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“切り紙”構造で挑む、高度な自立発電

フレキシブル性能と発電性能を備える熱電発電デバイス

  • #ジェネラル
  • #研究活動

Fri 24 Jul 26

フレキシブル性能と発電性能を備える熱電発電デバイス

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Fri 24 Jul 26

早稲田大学の岩瀬英治教授(理工学術院)、寺嶋真伍講師(任期付)らによる研究グループは、熱電発電デバイスの新構造として「ポップアップ切り紙構造」を考案。高いフレキシブル性能と高い発電性能の両立を実現しました。研究成果はハイインパクトジャーナル「npj Flexible Electronics」に掲載され、スマート社会への応用に向け注目を集めています。

本記事では、研究の内容や構想について、岩瀬教授、寺嶋講師へインタビュー。幅広いニーズに対応する、画期的なデバイス構造をお届けします。

※ 岩瀬英治教授は、次代の中核研究者育成プログラム(早稲田大学を国際研究大学としての地位確立の担い手となる若手研究者を育成するための支援制度)の採択研究者として、本研究を推進しました。

スマート社会で求められる、フレキシブルな熱電発電デバイス

スマート社会の実現に向け、普及が期待されるIoT技術。ヒトとモノ、インターネットが無線でつながる上では、電源が課題の一つとなる。医療機器、プラントの監視装置など、電池交換が困難なシーンでは、自立発電機能を備えたデバイスが求められてきた。

ソリューションとして注目されるのが、「熱電発電デバイス」だ。デバイスの両端に与えた温度差に対し電圧が生じる「ゼーベック効果」を利用した発電で、小型軽量で長寿命という利点を持つ。しかし従来の手法には課題も多いと、岩瀬教授は説明する。

岩瀬英治教授(理工学術院)

岩瀬英治教授(理工学術院)

岩瀬「熱電発電デバイスは、温度差が発電量につながります。つまり、温度が高い熱源に密着させ、温度が低い大気に放熱させることが基本です。これにより、人間の皮膚や工場の排熱管などの熱源に設置することで、自立発電が可能になります。しかしデバイスの多くは、高い温度を得たい熱源側と低い温度を得たい放熱側の両方に問題があります。一つ目の問題は、熱源側は高い温度を得るために熱源に密着させることが重要ですが、デバイスがフラットで硬く、“曲げる” “伸ばす”など操作ができないため、伸縮する皮膚、表面がカーブする排熱管には密着して設置できない点です。二つ目の問題は、放熱側は低い温度を得るために大きな放熱フィンなどの冷却用部品を追加する必要がある点です」

従来のフラット型の熱電発電デバイス。曲面や伸縮面への適用が不可能であるだけでなく、大きな放熱フィンを付けて使用する必要がある

従来のフラット型の熱電発電デバイス。曲面や伸縮面への適用が不可能であるだけでなく、大きな放熱フィンを付けて使用する必要がある

こうした背景から、同分野ではフレキシブルな熱電発電デバイスの開発が進められてきた。しかし全方向へ伸ばし、曲げられる構造は、例が少ない。そこで岩瀬教授らが発案したのが、「ポップアップ切り紙構造」である。

岩瀬教授「ポップアップ切り紙構造は、日本の伝統技術でも知られる切り紙から着想を得ました。この構造を応用すると、基板に切り込み加工を施すだけで、逆三角形のような形で立ち上がり、伸縮が可能になります。そして、逆三角形の底辺の部分が変形する放熱フィンの役割を果たし、高さ方向に温度差をつけられます。そのため、大きな放熱フィンを付けなくてもフレキシブルな熱電発電デバイスとして成立するのです」

ポップアップ切り紙構造。L字の切り込みを二つ入れるだけで基板が立ち上がる

ポップアップ切り紙構造。L字の切り込みを二つ入れるだけで基板が立ち上がる

ポップアップ切り紙構造のサンプル。伸縮のみならず、曲げの変形も可能

ポップアップ切り紙構造のサンプル。伸縮のみならず、曲げの変形も可能

ポップアップ切り紙構造が実現する、高度な発電性能

ポップアップ切り紙構造が革新的なのは、フレキシブル性に加え、発電性能も高いことだ。フレキシブルデバイスの多くは、構造的に温度差を得るのが難しく、曲げられる放熱フィンを特注する際にコストも生じてしまう。一方、ポップアップ切り紙構造では、立ち上がった基板自体が放熱の役割を担うため、大きな外付けの放熱フィンは不要だ。寺嶋講師は、「熱のロスを抑えこともできる」と説明する。

寺嶋「フレキシブルデバイスの一つに、シリコンゴムを使用したものがあります。デバイスの基板をゴムとすることで曲げ伸ばしができる仕組みですが、熱伝導率が低いゴムが熱源と熱電素子の間に存在するため、ゴムの部分で大きなロスが生じていました。私たちのデバイスは熱源と直に接するため、100℃の熱源であれば100℃の温度をフルに使用できます。大きな温度差、電力出力を実現できるのです」

寺嶋真伍講師

寺嶋真伍講師

幅広い形状の熱電素子を実装できる点も特徴だ。熱電発電デバイスにおける素子は、温度差を与える二つの部分を指すが、高性能な薄膜状の熱電素子が提案されても、既存の構造では自立の役割を担えないため、搭載は困難だった。ポップアップ切り紙構造であれば、太さや長さ、厚さを問わず、いかなる形状の熱電素子も実装できる。

寺嶋「さまざまな機能を備えるポップアップ切り紙構造ですが、性能の調査も進めています。曲げ試験では、180°の屈曲にも耐性を持つことが判明しています。伸長試験では、引張歪みを70%まで伸長させても、抵抗変化1%以下を維持しました。動物の皮膚の伸縮が30%なので、十分な伸縮耐性といえます。加えて、曲げや伸縮に左右されず、安定して発電できることもわかっています」

筒状、球状の他、直角の形状にも装着できるフレキシブル性を備える

筒状、球状の他、直角の形状にも装着できるフレキシブル性を備える

発電性能においても優れた結果が出ている。研究チームは、同じ形状・体積の熱電素子を用い、ポップアップ切り紙構造と従来(フラット)型の熱電発電デバイスにおいて、出力電力を比較。その結果、フラット型に対し、ポップアップ切り紙構造が最大で11.5倍に上昇した。研究チームは同調査を経て特許を出願。取得を達成している。

寺嶋「他のフレキシブル熱電発電デバイスと出力を比較した調査でも、優位な結果が示されました。高度な発電性能とフレキシブル性を両立することは実証されています。一連の研究結果に、体温と外気温のわずかな温度差のみからの発電で体温情報をモニタリングし無線送信するデモンストレーションを加え、論文を提出。15.5という高いインパクトファクターの論文誌に掲載いただきました」

人の腕への装着イメージ

人の腕への装着イメージ

幅広いシーンでの実装を目指し、デバイス機能を強化していく

機能設計やマイクロ工学を専門とする岩瀬教授は、折り紙と切り紙の両機能を備える「キリオリガミ構造」を開発するなど、曲げ伸ばしが可能な構造を研究してきた。シリコンゴムなど材料でのアプローチが主流だったフレキシブル熱電発電デバイス分野に、構造の視点から着眼したことが、今回の成果につながったのだろう。

岩瀬「ゴム材料のデバイスは、フレキシブル性能と発電性能のトレードオフという課題を抱えていました。しかし私たちは切り紙という構造によって材料の伸縮性に頼らずにデバイスの伸縮性を得る方法からスタートしているため、材料は自由に選択することが可能です。基板をレーザーカットするだけで製造でき、硬い金属にも対応します。伝熱設計の観点から好まれる厚い銅箔が、『伸びない』『曲がらない』ということもありません。伸縮性と伝熱、二つの設計を分けて考えられたことが、研究の前進につながりました」

フレキシブルな構造は、社会実装の汎用性に直結する。体温や脈拍を常時測れるウェアラブルデバイスを、患者や高齢者の腕に装着するなど、医療・福祉領域での応用が代表例だ。発電プラントや高速道路の故障モニタリングなど、人手の介入が困難な場所に設置するセンサーの電源にも役立てられる。データ量に応じた電力を必要とするIoT分野においては、高度な発電性能も欠かせない要素だ。

寺嶋「温度差が生じると発電が始まる仕組みは、山火事の検知などにも応用できるでしょう。災害対策は重要ですが、全ての場所にセンサーと電源を取り付け、定期的にメンテナンスを施すのは現実的ではありません。しかし熱電発電デバイスを応用すれば、コストや人手をかけることなく、管理が可能になるはずです」

今後はより良い構造の探索をつづけながら、実装に向け応用性を高めていくと、岩瀬教授は語る。

岩瀬「ニーズに対してデバイスを最適化する上では、企業との共同研究も視野に入れています。シンプルな製造プロセスで、ミクロ単位の精度も必要としないため、低コストでの実証や量産にも向いているでしょう。体温と外気温など、わずかな温度差でも、情報を無線送信できるデバイスは、世界初の事例です。幅広い領域での応用を通じ、スマート社会の実現に貢献していきたいと思います」

撮影=西早稲田キャンパス59号館 岩瀬研究室

撮影=西早稲田キャンパス59号館 岩瀬研究室

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