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特集 Feature Vol.19-4 触媒の未知なる力を導き出す(全4回配信)

触媒化学研究者
関根 泰(せきね やすし)/理工学術院教授

清廉潔白たれ、清貧たれ

世界に類を見ない研究テーマに取り組み、独走している関根泰教授。最終回となる今回は、関根教授の人間像に迫ってみます。研究者としての自分の人生をどのように捉え、またどのような哲学で研究に取り組んでいるのでしょうか。さらに、関根教授が感じている、早稲田大学で研究することの利点についても伺います。(取材日:2017年9月7日)

キャリアを考えた31歳

自分の研究者としての歩みを振り返ると、31歳のときに“火がついた”ことを明確に思い出します。それまで、博士号の学位を取得して、運よく母校である東京大学の助手になることができました。けれども、漠然とした気持ちで研究に取り組んでいた気がします。私はもともと建築の分野に興味があり、化学の研究をする中でも、その思いを引きずっていたのかもしれません。そうこうしているうちに、助手として所属していた東京大学の研究室が解散することになりました。次の行先を探していたところ、運よく早稲田大学工学部応用化学科の助手として採用されたのです。すでに私には家族もいたし、もはや収入なしの生活などできない。あとがない状況に追い込まれ、「自分のやってきた研究は大したものではなかった。本気でやらないと自分のキャリアが残らない」と、危機感を持つようになったのです。
このとき初めて「自分のキャリアをどうするか」を真剣に考えました。「自分に向き合って、自分のキャリアを明確にしなければ、中途半端な研究者人生で終わってしまう」との思いの中で、「社会で認められる人材になるには、一つの技を磨くための努力を惜しんではならない」と強く認識したのです。31歳のときのことでした。31歳でキャリアパスを考える大切さに気づいたというのは、他の研究者からすると5、6年は遅いことになります。遅れを挽回するために30歳代後半から40歳代前半にかけては、とりわけ努力をしました。私は1968年生まれですが、最近、ようやく他の研究者の標準的なキャリアパスに追いつくことができたかなという感覚です。

研究にもPDCAサイクルを

2007年に准教授となり、自分の研究室が立ち上がりました。そのころに取り組んでいた研究テーマと、いま取り組んでいる研究テーマは、基本的にすべて異なっています。同一のテーマで取り組み続けているような研究は一つもありません。研究を進めていく上で、私は「PDCAサイクル」を意識しています。PDCAサイクルとは、計画(Plan)を立て、実施(Do)し、検証(Check)をして、改善(Action)をはかるという手順です。企業の事業活動などでPDCAサイクルの大切さは言われますが、研究にも当てはまります。私の場合、PDCAのAが終わった段階で、それまでの研究成果を論文にまとめますが、そのとき「この研究テーマでやり残したことはないか」「この研究を続ける意義や社会的要請はあるのか」といったことを考えます。そして、「やり尽くした」「もはや自分たちがやる意義はない」といった結論になれば、切り替えて新たな研究テーマに取り組み始めるようにしています。
たとえば、研究室が立ち上がった当初、私たちはサトウキビや天然ガスを原料に水素を生成する方法を研究していました。この研究テーマについては、私は「世界で一番」と自信をもっていえる研究成果を出すことができました。これ以上の発展は見込めない、やり尽くしたというところまで研究することができたのです。そこで、新たな研究テーマに切り替えて、低温で水素を作るための方法の研究などに取り組み始めました。

写真:(上下とも)各国の研究者と研究討議

流行は追わず、本質を見抜く

研究者の姿勢として「清廉潔白たれ。清貧たれ」ということも大切にしています。これは、自分の生き方でもあります。流行を追って流されるようなことはせず、自分の理念をもって本質を大切にして歩んでいきたいのです。
また、研究をするために試薬を買ったり、装置を入れたりする必要はあるので、そうしたことに使うお金は必要ですが、たとえば特許収入を得て私的に利益を得るようなことは、少なくとも自分自身はやりたいとは思いません。大学教授は、豪華な机や椅子に座っているよりも、常に学生が近くにいるところで自分自身が研究者としての模範を示すべきだと思っています。
私はこの10年間、新しいボールペンを1本も買ったことありません。常にインクが切れたら芯を交換して使ってきたからです。会議用のテーブルも2000年頃に手に入れたものをずっと使い続けていますし、会議用のイスも大学の理工学術院総合研究所が買い換える際に、それまで使っていたものを譲り受けたものです。カバンも、自分が本当に「これだ」と気に入ったものしか使いたくないので、同じデザインの色違いのものを5個も持っています。それと、英語辞書は私が中学生のときに使い始めたものも継続して使っています。流行に追わずに、本質を見抜いてそれを大切にするという考え方は、自分の研究への取り組み方にも貫かれていると思います。これからも、研究室の学生たちに自分の生き方を示していきたいと思います。

写真:物持ちがいいという関根先生。中学時代からずっと使い続けている英語辞書を片手に

都会の真中という「地の利」

早稲田大学の研究環境について言えば、決して広々とした実験室で研究をできるわけではありません。けれども、研究をするにあたって、早稲田大学の大きな利点を二つ感じています。
一つは、「地の利がある」ということです。理工系の研究科・学部がある西早稲田キャンパスの所在地は東京都新宿区大久保。都心の一等地です。共同研究をしている企業と打合せをしたり、講演をしたりと、一日に7件も8件もスケジュールを入れる日もありますが、そんな過密スケジュールをこなせるのもキャンパスが都心にあるからこそです。2008年には、西早稲田キャンパスに直結する形で、東京メトロの西早稲田駅も開業し、さらに地の利が増しました。
私が所属する先進理工学部の応用化学科を高校生や親御さんたちに紹介する学科案内パンフレットを作った際には、新宿の高層ビル群のすぐ近くにキャンパスがあることがわかるようなデザインのページを意識的に取り入れました。不動産広告みたいでしょう(笑)。新宿がすぐ目の前にあるような場所で、高度な学びができるといった意味を込めました。

図:先進理工学部応用化学科のパンフレット。関根先生いわく「まるで不動産広告みたいでかっこいいでしょ」

学生たちがつくる「人の早稲田」

早稲田大学の利点について、もう一つ率直に感じているのは、「学生の質が高い」ということです。質の高い学生とともに研究することで、質の高い研究成果が生まれる。「人の早稲田」という表現は、学生の質の高さから来ているものだと思います。
研究室や教室で学生たちに接していると、「人間としての総合的な力をもっている人が多いな」と感じます。コミュニケーション力があるし、協力しながらモノをつくり上げたり、課題を解決したりする力もある。そして、自分で状況を切り開いていくような力も持っている。対話からセレンディピティ(コミュニケーションから思いがけない発見につながる能力)を得られることも多くあります。もし仮に、無人島で取り残されて、サバイバル生活を送らなければならなくなったら、きっと早稲田大学の学生たちはみんな生き残るでしょうね(笑)。

写真:実験装置のガスクロマトグラフィーを操作する研究室の学生。関根研究室への配属は学部3年生の後期から

質が高く、しかも層が厚いという早稲田大学の学生の特長は、他大学の先生から羨ましがられます。他大学の知人の研究者の方に、私の研究室の学生と接していただく機会がありましたが、「関根さんのところはいいね。打てば響くように、学生たちの反応が返ってくるんだもの」と言われます。早稲田大学の中にいるとなかなか気づきづらいものではありますが、他大学の先生たちはみなそのように言っています。学生全体としての質が高いことは、早稲田大学の大きな利点だと思っています。

これからも「人の早稲田」を進化させていきたいですね。

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プロフィール

関根 泰(せきね やすし)
1998年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了(工学博士)。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻助手、早稲田大学理工学部応用化学科助手、同・ナノ理工学研究機構講師、同・理工学術院応用化学科准教授などを経て、2012年より早稲田大学理工学術院教授(先進理工学部)。また2011年よりJST(科学技術振興機構)フェローを兼務。石油学会論文賞、日本エネルギー学会進歩賞、FSRJ(プラスチックリサイクル化学研究会)研究進歩賞などを受賞。
詳しくは関根研究室

業績情報

論文

受賞

  • 2005年度 石油学会奨励賞
  • 2007年度 触媒学会奨励賞
  • 2009年度 プラスチックリサイクル化学研究会(FSRJ)研究進歩賞
  • 2010年度 日本エネルギー学会 進歩賞(学術部門)
  • 2015年度 石油学会論文賞
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