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【STORIES OF WASEDA 2020】なでしこジャパンのフィジカルコーチとして、東京2020オリンピックへ/広瀬統一(スポーツ科学学術院教授)

2008年に女子代表チームのフィジカルコーチに

なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)のフィジカルコーチになって、10年以上が経ちます。選手のアジリティ(敏捷性)やパワーを高めると共に、適切なケガの予防などによってコンディションを整え、フィットネスレベルを上げていくのが私の役割です。

全体練習の中で行うフィジカルトレーニングや試合後の疲労回復のためのプログラムを考えたり、なでしこリーグで代表選手のコンディションをチェックしたり、各選手に個人的に取り組んでもらうプログラムをつくったりと、選手を支えるためにさまざまな活動をしています。

私がなでしこジャパンのフィジカルコーチとなってまず取り組んだのが、持久力などの運動能力を数値化することでした。各選手のデータを測定し、得意分野、不得意分野を明確化した上で、各選手にトレーニングプログラムを用意しました。プログラムで重視したのは、選手の強みを伸ばすこと。もちろん、各選手の課題を最低限のレベルに引き上げる必要もありますが、サッカーはチームスポーツなので各選手の強みを伸ばすことが重要です。

また、試合を分析することで、なでしこジャパンのチームとしての強みと弱みを明らかにしていきました。日本の女子サッカー選手は、海外の選手と比べて持久力があるというのが、当時の定説でした。しかし、ベスト4になった北京オリンピックでの試合を分析してみると、なでしこジャパンの選手は後半の残り15分になると運動量が落ちてしまうことがわかりました。ゆっくり長く走る持久力は高かったのですが、スプリントを繰り返すために必要な“スピード持久力”は十分でなかったのです。

北京オリンピックで課題が明確になり、スピード持久力やアジリティなどのフィジカル強化に効果的に取り組めたことも、2011年のドイツ女子ワールドカップで優勝し、2012年のロンドンオリンピックで準優勝できた大きな要因と言えると思います。

 

2016年に発足したチームで、オリンピック優勝へ

高倉麻子監督が就任し、2016年になでしこジャパンは新チームとなりました。東京オリンピックに向けて残り半年となりましたが、選手一人ひとりがフィジカルの向上にも取り組んでいます。

ヨーロッパで女子サッカーがプロ化した影響などもあり、世界的に女子選手のフィジカルのレベルは上がってきています。そうした中でなでしこジャパンは、強みであるスピード持久力とアジリティにおいては世界一でなくてはなりません。新チームの発足から2年半が経ち、数値を見ても個々の選手の能力は大きく伸びています。代表チームの選手は成長するために貪欲ですし、自分の課題を理解して克服していく力もあります。オリンピックでの優勝に向けて、チームとしてさらに成長できるはずです。

 

新たな価値を生む力を、学生には身に付けてほしい

これは女子選手に限った話ではありませんが、選手のフィジカル的なレベルが高まるにつれて、実はケガも多くなっています。練習の強度が高まっているので、しっかり予防を行わないとケガしてしまうのです。

こうした状況を変えていくためには、ケガを予防する適切なフィジカルトレーニングに、中高生の年代から取り組める環境づくりを進めていく必要があります。日本は現在約650万人の中高生がいますが、彼らに適切な環境を提供していくための取り組みを、スポーツ学術院に在籍する教員たちと連携して進めています。

そして、早稲田大学での授業やゼミを通して、適切なプログラムを提供できるアスレティックトレーナーを育成しています。アスレティックトレーナーには、幅広い知識が必要とされます。スポーツにおける専門的な理論や知識を研究する学問を「アスレティックトレーニング学」と言いますが、「ケガをどのように予防するか」「ケガをどのように治療するか」「選手の安心・安全をどのように保証するか」など、アスレティックトレーナーが担う全てに関連することが私の授業のテーマとなっています。グループワークやディスカッション、実習を積極的に行うことで、学生が主体的に学べる授業となるようにも意識しています。

また、私のゼミでは、学生たちに「学び方を知ってほしい」と考えています。例えば学生に、ある選手のためにコンディション管理のプログラムをつくってもらって、それを私がチェックすることで、足りない知識が明らかになります。そして、足りない知識を習得する方法をアドバイスすることができます。そのように学んでいるうちに、“自分に必要な知識を学ぶ方法”を身に付けてもらい、新たな価値を生み出していけるアスレティックトレーナーに育ってほしいと思っています。

 

アスレティックトレーナーを目指すなら、活動したい環境を明確に

将来はアスレティックトレーナーになりたいと考えている方には、どのような環境で活動したいのかをはっきり定めてほしいと思います。プロチームなのか、パーソナルトレーナーなのか、それとも学校で活動したいのか。明確に定めた目標に向かって毎日の自分の活動に真摯に取り組むことが成長につながるはずです。

早稲田大学のスポーツ科学部には、優秀な仲間と切磋琢磨しながら学べる環境があります。教える教員には、多様な分野のスペシャリストが揃っています。ひとつのことだけを極めるのではなく、幅広い知識を学ばなくてはいけないアスレティックトレーナー志望者には、本当に恵まれた環境だと思います。そして、部活動やスポーツ医科学クリニックなど、学生トレーナーとして活動したりオブザーバーとして見学したり、たくさんの活動場所があるのも大きなアドバンテージとなります。

「意志あるところに道あり」という言葉がありますが、トレーナーになりたいと真剣に思えば必ずなれると私は思います。目の前のことに100%の力で取り組み、一つひとつ道を切り拓いていってください。

 

[プロフィール]

広瀬 統一(ひろせ のりかず)

1974年兵庫県出身。早稲田大学スポーツ科学学術院教授。

早稲田大学人間科学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。

 

東京ヴェルディ、名古屋グランパス、京都サンガ、ジェフユナイテッド市原・千葉などで、ジュニアからユース世代のサッカー選手のフィジカルコーチとして活動。06年より日本サッカー協会フィジカルフィットネスプロジェクトメンバーに就任し、08年からはサッカー女子日本代表フィジカルコーチに。11年の女子ワールドカップ優勝、12年のロンドンオリンピック準優勝に貢献。専門分野は、アスレティックトレーニング、外傷・障害予防、発育発達。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。

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