朝日透 教授(専門:キラル科学)が、温度依存性に加え、波長の変化でもキラル光学的性質の測定を可能とした高精度万能旋光計「Generalized High Accuracy UniversalPolarimeter (G-HAUP)」の開発に関する功績で「Molecular Chirality Award」を受賞しました。
[Molecular Chirality Award]受賞理由
左右円偏光に対する屈折率の差である旋光性や吸収率の差である円二色性といった「キラル光学的性質」は、それぞれ1811年、1869年にArago、Cottonによって発見されましたが、(1) 空間反転対称性の破れに起因した分子や結晶構造の不斉 (キラリティ) や、(2)原子のミクロな位置 (空間分散) を反映した現象です。これらの測定は、有機・無機物質の研究に広く重用されています。
一方、旋光性の発見以来170年を経ても、固体状態一般におけるキラル光学的性質の正確な測定はその重要性にも関わらず困難でした。これは、キラル光学的性質に比べ100-1000倍ほど大きな直線複屈折や直線二色性といった「光学的異方性」により、キラル光学的性質を光学的異方性から分離することができなかったためです。このため、固体状態におけるキラル光学的性質の測定は、ガラスなどの等方性媒質や、結晶などの異方性媒質では、光学的異方性が発現しない光軸方向のみに限られていました。
このような中で、小林教授により、透明な異方性媒質における旋光性と直線複屈折の同時測定が可能な測定原理及び「高精度万能旋光計」(High Accuracy Universal Polarimeter:HAUP,ハウプ) と呼ばれる光学測定装置が開発されました。その後、朝日教授らがHAUPの測定原理を吸収を持つ異方性媒質にまで拡張し、旋光性や直線複屈折に加え、円二色性及び直線二色性の同時測定も可能となりました。朝日教授らはさらに、旋光性、円二色性、直線複屈折、直線二色性の温度依存性に加え、それぞれの波長依存性も全自動測定出来る「一般型HAUP」 (Generalized-HAUP:G-HAUP) を構築し、紫外可視領域における分光測定を可能としました。さらにG-HAUPを、強誘電体、アミノ酸・タンパク質などの生体分子結晶、バイオマテリアル、キラルな有機・無機結晶など、種々の物質に応用し、これまでの光学測定法では得られない重要な知見を明らかにしました。