Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】第3回中日私法シンポジウム「―AI時代における私法上の課題と展望」が開催されました

Dates
  • 1022

    SUN
    2023

開催日時・場所

【日時】2023年10月22日(日)9:30~16:40
【場所】早稲田大学8号館303会議室+オンライン

【テーマ】第3回中日私法学会シンポジウム「―AI時代における私法上の課題と展望」
【講演者】満洪傑(華東政法大学教授)、長島光一(帝京大学法学部講師)、 孫莹(西南政法大学教授)、平井光貴(早稲田大学法学学術院講師)、鄭志峰(西南政法大学准教授)
【言 語】日本語、中国語(通訳あり)

参加者:36名(うち学生7名)

本シンポジウムは、日本と中国の私法分野における研究者が一堂に会して行われるシンポジウムの第3回である。第1回は早稲田大学を会場として2020年1月19日に開催され、第2回は華東政法大学を会場とし、日本側参加者はオンラインで参加して2021年10月30日に開催され、今回はその第3回目となる。第2回以降共通テーマを設け、第2回は「新型コロナ下の法律問題」を扱ったが、今回の第3回目は、社会や制度にAIが導入されることに伴う法的問題を取り扱った。

当日は、まず、満洪傑華東政法大学教授と鎌田薫早稲田大学名誉教授・元総長による開会挨拶が行われた。ついで、午前の第1セッションの最初に、満洪傑教授が「プライバシーの保護と利益の共有―臨床データ医学研究への規制の転換」と題する報告を行った。満教授は、現状の臨床データの規制の在り方を批判的に検討し、患者の利益は臨床データの所有とコントロールではなく、プライバシーの保護と医学研究成果の共有にあると指摘して、患者の自己決定によりもリスク分配に焦点を当てるべきとする。これに対し、李国強大連海事大学教授及び肥塚肇雄早稲田大学教授がコメントを行い、伝統的民法の視点からの分析の必要性、日本の香川県における医療データの活用状況等につき紹介された。次に、長島光一帝京大学講師が、「AI を実装した対話型ロボットの法的責任」につき報告を行った。長島講師は、AIの社会実装およびその医療分野での活用につき紹介したうえで、現在、実証実験も行われている対話型ロボットでのAIの活用事例とそこでの問題につき検討をした。これに対し、李燕山東政法学院教授が、被害者救済・紛争解決の観点からのコメントを行った。

午後の第2セッションでは、最初に、孫莹西南政法大学教授が、「私法の視点からみる個人情報保護法の若干問題」につき報告を行った。孫教授は、現在の個人情報侵害が「大規模」に行われるという特徴があるとし、個人情報の保護に当たって私法上のアプローチが重視されるべきこと、懲罰的損害賠償の適用の余地があることを指摘する。これに対しては、唐林垚中国社会科学院助理研究員及び山口斉昭早稲田大学教授がコメントを行い、AIと法の関わり方に関する見解や、日本における個人情報侵害に対する司法的救済の現状等が紹介された。次に、平井光貴早稲田大学講師が「AI・自由意志・責任帰属可能性」と題する報告を行った。平井講師は、AIと責任実践の関係がどのようなものでありうるかにつき、回顧的/展望的責任論と因果的決定論の観点からの整理を行う。これに対し、程坦中南財経政法大学講師から、AIの展望的責任論に対する共感を示すコメントがなされ、また、AIの行為者性に関する議論がなされた。さらに、鄭志峰西南政法大学准教授が、「自動運転と民事責任」につき報告を行った。鄭准教授は、自動運転の民事責任に関する中国での現在の論点を示し、学説の検討と、自動運転車導入のための関連立法の紹介およびその問題点・残された課題を指摘した。これに対しては、呉逸寧上海社会科学院助理研究員及び大塚直早稲田大学教授がコメントを行い、日本における議論状況や、両国における自動運転の民事責任に関する理論的課題や責任根拠について、整理が行われた。

最後に、瀬川信久北海道大学名誉教授と満教授による閉会挨拶が行われ、その中では挨拶に代えての、本シンポジウムのまとめ及び視点についての言及も行われた。また、シンポジウム終了後には、次回第4回のシンポジウムへ向けての企画・検討会議が行われた。

本シンポジウムは、現在まさに社会への導入が行われ始めているAIを切り口として、私法上の課題と展望を検討するものであった。しかし、その中で扱われた、情報に関する規制の在り方、責任の主体に関する議論、その理論的根拠等は、民法をはじめとする規制の在り方や、法の機能に関する新たな課題を浮かび上がらせるものであった。これは、現代が、法の役割に関する転換期に入りつつあることをも示すものであったと言え、かつそれが日中両国に共通している現象であることをも本シンポジウムで確認することができた。

(文:山口斉昭・比較法研究所研究所員)

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