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- 比研主催講演会:「既遂の中止」ー中止犯論における偶然の問題 4月13日(月)開催されました。
比研主催講演会:「既遂の中止」ー中止犯論における偶然の問題 4月13日(月)開催されました。
Dates
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MON 2026- Place
- 早稲田キャンパス 8号館303会議室
- Time
- 15:00~17:30
- Posted
- Wed, 25 Mar 2026
公開講演会「既遂の中止」―中止犯論における偶然の問題
【主 催】 早稲田大学比較法研究所
【共 催】 早稲田大学法学部・法学研究科
【日 時】 2026年4月13日(月)15:00-17:30
【場 所】 早稲田キャンパス 8号館303会議
【講演者】 ルイス・グレコ(ベルリン・フンボルト大学教授)
【使用言語】 ドイツ語(通訳あり)
【通 訳】 天田 悠(青山学院大学)
【世話人】 松澤 伸(比較法研究所研究所員、早稲田大学法学学術院教授
【対 象】 学生、教職員、一般
【参加人数】25名(うち学生10名)
【概 要】
グレコ教授は、ドイツ刑法学の中核を担う研究者の一人である。今回が5度目の来日であり、2023年および2025年には、早稲田大学比較法研究所において講演を行っている。本講演では、ドイツ刑法24条の理論と判例を手がかりに、犯人がどの程度の行為を行えば既遂を「阻止した」と評価できるのか、また、結果が生じなかったことが偶然に左右された場合にどのように考えるべきかという、刑法理論の根本に関わる問題を検討する。学生・教職員・刑法研究者にとって、刑法理論の核心に触れる貴重な機会となることが期待される。
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◆事前登録は不要です!直接会場へお越しください。
Link to English page
【開催報告】
2026年4月13日(月)、早稲田大学にて講演会「『既遂の中止』―中止犯論における偶然の問題」が開催されました。
ルイス・グレコ教授は、未遂論をはじめドイツ刑法学の幅広い領域で精力的に研究を展開され、クラウス・ロクシン教授の体系書の改訂に携わられるなど、ドイツ刑法学の第一線で活躍していらっしゃいます。
今回の講演会では、グレコ教授は、犯罪の未遂が既遂に至らなかった局面に入り込む「偶然」を手がかりに、ドイツ刑法を前提として、終了未遂における中止犯の成立要件の再検討について講演されました。

グレコ教授は、まず、ドイツ法において中止未遂が不処罰を導く制度として位置づけられていること、これに対し、日本法(刑法43条)が減軽から免除までを含む柔軟な構造を持つことを整理し、制度設計の違いが偶然の評価にも影響しうることを指摘されました。次に、ドイツ法刑法における中止の態様の一つである「犯罪が既遂に達するのを阻止した」ということが、具体的に何を意味し、どこまでの努力を尽くすことが求められるのかについて焦点を当てて検討することが提示されました。さらに、中止犯の要件をめぐる学説の対立を紹介され、それぞれの説の相違は、偶然という要素をどこまで許容するかという態度の違いに由来する、との見取り図を提示されました。
続いて、グレコ教授は、ドイツの判例を紹介し、先例が偶然という要素をどこまで許容して中止犯を認めてきたかを具体的に説明されました。今回の講演で紹介されたのは、ベビーフード恐喝事件(BGHSt 64,80)、ガス栓事件(BGHSt 48,147)、病院事件(BGHSt 31,46)、電話帳事件(BGH NJW 1986,1001)、E-605事件(BGH NStZ 1989,525)の6つの判例です。
グレコ教授は、終了未遂の中止犯をめぐる議論に対し、根拠論を立てても抽象的なものにとどまり、決定的な基準(アルキメデスの支点)になりえず、中止犯の成立の肯定・否定いずれの結論も導けてしまうという問題点を指摘されました。そこで、グレコ教授は、個別事例で中止と評価できるかを判定するための手がかりとして、体系論・不作為犯論・故意論という3つの論拠から検討されました。本講演では、このうち故意論に焦点を絞って議論が進められました。
中止行為があったとしても、行為者がなお結果発生を容認する故意を維持している限り中止とは評価できないという観点から基準を組み立て、グレコ教授は、未遂行為と中止行為の順序を入れ替えて比較する「時間逆転テスト」を提示し、逆転してもなお故意の認定に躊躇しないなら中止犯は成立しないとの見解を示されました。さらにこの考え方を、当該時点の選択可能性(水平軸)と救助過程全体(垂直軸)という2つの軸で精緻化し、最適行為は絶対的最善である必要はないが、少なくとも故意の存立と両立しない行為でなければならないと論じられました。
結論として、グレコ教授は、終了未遂の中止犯は、行為者の積極的作為が既遂阻止の原因の一つとなる場合に限り成立し、他人の助力を得る局面では具体的事情の下での最善の行為を行うこと、または故意を打ち消すに足る行為に及ぶことが要請されるとの見解を示されました。

質疑応答では、グレコ教授のご見解において毒物投与後の中止行為(解毒剤投与、救急要請、病院同行等)の異なる段階ごとの中止行為の評価の違いや、日本の裁判例(東京地判平成7年10月24日判時1596号129頁)との比較を手がかりに、中止犯成立の限界が検討されました。議論は終始活発で、グレコ教授からフロアに逆質問が投げかけられる場面もあり、参加者全体で議論をより深めることのできる機会となりました。また、休憩時間中にもグレコ教授は参加した学生たちに気さくに声をかけられ、予定時間内には議論が尽きず、終了後に個別に質問に赴く参加者も見られるなど、講演会は盛況のうちに閉会しました。
(文:野村 春歌 比較法研究所 助手)