【意思決定 × データサイエンス】
人が意思決定をするメカニズムをデータで解明する!
早稲田大学 文学学術院 竹村和久教授
早稲田大学では、文系・理系問わず、さまざまな分野でデータサイエンスの手法が活用されています。文学学術院の竹村和久教授は、人間がどのように意思決定をするかをさまざまなデータを用いて明らかにする「行動意思決定論」を専門にしています。研究室では、どのような研究が行われているのでしょうか?
「人間はどのように意思決定をするのか」
——竹村先生の研究分野について、詳しく教えてください。
私の専門は「行動意思決定論」です。人はどのように意思決定するのか——。そのメカニズムを客観的なデータによって解明したいと考えています。意思決定の研究は、社会工学、経営工学、経済学、心理学などにおいて、数多くなされてきました。なかでも私の専門である「行動意思決定論」は、行動経済学の一分野と位置づけられることも多いようです。
この分野では、意思決定を科学的に追究したハーバート・サイモンや行動経済学研究で有名なダニエル・カーネマンなどが先行研究を行っており、両者はいずれもノーベル経済学賞を受賞しています。「意思決定のメカニズム」と聞いて、興味を持った人は、ダニエル・カーネマンの「プロスペクト理論」などを調べてみるといいでしょう。
私はもともと学部では、理論的な経済学を学んでいました。しかし、理論よりも実証的な研究をしたいと考え、大学院から行動経済学、経済心理学、実証心理学などにもフィールドを広げて研究をしてきました。そもそも私は、学問分野というものを意識していません。本質としては、「人間がどのように意思決定をするのか」という現象を解明することが目的で、それを追究するなかで、いろいろな分野にまたがる研究になってしまったというのが実状です。
アイカメラを用いて消費者の視線の動きを観察する
——先生の専門領域におけるデータを活用した研究についてお聞かせください。
私は現在、主に文学部の授業を担当していることもあり、研究室の学生たちは文理融合の実に幅広い研究に取り組んでいます。例えば、ヒットする広告のメカニズムを考察したり、話題のゲームの売上を予測したり……。こうした世の中のトレンドを予測するような研究をしている学生が多いですね。また、コロナ禍には、研究室の学生と一緒に感染状況を可視化して、予測するような研究も行いました。文学部の研究室ではありますが、複雑な数理モデルを使った課題にも挑戦してもらいます。
実際の研究のわかりやすい事例としては、「消費者行動分析」があります。これは、人間の視線を記録するアイカメラを用いて、スーパーやコンビニの売り場における消費者の行動を観察する実験です。具体的には、売り場に並ぶ商品を目にした消費者の視線の動きをデータ化して解析し、意思決定のプロセスを推測します。つまり、商品を購入した消費者の視線の動きを数理モデル化して、売り場の商品配置などに役立てるわけです。
消費者の行動をデータ化して、「商品を購入する」という現象を解明する——。これは、意思決定をデータサイエンスで解明するわかりやすい事例だといえます。さまざまなテーマの研究に取り組んでいますが、私の目的は最終的に意思決定という現象を解明することに尽きます。
コロナ禍における生活者意思決定の変化を可視化する
——先生はデータ科学センターをどのように連携・活用していますか?
2023年に、データ科学センターと連携関係にある株式会社ADKマーケティング・ソリューションズのオリジナル調査である「ADK生活者総合調査」のデータを用いて、早稲田大学の教員が自由なテーマで研究を行うという取り組みに参加しました。私は「コロナ禍における生活者意思決定の微視的分析と疫学的データとの総合研究」というテーマで応募したところ採択され、研究の成果報告もしました。
内容としては、コロナ禍が日本の食行動に与えた影響を「ADK生活者総合調査」のデータを用いて検討しました。研究の結果、家庭での料理頻度と有機食品の購入が増加し、健康的な食生活への関心が高まったことがデータで示されました。コロナ禍に健康志向が高まったことは、多くの人が感覚でわかっていましたが、これをデータで証明したわけです。他にも、この研究において、対応のない時系列データを分析する新たな方法論を提案し、その有効性が示唆されました。
データ科学センターとのコラボという点では、まだまだ数は少ないですが、所属する研究室の学生が自身のテーマにおけるデータ分析の手法をデータ科学センターに相談して、新たな知見を得るような機会を増やしていきたいと考えています。
現象をデータで記述して、数理的に予測すること
——早稲田大学でデータサイエンスを学びたいと考えている受験生や学部生にメッセージをお願いします。
今後は、大学でどのような研究をするにしてもデータサイエンスの手法は必要になると思います。この手法とは、現象をデータで記述して、数理的に予測することです。ここで「データを扱うこと」が目的になってはいけません。明らかにしたい現象があってこそ、データサイエンスの知見がその実力を発揮するのです。
今や情報系はもちろん、経済学や心理学だけでなく、生物学や医学でもデータサイエンスの活用は不可欠です。まずは社会のさまざまな現象に対する問いを立てて、自ら現場でデータを収集し、その上で早稲田大学のデータ科学センターにどのような研究手法があるのか相談してみるのがいいと思います。統計学や数学の高度な知識が求められることもあるでしょう。それでもここで学んだ現象をデータで記述して、数理的に予測する手法は、将来あらゆる分野で役立つと思います。
(プロフィール)
竹村和久 TAKEMURA Kazuhisa
早稲田大学文学学術院教授、同大学意思決定研究所所長、同大学理工総研兼任研究員、同大学データ科学センター兼任所員。1994年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。1999年、カーネギーメロン大学社会意思決定学部フルブライト上級研究員。2013年、北里大学大学院医療系研究科修了。博士(医学)。現在は、静岡県立大学経営情報学部客員共同研究員、社団法人 医療安全推進機構国際学術理事・客員教授などを兼任。