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同性愛者の男性は恋愛で安心しにくい傾向

同性愛者の男性は恋愛で安心しにくい傾向
~中国上海在住の男性603人の調査結果~

ポイント

  • 中国上海在住の20~29歳の男性603名(同性愛者の男性303名、異性愛者の男性300名)を対象に、同性愛者の男性と異性愛者の男性の恋愛における愛着スタイル(見捨てられ不安と親密性回避の傾向)と関係経験を比較しました。
  • 同性愛者の男性は、異性愛者の男性に比べて、見捨てられることへの不安感や親密性を回避する傾向が強い一方、過去の恋愛回数や最長と最短の交際期間には有意な差がみられず、平均交際期間の差も小さいものでした。
  • さらに大きな違いがみられたのは、「自分の恋愛関係はこれからも安定して続くと感じられるかどうか」でした。同性愛者の男性は、異性愛者の男性よりも恋愛関係を安定していると感じにくく、この感覚の違いを考慮すると、見捨てられることへの不安や親密さを避ける傾向にみられた両者の差は、統計的にはみられなくなりました。
  • 恋愛関係における安心感は、個人やカップルだけの問題ではなく、その恋愛関係の未来を支える社会や制度のあり方とも関わっている可能性があります。

概要

同性愛者の男性は、恋愛関係で安心感を得にくいのでしょうか。早稲田大学文学学術院の楊 帆(よう ほ)助教と名古屋大学博士後期課程の翟 梓辰(Zichen Zhai、たく ししん)氏の研究グループは、中国上海在住の20~29歳の男性603名(同性愛者303名、異性愛者300名)を対象に、恋愛関係における安心感(見捨てられ不安※1の傾向と親密性回避※2の傾向)と恋愛経験を調べました。その結果、同性愛者の男性は、異性愛者の男性に比べて、見捨てられるのではないかという不安を感じたり、親密性を回避したりする傾向がみられました。さらに、自分の恋愛関係が安定していると感じている人ほど、見捨てられることへの不安や親密さを避ける傾向が低いことが分かりました。この点を考慮すると、同性愛者の男性と異性愛者の男性の間にみられていた、見捨てられることへの不安や親密さを避ける傾向の差は、統計的にはみられなくなりました。

こうした比較から、同性愛者の愛着不安は性的指向そのものよりも、マイノリティとして置かれている社会的立場・関係的条件の方が、関連性が高い可能性が示唆されました。本研究は、恋愛の安心感を理解するには、個人やカップルだけでなく、関係の未来を支える社会環境にも目を向ける必要があることを示しています。

本研究成果は2026年9月16日(水)に『BMC Psychology』に掲載されました。

キーワード:
同性愛者、異性愛者、恋愛関係、性的マイノリティ、見捨てられ不安、親密性回避、愛着理論、社会心理学、社会環境、ステレオタイプ

図1:本研究に関する概要図(こちらの図は生成AIにて作成しています)

(1)これまでの研究で分かっていたこと

愛着理論※3によると、恋愛関係では、「相手がこれからもそばにいてくれる」「必要なときに頼れる」と感じられることが、安心感につながると考えられています。こうした安心感の持ち方は比較的安定していますが、その後の恋愛経験によって変化する可能性も示されています。

一方、恋愛における安心感の違いについて、性的マイノリティと異性愛者を比べた研究では、結果が一貫していませんでした。差がみられないとする研究もあれば、性的マイノリティのほうが不安を感じやすかったり、人との距離を取りやすい傾向が高いとする研究もあります。こうした違いには、性的指向そのものだけでなく、恋愛経験や社会環境が関わっている可能性があります。また、性的マイノリティと一括りにしても、その経験は一様ではありません。同じ同性愛者でも、男性と女性では、ステレオタイプのほかに、直面する家族からの期待や社会的圧力が異なる可能性があります。特に中国では、男性に対して結婚や家系の継承を求める期待が強いことが指摘されています。

(2)新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

社会心理学において、性的マイノリティを対象とする研究では、十分な人数を集めることが難しいため、同性愛者、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、異なる背景をもつ人々をまとめて分析したり、複数の地域から参加者を集めたりすることがあります。しかし、性別や性的アイデンティティ、地域によって、直面する社会環境やストレスは異なる可能性があります。そのため、こうした違いが研究結果のばらつきにつながっている可能性があります。そこで本研究では、こうした影響をできるだけ小さくするため、対象を中国上海に住む20~29歳の男性に絞り、同性愛者の男性303名と異性愛者の男性300名を比較しました。上海は比較的開放的な都市であり、十分な数の同性愛者の男性を募集しやすいという特徴があります。

また、外部からの圧力が極端に強い環境では、恋愛関係における安心感の違いが見えにくくなる可能性があります。一方、中国では同性間の婚姻は法的に認められていません。そのため、比較的開放的な上海でも、同性関係の将来には制度上の不確実性が残ります。そのため、上海で参加者を募集しました。また、同性愛者の男性と異性愛者の男性を明確に比較するため、生物学的性別と性自認がともに男性で、自身を同性愛者または異性愛者と認識している参加者を対象としました。バイセクシュアルなど、その他の性的アイデンティティをもつ人は今回の分析対象には含めませんでした。

参加者は、複数のオンラインプラットフォームから募集しました。同性愛者の男性が多く利用するBlued、異性愛者の利用が中心のマッチングアプリMomoに加え、性別や性的指向を問わず幅広く利用されるWeChatと小紅書(Xiaohongshu)も用いました。特定のプラットフォームの利用者だけに偏らないよう、異なる特徴をもつ複数の募集経路を組み合わせました。調査では、見捨てられ不安と親密性回避を測定しました。あわせて、現在の居住地域、年齢、性別、性自認や性的指向のほか、過去の恋愛回数や交際期間も尋ねました。さらに、「自分の恋愛関係は安定している」と感じる程度も調べました。

その結果、同性愛者の男性では、見捨てられ不安と親密性回避がともに高いことが分かりました。一方、過去の恋愛回数や交際期間では大きな差はありませんでした。より大きな違いがみられたのは、「自分の恋愛関係は安定して続く」と感じられるかどうかでした。さらに、同性愛者の男性と異性愛者の男性のあいだにみられた、見捨てられる不安や親密な関係から距離を取りやすい傾向の違いは、「自分の恋愛関係は安定している」と感じる程度で説明できる可能性を示しました。つまり、恋愛の安心感を理解するには、実際の恋愛経験より、この関係にはこれからも続いていく未来があると感じられるかのほうが重要な手がかりになる可能性があります。

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究は、恋愛関係における安心感を、本人の性格やカップル間の問題だけでなく、関係を取り巻く社会環境から捉える重要性を示しています。特に、「この関係はこれからも安定して続く」と感じられるかどうかが、見捨てられ不安や親密性回避と強く関わっていました。この結果からは、自分の恋愛関係には未来がないかもしれないという不安が、相手に何度も愛情や関係の継続を確かめたり、別れにつながりそうな出来事に敏感になったりすることにつながる可能性が考えられます。一方で、「どうせ続かないのなら、最初から深く関わらないほうが傷つかない」と考え、親密な関係から距離を取ることにもつながるかもしれません。

学術的には、成人の愛着を社会環境との関わりから捉える研究を、性的マイノリティの経験へ広げた点に意義があります。従来の愛着理論研究では、個人の経験や対人関係に焦点が当たりやすい傾向がありました。本研究は、社会からの受容や支援、関係の将来への見通しも、恋愛関係における安心感を理解するうえで重要である可能性を示しました。

社会的には、性的マイノリティの恋愛における不安を、本人やカップルだけの問題として捉えないことが重要です。関係相談や心理支援に加えて、家族や周囲からの理解、社会的な支援、制度的な保障など、複数の側面から関係の安心感を支える視点が求められます。論文でも、肯定的な社会的支援や法的保護、文化的背景に配慮した支援が、関係の安心感と関連する可能性を指摘しています。

この研究で同性愛者の男性の恋愛関係における安心感を明らかにすることにより、社会的制度設計や理解促進につながる可能性があります。また、本研究は同性愛者の男性の親密関係の特徴や、親密関係における主観的な経験について、社会的理解を深めるための調査データを提供した点にも意義があると考えられます。このようなデータは、同性愛者の男性に対する社会的理解を深めるうえで参考になるだけでなく、性的マイノリティ当事者が自身の親密関係や経験を捉え、自己理解を深めるための一助にもなり得ると考えられます。

(4)課題、今後の展望

本研究には、いくつかの限界があります。第一に、一時点での調査であるため、「関係の未来が安定していると感じること」が見捨てられ不安や親密性回避を低めるのか、その逆なのかは分かりません。今後は、同じ人を継続して調べることで、時間的な変化や因果関係を検討する必要があります。

第二に、恋愛回数や交際期間は本人の記憶に基づいて回答してもらいました。また、「自分の恋愛関係は安定しているか」は一つの質問で測定しました。今後は、より詳しい質問項目や、実際の交際期間などの記録を用いることで、関係の安定性をより正確に捉える必要があります。

第三に、本研究の対象は上海に住む20~29歳の男性に限られています。他の地域や年代では異なる結果になる可能性があります。また、今回は同性愛者の男性と異性愛者の男性に焦点を当てたため、女性、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、他の性的・ジェンダー・マイノリティに同じ結果が当てはまるかは分かりません。

今後は、地域、年代、性別、性的アイデンティティを広げて検討する必要があります。さらに、差別や家族からの期待、社会的な受容、制度的な支援なども直接測定することが重要です。そうすることで、どのような社会環境が「この関係には未来がある」と感じることにつながり、それが恋愛の安心感とどのように関わるのかを、より具体的に明らかにしていきたいと考えています。

(5)研究者のコメント

楊 帆 助教:
親密関係の質は、幸福感を左右する重要な要因の一つです。親密関係の規範やあり方は、社会文化や時代背景に深く影響されていることも、次第に明らかになってきました。時代の歩みに終わりはないのかもしれませんが、一人ひとりの人生は短く、一度きりのものです。だからこそ、研究を通して、対話や理解を増やし、寛容さを育み、多様な人々の束の間の人生が、少しでも幸福に近づくことを願っています。

翟 梓辰(Zichen Zhai)氏:
1973年、アメリカ精神医学会は同性愛そのものを精神疾患として扱う診断をDSM※4から除外しました。それから半世紀が経ち、東アジアでも理解や制度は少しずつ変化しています。一方で、同性愛者はいまなお偏見や無理解にさらされ、関係の将来に不安を抱くことがあります。本研究が、そうした不安を個人だけの問題ではなく、社会との関わりの中で捉え直すきっかけになればと願っています。

(6)用語解説

※1 見捨てられ不安
恋愛相手から嫌われたり、見捨てられたりすることを心配し、相手の愛情や関係の継続を繰り返し確認したくなる傾向を指します。

※2 親密性回避
他者と心理的に近づくことや、相手に頼ることに居心地の悪さを感じ、親密関係から距離を取りやすい傾向を指します。

※3 愛着理論
人は、重要な他者とのあいだに情緒的な結びつきをどのように形成するか、困難や挫折に遭ったときにはその相手にどのように安心や支えを求めるかといった現象を説明する心理学の理論です。

※4 DSM
米国精神医学会が刊行する「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」の略称で、精神疾患の診断基準として国際的に広く参照されています。

(7)論文情報

雑誌名:BMC Psychology
論文名:Are gay men more insecurely attached than heterosexual men in romantic relationships? Perceived relationship stability, rather than relationship history, matters
執筆者名(所属機関名)︓楊 帆*(早稲田大学文学学術院・筆頭著者)、翟 梓辰(Zichen Zhai)(名古屋大学教育発達科学研究科)
掲載日時:2026年9月16日(水)
DOI: https://doi.org/10.1186/s40359-026-05621-z

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