国際シンポジウム「デジタル化と金融法の未来」
主 催:国際商事研究学会、国際取引法学会国際契約法制部会
共 催:早稲田大学比較法研究所 早稲田大学法務研究科
日 時:2023年12月2日(土)12時55分~19時00分
場 所:早稲田キャンパス8号館303会議室およびZoom
世話人:久保田隆(早稲田大学法学学術院教授、早稲田大学比較法研究所研究所員)
参加者:157名(うち学生109名)
国際取引法と国際経済法に跨る専門分野として国際金融法がありますが、この分野は、デジタル通貨やデジタル貿易、DAO(自律分散組織)などの拡大といったデジタル化に伴って大きく変化を遂げつつあります。たとえば、法定通貨のデジタル化である中央銀行デジタル通貨(CBDC)は一部の国では既に実用化され、中国やスウェーデンでは導入間近で、欧米や日本も数年後に実現する見通しにあります。その他、ウェブ3.0やAI(人工知能)などが世界的に注目を集め、先行する欧米に続いて、日本でも様々な実務が日々発展し、研究面でも国際商事研究学会と国際取引法学会、国際経済法学会などが精力的に取り組んできました。今回の国際シンポジウムでは、欧米・アジア・アフリカの、先進国から途上国に至る世界各国から著名な専門家10名(うち日本からは2名<世話人を含む>)を招聘し、世話人が司会・タイムキーパーを務めて最先端問題について英語でご講演頂きました。さらに、主宰学会所属の日本の専門家(若手・シニア双方)を予定討論者に指名して英語で講演者に議論を挑んで頂くことで議論を活発化させ、実務家・研究者・学生(大学院、学部、海外交換留学生)等の参加者全体の最先端分野に関する知見を拡げる機会としました。報告内容の詳細は2024年刊行の国際取引法学会誌にて英語で公表される予定です。シンポジウムに先立ち、主要な講演者・予定討論者がランチミーティングを開催し、入念な打ち合わせを実施しました。
第1セッションは対面(早稲田大学8号館303号室)およびZoom併用で、対面会場に65名、Zoomに47名が参加しました。宝木和夫国際商事研究学会会長から主催団体の片方を代表して開会挨拶があった後、30分毎に以下の報告を行いました。第一報告はJohn Taylorロンドン大学名誉教授・弁護士(英国)がDigital Trade(デジタル貿易)に関する最新の法整備状況を報告し、船荷証券電子化等に関する「UNCITRAL電子的転送可能記録のためのモデル法」(MLETR:マレータ)の各国における普及状況(英国は導入済み、米国は導入作業中で、日本も導入・立法化の見通し)を説明し、渡邊崇之早大客員研究員が予定討論者を務めました。第二報告はBenjamin Geva ヨーク大学教授(カナダ)がStablecoins and CBDC(ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨<CBDC>)に関する各国の法規制の詳細と課題、およびCBDCの今後の課題展望が報告され、中川忍埼玉大学教授がZoomを介して予定討論を行いました。第三報告はAgasha Mugashaグル大学教授(ウガンダ)がCrypto Assets in Africa(アフリカにおける暗号資産)について現状や法的課題を説明し、アフリカ等の途上国特有の問題を提起した後、四方藤治大東文化大学講師が予定討論を務めました。第四報告は前述の宝木和夫会長(日本)が暗号学の見地から、CBDC Tech Proposal in Japan(日本におけるCBDC実用化の暗号技術上の課題)を報告し、森勇斗山形大学専任講師が予定討論をしました。第五報告はWill Batemanオーストラリア国立大学教授(オーストラリア)がConstitutional Perspectives of CBDC(CBDC導入にかかる憲法上の課題)を検討し、中村篤志新潟大学専任講師が予定討論を行いました。第六報告は世話人の久保田隆早大教授(日本)がEconomic Security & CBDC(経済安全保障の観点からみたCBDC)について検討し、大矢伸欧州復興開発銀行(EBRD)東京事務所長が予定討論者を務めました。
▽シンポジウムの様子(対面会場1)
第2セッションはZoomのみの開催となり、46名が参加しました。世話人の久保田隆国際取引法学会理事・国際契約部会長から主催団体のもう片方を代表して開会挨拶があった後、30分毎に以下の報告を行いました。まず、第一報告はAlex Simsオークランド大学准教授 (ニュージーランド)がDAOs(自律分散型組織)に関する様々な法的・実務的課題を報告し、柳田宗彦国際取引法学会理事が予定討論者を務めました。第二報告はBarrio Fernandoロンドン大学上級講師(英国)がDigital Currencies and Environment Policy(デジタル通貨と環境政策)についてEUや英国の規制を中心に検討し、山本和志タシケント法科大学教授が予定討論を行いました。第三報告はRosa Lastraロンドン大学教授(英国)がLex Financiera Cryptographia(「暗号金融法」)と題して、Lex Mercatoria(商人法)に並ぶ新たな「暗号金融法」概念を提唱し、諸課題を検討し、世話人の久保田隆早大教授と月吉都デジタル庁職員(早大大学院博士課程)が共同で予定討論しました。最後の第四報告はSaid Gulyamovタシケント国立法科大学教授(ウズベキスタン)がDigital Financial Oversight(デジタル時代の金融監督)と題して中央アジア新興国におけるAIを用いた金融監督について検討し、同僚のIslambek Rustambekovタシケント国立法科大学教授が予定討論を行いました。なお、当初予定したJason Allenシンガポール経営大学准教授によるシンガポールの検討状況報告(堀口宗尚京都大学特命教授が予定討論)については、Allen教授急病により急遽取り止めとなっております。
英語による講演でありながら当日は参加者の関心も高く、シンポジウム終了後に頂いた参加者からの感想では肯定的な評価を多数頂きました。グローバル化の進展と共に、法学分野でも益々英語による国際会合が増える見通しにありますが、今回のシンポジウムがそうした動きの一助となることを祈念しております。
▽シンポジウムの様子(対面会場2)