東アジアにおける水稲文化と水利システムの研究
分野：文化
水稲文化研究所
Waseda University Wet-Rice Culture Research Institute
研究テーマ
研究概要
水稲文化研究所は、共同研究の全体的にテーマを「東アジアにおける水稲文化と水利システムの研究」として2000年度に発足して以来、すでに16年に及ぶ伝統を有する。様々な分野の研究員を擁して東アジアの水田農耕に関わる文化を総合的に研究しつつ日本に収斂させて地域文化研究の核となった中世村落とその母体となる荘園に関して共同研究を進めて、先鋭的な研究モデルを構築することを目指してきた。この村を軸とする伝統文化の研究モデルを東アジアさらにはヨーロッパ村落にも適用して、重層的に積み重ねられてきた伝統的村落構造をデジタル化し、「多層荘園記録システム」の構築を目指す。
歴史学、文化人類学、考古学、民俗学、宗教学などの各分野でそれぞれの共同研究を進めつつ、相互に緊密な情報交換を行って核となる共同研究に集約するという試みは、すでに2011～2014年度に行った科学研究費基盤研究(B)「備中国新見莊における総合的復原研究」で実現された。多面的な共同研究のサポートを得たこの研究は東京大学史料編纂所等の研究協力により2冊の著作として結実した。
2015年度からは規模を大きくし、基盤研究(A)の研究プロジェクトとして進めている。2013年度終了の復原研究ではGISソフトの17層のレイヤーに5146箇所の地名を記録することができたが、さらに今回の研究「既存荘園村落情報のデジタル・アーカイブ化と現在のIT環境下における研究方法の確立」ではISの性能をアップし、最高水準のものにする。このような研究モデルとなるデータにより、豊後国田染莊（大分県豊後高田市、2011年文化庁選定）に続く重要文化的景観を策定する。また、その選定に当研究所が寄与したインドネシア・バリ島に続く水利システムの世界遺産化を目指す。
上記の目的を達成するため、パイロットモデルとして、農林水産省による田園空間博物館構想が実施され、重要文化的景観の選定、世界の農業遺産の登録が行われた宇佐宮領豊後国田染莊（大分県豊後高田市）を取り上げる。また、カレントモデルとして、西国・東国を結ぶ要衝の地で、伝統文化の維持と都市化が交錯する美濃国大井莊・茜部莊（岐阜県大垣市、岐阜市）を取り上げて都市化を視野に入れた伝統文化保存の方法を確立する。さらに、この二つのモデルの中間的な位置にある備中国新見莊（岡山県新見市）において、水稲文化とたたら生産との関係を明らかにして、研究のレベルを高めることとしたい。
研究報告
【2016年度】
2015年度に採択された科学研究費基盤研究（A）「既存荘園村落情報のデジタル・アーカイブ化と現在のIT環境下における研究方法の確立」により本年度も共同研究を進めた。特に水稲文化研究所の所員である高木徳郎氏、高橋龍三郎氏、松澤徹氏と研究対象地域である東大寺領美濃国大井荘（岐阜県大垣市）において共同調査を行い、学際的な研究を進めることができた。大垣市教育委員会および大垣市立図書館の協力を得て、天平勝宝8年（756）に聖武天皇が勅施入した莊域を確認し、さらに鎌倉時代初期から顕在化する大井荘の水害と堤防「笠縫堤」に関して灌漑に関わる調査を行い、大井荘の水源に発する水門川が近世には大垣城の外堀となり、「荘園」から「城下町」へのコースをたどった希有な地であることが確認された。
これらの調査と併行して、荘園の歴史的環境に関わる美濃国の国府・国分寺及び昼飯大塚古墳、不破関などの調査も行い、古代から中世にかけての西美濃の状況および大井荘を生み出した安八郡条里の水田に関しても研究を進めた。大垣輪中などの調査も進め、揖斐川とその支流である杭瀬川および平野井川についても実地調査ができ、近世の防災に関する考察も深めることができた。
所長
高木 徳郎[たかぎ とくろう]（教育・総合科学学術院教授）
メンバー
【顧問】
海老澤 衷（早稲田大学名誉教授）
【研究所員】
久保 健一郎（文化構想学部教授）
西村 正雄（文化構想学部教授）
高橋 龍三郎（文学部教授）
鶴見 太郎（文学部教授）
高木 徳郎（教育学部教授）
松澤 徹（高等学院教諭）
【研究員】
河合 徳枝（客員上級研究員（研究院客員教授））
【招聘研究員】
八木 玲子(東京成徳短期大学幼児教育科准教授)
連絡先
E-mail：[email protected]
