比較法研究所共催シンポジウム
「グローバル危機とグローバル法秩序化」
【日 時】2023年3月1日(水)~3月2日(木)16:00-18:00
【場 所】 日本国際紛争解決センター
【世話人】 須網 隆夫(早稲田大学法務研究科教授、比較法研究所員)
【参加者】 100名(うち学生30名)
本国際会議は、科研費基盤研究(A)「グローバル立憲主義の成立可能性と憲法・国際法の基本概念」(代表者・須網隆夫、比較法研究所研究員)の最終年度における総まとめとして、比較法研究所の共催を得て、開催したものである。同研究は、2018年以降、欧米で主張されるグローバル立憲主義を検討しながら、国際法と国内法(特に憲法)の相互作用の中で発展する、グローバルな法秩序の全体像を考察してきた。既に2010年代後半より、米中対立の激化により、自由貿易を理念としてきた国際経済秩序は変質しつつあったが、2022年2月のロシアの侵略により始まった、ロシア・ウクライナ戦争は、これまでの国際秩序全体を動揺させ、国内外を問わず、国際社会の分断・新たな冷戦の始まりなどの言説が飛び交っている。しかし、気候変動・パンデミックなど、人類の生存のために、グローバルな協力が必要な状況には何らの変化もないだけでないどころか、協力の必要性はむしろ一層強まっている。そのような状況の下で、グローバルな法秩序の進むべき方向性を議論することは、今日、研究者にとって喫緊の課題である。
グローバル法秩序は、世界の全ての異なる意見を包摂した、グローバルな議論に基づいて形成されなければならない。しかし、これまでの議論は、学問的議論を含めて、ともすれば欧米中心に偏り、非西洋の声が十分に反映しているとは言い難い。そこで本会議は、そのような欠陥を克服し、偏らない議論を行うために、2022年10月以降、国際学会等を通じて、Call for papersを広く発信し、全世界より寄せられた240以上の報告申し込みの中から、厳選した26の報告を2日間に渡る、4つのセッションに編成した。すなわち、1日目の第1セッション「ロシア・ウクライナ戦争とグローバル法秩序化」は、ウクライナでの戦争下のグローバル法秩序の現状を検討し、第2セッション「グローバル危機に直面する国家、国内立憲主義、民主主義」は、グローバル危機の下で国内憲法が直面する諸課題を議論した。続く2日目の第3セッション「国際・国内立憲主義の対話・協力」は、国際法・国内法の相補的関係を、人権・気候変動の場面で検討し、最後の第4セッション「グローバル法秩序化の将来」は、国際法とともに、越境的な立憲主義の将来を様々観点から議論し、グローバル秩序化の方向性、そのために必要な課題を抽出した。
国際法・憲法を一つの枠組みの中で論じる点に、本会議の主たる特徴があるが、同時に、本会議の報告者は、ヨーロッパ、アメリカはもちろん、アフリカ、中東、中南米、東南アジア、中央アジア、中国、さらにウクライナ・ロシアと幅広く、文字通り、現在のグローバルな法状況を議論するに相応しい構成となっている。本会議の参加者は、欧米での会議では見られない、多様な報告者構成とその議論に触発されることが大であったため、会議の内容は、多くの参加者により高く評価された。本会議の成果は、英文書籍として公刊すべく、現在準備中であり、欧米での議論に新たな視点を注入することを目指している。