公開講演会「エストニアにおけるAI活用:行政での活用による法的課題それに伴う大学における研究の変容」
【主 催】早稲田大学比較法研究所
【共 催】早稲田大学法学部
【日 時】2025年1月28日(火)15:00-16:00
【場 所】早稲田キャンパス 8号館219会議室
【報告者】タネル・ケリクマエ(タリン工科大学教授)
【世話人】江原 勝行 (比較法研究所研究所員、早稲田大学法学学術院教授)
参加者:6名(うち学生4名)
【開催概要】
2025年1月28日、早稲田大学比較法研究所主催により、講演会「エストニアにおけるAI活用:行政での活用による法的課題それに伴う大学における研究の変容」が開催されました。講演者としてタリン工科大学(Tallinn University of Technology)のタネル・ケリクマエ教授(Prof. Tanel Kerikmäe)を迎え、エストニアにおける電子政府の発展過程を踏まえつつ、行政におけるAI・デジタル技術の活用実態、これに伴う法的課題、さらに大学における研究活動の変容について、具体的な事例を交えてご講演いただきました。
【講演内容】
本講演では、エストニアの電子政府に関する先進的な取り組みと、その法的課題について紹介されました。中核となるのが電子署名(Digital Signature)の活用であり、行政のみならず民間契約でも広く用いられています。また、ブロックチェーンシステム(Blockchain System)は、政府レジストリの整合性を保証する手段として導入され、安全性とプライバシー保護の両立を実現しています。
さらに、民主主義の強化に向けた電子民主主義(e-Democracy)の取り組みも進められており、電子請願(e-Petitions)や電子投票(e-Voting)などを通じて、市民参加の促進が図られています。
また、行政サービスの分野では、電子税務(e-Tax)やe-ヘルス(e-Health)、電子処方箋(e-Prescription)といったサービスが整備されており、効率的かつ迅速な手続きが可能となっています。さらに、世界初の電子居住制度(e-Residency)は、国外からの起業や納税を可能にし、エストニア経済にも貢献しています。
都市レベルでは、スマートシティ(Smart City)政策が推進されており、ライフイベントに応じたプロアクティブ・ガバメント(Pro-active Government)が実装されています。将来的には、結婚や転居、失業、死亡など、あらゆる場面で自動的に行政手続が開始される、より高度なプロアクティブ・ガバメントの実現が目指されています。
最後に、デジタル・エコシステム(Digital Ecosystem)の構築によって、リアルタイムな経済活動とデータ共有が進められており、国家間の協力と競争力強化の観点からも重要なテーマとして位置づけられています。
【質疑応答】
質疑応答では、AIを活用した行政サービスに不具合が生じた場合の責任の所在について質問が寄せられました。これに対し講演者は、過去に国家補償基金の設立を提案したことに触れつつ、現在はデジタルサービスであっても通常の行政行為と同様に、国が責任を負う旨が法律に明記されていると説明しました。また、講演の最後には、今後の研究交流に対する期待が述べられ、国際的な学術ネットワークへの積極的な参加が呼びかけられました。
文責:杜 雪雯(早稲田大学比較法研究所 助手)