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From the Dean
学部長挨拶
スポーツ科学学術院長・スポーツ科学部長
前田 清司

スポーツには、人を前へと進ませる力があります。自らの限界に挑み、仲間と力を合わせ、未知なる可能性を切り拓く。その営みは競技の場にとどまるものではありません。身体と心の健康を育み、人と人とのつながりを生み、地域や社会を活性化し、さらには異なる文化や価値観を持つ人々を結びつけます。スポーツは、人間の可能性を引き出し、人の営みそのものを豊かにする、普遍的な文化です。
今日、スポーツを取り巻く環境は大きく変化し、その果たす役割もまた、かつてないほど広がっています。競技力をいかに高めるのか。身体と心の可能性を科学はいかに解き明かすのか。人はいかに健康で豊かに生きることができるのか。スポーツをいかに社会の持続的な発展につなげるのか。スポーツビジネスやスポーツ政策はいかにあるべきか。そして、誰もがスポーツの価値を享受できる社会をいかに実現するのか。こうした問いに向き合うためには、多様な学問領域の知見を結び合わせ、複合的な視点からスポーツの本質と可能性を捉えることが必要です。スポーツを多面的に捉え、その本質と可能性を探究し、新たな知を創出するとともに、その知を社会の未来へとつなげていくこと、それがスポーツ科学の使命です。
早稲田大学スポーツ科学部の歩みは、2003年の学部開設に始まるものではありません。その源流は、1964年、東京オリンピックが開催された年に教育学部教育学科に体育学専修が設置されたことに遡ります。その後、1987年には人間科学部スポーツ科学科へと発展的に改組され、2003年にスポーツ科学部が誕生しました。さらに2006年には大学院スポーツ科学研究科が設置され、教育・研究の基盤は一層強固なものとなりました。そこには、60年以上にわたって培われてきた教育・研究の歴史と知の蓄積があります。しかし、それは単なる年月の積み重ねではありません。社会の変化を見つめ、時代の要請に応えながら、スポーツをめぐる教育と研究はいかにあるべきかを問い続けてきた、不断の挑戦の歴史です。本学校歌に歌われる「現世を忘れぬ 久遠の理想」という一節にも通じる、現実社会を見据えながら高い理想を追い求める姿勢は、本学部に脈々と受け継がれています。長年にわたり蓄積された知と最先端のスポーツ科学が交わり、さらに新たな知へと昇華していくところに、今日の早稲田大学スポーツ科学部があります。
本学は、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」を建学の教旨としています。自由な精神に基づいて真理を探究し、新たな知を生み出し、その知を現実社会の課題解決に活かし、社会に貢献する人材を育てる。この精神は、スポーツ科学部の教育・研究においても確かな指針になっています。本学部が目指しているのは、スポーツに関する高度な専門知識を身につけることだけではありません。スポーツという窓を通して、人間、社会、そして世界を見つめることです。多様な価値観に耳を傾け、複雑な課題を多面的に捉え、自ら問いを立て、科学的根拠に基づいて考え、その知を社会に還元していくことです。そのような知性と実践力を備え、未知なる課題にも主体的に向き合う人材を育てることこそ、本学部の重要な使命です。本学部で学んだ卒業生が、スポーツ界はもとより、医療、健康、教育、産業、行政、メディア、国際社会など、さまざまな領域へと歩みを進め、それぞれの場所で新たな価値を創造していくことを願っています。
スポーツ科学学術院*は、「スポーツ科学を通じて地球市民一人ひとりを幸せにする」ことを使命としています。スポーツそのものの発展に貢献することはもちろん、スポーツ科学が生み出す知を通じて、地域社会や国際社会が抱えるさまざまな課題の解決に挑み、持続可能な社会の実現に寄与すること。それは、これからのスポーツ科学に託された大きな責務です。早稲田大学スポーツ科学部は、その使命のもと、教職員と学生がともに学び、ともに問い、ともに知を創り、未来を切り拓いてまいります。
1964年に始まった本学のスポーツ教育・研究の歩みは、いま新たな歴史を刻もうとしています。これまで築き上げてきた伝統と知の蓄積を礎に、日本のスポーツ科学をさらに発展させるとともに、アジア、そして世界へと新たな知を発信してまいります。「学問の独立」によって自由な知の探究を進め、「学問の活用」によってその知を社会へと還元し、「模範国民の造就」の理念のもと、未来を担う人材を育ててまいります。スポーツの価値を高め、その可能性を広げ、スポーツ科学を通じて人々の幸福と社会の発展に貢献する。その使命を胸に、早稲田大学スポーツ科学部は、これからも知の最前線に立ち、スポーツ科学の新たな可能性を切り拓いてまいります。
*スポーツ科学学術院は、スポーツ科学の教育や研究などを担う大きな組織で、その中に学部生の教育を行うスポーツ科学部がある。
(2026年9月21日)