『ALL ABOUT “THEY”―「Xジェンダー/ノンバイナリー」たちと考えるアイデンティティ、ジェンダー、文化~男女二元論、性別規範、生き方~』と題したイベントが、2021年11月27日(土)13:00からオンラインで開催されました。多世代の「Xジェンダー/ノンバイナリー」たちがどのように社会の中で生き残ってきたのかを語り、またそのアイデンティティを自分自身がどう受け止めているのかを共有するために、藤原和希さん、原ミナ汰さん、辛島悠さん、なかけんさん、まさよしさんの5名のゲストをお迎えしました。司会進行は当センターの大賀一樹が務め、各登壇者からの体験談の後これからの社会文化をどう紡いでいくのかについてディスカッションを通じて共有することを目的に開催されました。イベントには238名もの方にご参加いただき、依然としてセクシュアル・マイノリティの中で周縁化されやすい存在である「Xジェンダー/ノンバイナリー」を主題として当事者が集まり、語り合う、貴重な場になりました。イベントについて、GSセンター学生スタッフのしゅんDが報告いたします。
第一部:講演
第一部では各ゲスト様から自身のライフヒストリーや経験、活動の中で得られた当事者の悩み・葛藤についてお話しいただきました。
まず藤原さんからは、「Xジェンダー/ノンバイナリー」が抱えやすい悩みとして「呼ばれ方」があるとして、ご自身で運営されている当事者グループ内でも70%の方が「自分の名前」で呼んで欲しいと回答があったことを報告していただきました。また藤原さんから英語の“they”にあたる性別を限定しない呼び方として「彼人(かのと)」「彼の人(かのひと)」を提案していただきました。
原さんからは「どこかに帰属することの生きづらさ、どこにも帰属しない生きづらさ」をキーワードに、ご自身のライフヒストリーについてお話しいただきました。辛島さんからは、ご自身が編集者として『第三の性「X」への道』の出版に関わるまでのライフヒストリーをお話しいただき、30歳を過ぎてからジェンダークリニックを受診したことや自分のジェンダーアイデンティティを認識するまでに発達障害が与えた影響について、なかけんさんからはご自身のライフヒストリーと、ユース世代に必要な支援についてお話をいただきました。最後にまさよしさんからは、「ほとんど男性だけれど揺らぎも含むアイデンティティとしてXジェンダー/ノンバイナリーと認識」しているご自身の「ゆらぎ」の経験を教えていただきました。また、シスジェンダーで異性愛の親が前提となっている子育てにおける環境の中での苦しい経験についてもお話しいただきました。
5名の方からそれぞれお話しいただけたことで、年齢/世代/障害/子育て/パートナー/医療/法律/文化といった様々なレイヤーから「Xジェンダー/ノンバイナリー」たちのこれまでの生存への苦闘を知る時間となりました。
第二部 パネルディスカッション・質疑応答
第二部の冒頭では、第一部についてそれぞれのゲストの方に感想を伺いました。原さんは「自分のまわりで様々なコミュニティ作りをしてきたが、Xジェンダーの仲間に向けた活動はしてこなかった。というのも、その前に越えなければならにハードルが多かったから。それをグループとしてX/ノンバイナリーという言葉ができてきて、今回のイベントで当事者が集まって話ができることは『ひとりじゃない』と思えて感慨深い。ずっとひとりだと思って生きて来たので。」という発言をされ、司会の大賀さんもそれに大きくうなずき、「(ちょうどZoomの調子が悪かったので)心の震えが通信障害を引き起こしたみたいです」と泣き笑いのコメントで応答していました。また、「ひとくちにXジェンダー/ノンバイナリーといってもひとりひとり違う。本当に様々なのでこうやっていろんな人同士で話すことが大事と思った。それでみんなで共存していきたい。」(辛島さん)のように、多様な経験を可視化することができたことに希望を見出す発言もありました。
「性別二元制社会で暮らしているときの生きづらさと個人的対処」
まさよしさんからは「性別欄・父母欄は答えない。言われたときだけ書く。でもどうしても書かなくちゃいけないときに自分で書くのはつらいので、人に相談したら、窓口の人に書いてもらうことを提案されてそうしている。」というお話がありました。なかけんさんは、「スーツがどうしても無理だったので就活が大変だった。合同説明会ではなく個別で会社に行くようにし、そのたびにスーツでなくてもいいかを聞いて対応してもらった。対応してもらうことができる企業もあったが、そのためにわざわざメールするといった追加のコミュニケーションが本当に大変だった。」と就職活動の困難を振り返りました。
「身の回りの社会の現状課題と今後への期待」
パスポートに「性別X」を作ること、同性婚の実現や、ファミリーシップ制度のように二人という型に縛られない既存の形以外の家族の形を選択できるようになってほしいという提案もありました。
「次世代のXジェンダーやノンバイナリーの人々へのメッセージ」
辛島さん「何年か前よりはだいぶいい社会になっていると実感しています。アンケートの性別欄などちょっとしたことでもいいので、声をあげることでより良い方向に変わっていくはずです。『すべての人が生きやすい社会』というと綺麗事っぽいのですが、理想を想像することが大事だと思います。」
まさよしさん「今日までなんとか生きてきた知恵を集めて、一緒に生きていけるといいですね。」
藤原さん「決していい世の中ではないかもしれないですが、ゆっくりとよくなっていることは確かだと思います。まずは生きることが大事ですが、ちょっとでも余力があれば、社会をいい方向に変えていければいいと思います。」
なかけんさん「『怖くて結果的に戸籍上の性で社会に馴染んで生きていて、なんかすみません』と言われたことがあるのですが、その方は生きているだけですごいのに、そう思わせてしまった社会ってなんなんだろうと思うことがあります。その生きづらさは社会が作ったものだし、生きてるだけですごいと言いたいです。」
原さん「若い人は、つらくてどうしようもなくて動けない時期が絶対あります。その時はじっとしてそこに根を生やして、静かに待ってていいと思います。あるとき風が変わって、その風の変わり目は不幸なことだったりいいことだったりするけど、動けるようになります。動けない時間はそのときのための養分をためている時間なので、若い人には自分を信じてほしいと思います。」
質疑応答・クロージング
質疑応答の中で「幼少期からの違和感は必要ですか?」という質問に、原さんが「必要ない。むしろこれまでそうしたストーリーが届いて来なかったことは”声がかき消されてきた”からであり、何かのセクシュアリティを自認するのに特定の経験が必要ということはない」と答えてくださいました。この質疑でわかるように、今回のイベントはこれまで「かき消されてきた」Xジェンダー/ノンバイナリーたちの声を聞くイベントになったと思います。「レズビアン」コミュニティ、「トランス」コミュニティ等…の中で聞かれなかった声、さらにまた「Xジェンダー/ノンバイナリー」コミュニティの中で周縁化されそうになる声。オンラインではありながらも、様々な世代の様々な経験を持つ当事者が一堂に会し、声を交わして響かせ合ったことは、とても貴重な時間でした。
ゲストの皆様が運営しているコミュニティや、GSセンターでさらに耳を傾け、声を聞くことを通して、若者へのメッセージにもあったように「ほんの少しだけいい世の中になっていく」のだと感じることができるイベントでした。
本イベントのアーカイブ動画はGSセンター内でのみ視聴可能ですので、ご関心のある方は是非GSセンターにお越しください。