あるいは中国の故事に関わる表現などが和歌に用いられることに対して俊成が概して批判的であること、とりわけ顕昭の歌に対して辛辣であることなどを具体的に示されるとともに、その顕昭の「陳状」では、そうした俊成を「凡夫」とまでけなしている例すらあることなどが紹介されました。ただし、俊成の「唐」に対する態度は常に批判的というわけでもなく、むしろ複雑な面があり、また矛盾している場合すらあることへの留意も必要であるとされました。とにかく、「唐」からの過剰な摂取を嫌う俊成の基本姿勢、さらに歌題との関係を重要視していることなどが結論として示されました。

そしてご講演の最後には、ご自身の和歌プロモーション活動の一端を具体的に紹介してくださいました。

つづいて、コメンテーターの兼築 信行先生(早稲田大学)が、講演の要点を整理されるとともに、安井重雄氏の先行研究などにも言及されながら俊成の判詞の難しさについて解説されました。さらに、『六百番歌合』を主催した九条良経の兄良通をはじめとする九条家の人たちが漢詩を得意にしていたこととの関わり、さらには『唐物語』などにみられるように、当時、中国由来の故事の共有が図られていたというような問題などについても述べられました。

その後、兼築先生の進行でマッコーリ先生とフロアの方々との議論が展開されました。フィットレル・アーロン氏、ローレン・ウォーラー氏、河野貴美子氏、小林一彦氏(以上、発言順)より、和歌の翻訳について、和歌と漢詩文・漢籍との関わりについて、藤原俊成という大家の有する複雑さ、あるいはまた六条藤家との関係などが指摘され、マッコーリ先生とのやりとりが重ねられました。

講演会の最後には、右往左翁こと兼築先生がマッコーリ先生をたたえて詠んだ「とつくにの ひともよみとく むもゝちの つがひのうたぞ をかしかける」* という歌が披講され、マッコーリ先生の講演に華を添えました。

* 末尾近くの歌(右往左翁 詠)の大意
外国の人も読み解いている、六百にもおよぶ番(つが)いの歌こそ味わい深いものだな。

イベント概要
  • 日時:2023年6月7日(水)17:00-18:20 (JST)
  • 会場:早稲田大学戸山キャンパス 33号館3階 第1会議室
  • 参加:学生、教員、一般
  • 使用言語:日本語・英語
  • 参加費:無料
  • 主催:スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点
    早稲田大学 総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所
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