ヒューマノイドロボットが世界的な研究分野として注目されるはるか以前から、早稲田大学ではその研究開発が行われていました。1973年に誕生したWABOT-1を起点に、その流れは現在のAI搭載ロボットへと受け継がれています。この長い歴史の礎を築いたのが、「日本ロボット研究の父」と称される故・加藤一郎教授です。同教授が1970年代初頭に開始したWABOTプロジェクトは、今日のロボティクス研究にも大きな影響を与え続けています。
本記事では、楽譜を読みエレクトーンを演奏するWABOT-2や、お笑いロボットKOBIANを含む、革新的な8体のロボットを紹介します。
WABOT-1(1973)— 世界初のヒューマノイドロボット
提供: 早稲田大学次世代ロボット研究機構
1973年に加藤教授のチームが完成させたWABOT-1は、世界初の本格的なヒューマノイドロボットとして広く評価されています。このロボットは二足歩行が可能で、手を使って物体をつかむことができ、さらに簡単な日本語によるコミュニケーションも実現していました。当時としては画期的な成果であり、ロボットが人間の基本的な動作や感覚を模倣できることを示した点に大きな意義があります。
その能力は1歳半程度の幼児に相当すると比較されることもあり、この成功はその後のヒューマノイドロボット研究の発展を大きく後押ししました。
なお、WABOT-1は現在、早稲田大学西早稲田キャンパス(63号館1階)で展示されています。
WABOT-2(1984)— 楽譜を読み演奏するロボット
提供: 早稲田大学次世代ロボット研究機構
1984年に発表されたWABOT-2は、音楽能力を備えたヒューマノイドロボットとして開発されました。前モデルのWABOT-1とは異なり、このロボットは楽譜を読み取り、手と足の両方を使って電子オルガン(エレクトーン)を演奏することができます。さらに、人間の歌手に合わせて演奏を調整することも可能でした。
このプロジェクトも加藤教授の指導のもとで進められ、知覚と運動の協調を統合した初期の成果を示しました。WABOT-2は1985年のつくば科学万博(Expo ’85)で公開され、ロボットが創造的かつ対話的な活動を行えることを示す事例として注目を集めました。
一部映像提供: National Communication Museum, Australia
WABOT-2は通常、早稲田大学西早稲田キャンパスの63号館でWABOT-1の隣に展示されていますが、現在はオーストラリア・メルボルンのNational Communication Museumに貸し出されています。同館では、人間と機械の関係性を探る「FRIEND」展の中心展示として紹介されており、まもなく展示期間を終え、2026年半ばから後半にかけて早稲田大学へ戻る予定です。
WABIANシリーズ(1990年代〜2000年代)— 人間らしい歩行の追求
提供:Atsuo TAKANISHI Lab., Waseda University
1990年代から2000年代にかけて開発されたWABIANシリーズは、ロボットの歩行をより人間らしくすることを目的とした研究プロジェクトです。これらのロボットは、安定した二足歩行だけでなく、自然な動きでの方向転換や、物体を持ちながらの移動といった複雑な動作にも対応できるよう設計されました。
高西淳夫教授(理工学術院)をはじめとする研究者たちによって進められたこのシリーズは、ヒューマノイドロボットにおけるバランス制御や運動の協調性の向上に大きく貢献しました。
Waseda Talkers(2000〜2008)— 人間の発話を再現するロボット
提供:Atsuo TAKANISHI Lab., Waseda University
2000年頃から、高西淳夫教授(理工学術院)をはじめとする研究者のもとで開発が始まったWaseda Talkers(WTシリーズ)は、人間がどのようにして音声を生成しているのかを解明することを目的としたロボットシリーズです。このプロジェクトでは、一般的なスピーカーを使用するのではなく、人工声帯や肺、口腔などの人間の発声器官を機械的に再現することによって音声を生成します。
このように人間の発話の仕組みそのものを模倣することで、より自然で現実的な音声の生成が可能となり、人間とロボットのコミュニケーションの理解と発展に寄与しました。
WF-4R(2003)— フルートを奏でるロボット
提供:Atsuo TAKANISHI Lab., Waseda University
WF-4Rは、高西淳夫教授のもとで開発されたフルート演奏ロボットで、「Waseda Flutist No.4 Refined」として知られています。このロボットは、人間のような演奏技術と表現力の再現を目指して設計されており、楽譜に基づいた演奏に加え、メロディを認識しながら人間の演奏者と相互にやり取りする機能も備えています。
同プロジェクトは、音楽演奏に必要とされる複雑な運動制御や感覚処理を理解・再現するための長期的な研究の一環であり、音楽教育や人間とロボットの相互作用研究への応用も視野に入れられています。トレードマークである黒いトップハット姿も印象的です。
TWENDY-ONE(2007)— 安全で実用的な生活支援ロボット
提供: 早稲田大学次世代ロボット研究機構
2007年に発表されたTWENDY-ONEは、研究用途にとどまらず、実生活での活用を視野に入れて開発されたヒューマノイドロボットです。このロボットは特に高齢者や介護を必要とする人々の支援を目的としており、日常生活の中で安全かつ確実に作業を行えるよう設計されています。
柔らかく感度の高い手や高度なセンサーを備えているため、壊れやすい物体も丁寧に取り扱うことが可能であり、人間と安全に接触することもできます。開発は、加藤教授の教え子でもある菅野重樹教授(理工学術院)の研究チームによって行われ、ロボットが実際の家庭環境で人々の生活を支える未来像を示しました。
KOBIAN(2009)— 全身で感情を表現するロボット
提供: Atsuo TAKANISHI Lab., Waseda University
KOBIANは、高西淳夫教授による別プロジェクトとして開発されたロボットで、歩行や作業能力ではなく「感情表現」に焦点を当てている点が特徴です。このロボットは、顔の表情だけでなく全身の動きを組み合わせることで、喜びや悲しみ、驚きといった感情を表現します。
この研究は、人間がロボットの感情をどのように読み取り、どのように関係性を築くのかを探るものであり、人とロボットのより円滑な相互作用の実現に向けた重要なステップとなっています。
AIREC(開発中)— 共に生きるための次世代ロボット
提供: 早稲田大学次世代ロボット研究機構
現在、早稲田大学で開発が進められているAIRECは、日常環境の中で人と共に生活し働くことを目指した次世代ヒューマノイドロボットです。名称は「AI-driven Robot for Embrace and Care」を意味し、家事支援や介護、医療支援などを通じて人を支えることを目的としています。
このプロジェクトは菅野重樹教授を中心に尾形哲也教授(理工学術院)らの協力のもと進められており、日本政府のムーンショット型研究開発制度の一環として位置づけられています。ロボットが自律的に複雑な作業を学習し、社会の中で長期的なパートナーとして共存する未来の実現が期待されています。

WABOT-1の誕生からAIRECに至るまで、早稲田大学におけるロボット研究は、人間により近い存在を目指して進化を続けてきました。それは単なる外見の模倣ではなく、機能や知能、さらには人間理解にまで及ぶものです。
この半世紀にわたる積み重ねに支えられ、早稲田大学のロボティクス研究はこれからも発展を続け、人とロボットの新たな関係性を切り開いていきます。




