シンポジウム「フランス法におけるデジタル・プラットフォーム」
主 催:先端科学の法・倫理研究所(プロジェクト研究所)
共 催:早稲田大学比較法研究所
日 時:2022年10月25日(火)14:30-19:30
場 所:早稲田キャンパス26号館地下1階多目的講義室
世話人:山城一真(法学学術院教授)
通 訳:山城一真 ほか
参加者:27名(うち学生8名)
2022年10月25日、早稲田キャンパス26号館にて、シンポジウム「フランス法におけるデジタル・プラットフォーム」が開催されました。なお、当初、報告が予定されたムスタファ・メキ教授(パリ第1大学)とソラヤ・アムラニーメキ教授(パリ・ナンテール大学)は、諸事情により、残念ながら来日することができず、報告原稿を配布することで講演に代えました(翻訳者は、それぞれ小野寺倫子准教授〔秋田大学〕、張子弦准教授〔新潟大学〕)。
第一部「デジタル・プラットフォームの責任」
第一部「デジタル・プラットフォームの責任」では、ナタリー・ブラン教授(ソルボンヌ・パリ北大学。翻訳者は林滉起助手〔早稲田大学〕)がプラットフォームという概念の発展を紹介した上、インターネット仲介サービス提供者のカテゴリーが増加することにつれて、プラットフォーム責任の分別が困難になりつつあると指摘しました。
報告の前半では、これまでにプラットフォームの責任が軽減されていたことについて検討がされました。報告の後半では、プラットフォームに対して強化する途上にある責任、とりわけ著作権に基づく責任の検討がなされました。最後に、超巨大プラットフォームや超巨大サーチエンジンが情報の発信や世論の形成に大きな役割を果たしていることを鑑みると、さらなる対策をとる必要があり、言論の自由との関係について留意しながら、有効な監督とサンクションのメカニズムを設けることが必要とブラン教授が指摘しました。
第二部「デジタル・プラットフォームと消費者法」
第二部「デジタル・プラットフォームと消費者法」では、クレールーマリー・ペグリオンージカ准教授(パリ第2大学。翻訳者は石尾智久講師〔金沢大学〕)がプラットフォームの発展によってもたらされた法的混乱をまず紹介しました。特にコロナパンデミックの影響で、我々一般の消費者にとって、プラットフォームの利用が日々の生活で不可欠なことになっています。プラットフォームを介した消費の増加に伴って、その成長に内在するリスクを直面し、規制を設ける必要が生じました。
ペグリオンージカ准教授は報告の前半において、2016年のフランスデジタル共和国法を紹介しました。同法において、プラットフォームは消費者の対象としてのみならず、消費者法の主体としても位置づけられているという特徴があります。報告の後半では、消費者法におけるプラットフォームに適用される特別規定、とりわけ公正性および透明性の義務、ならびに誤認惹起的な取引方法が検討されました。
第三部「デジタル・プラットフォームの準拠法」
第三部「デジタル・プラットフォームの準拠法」において、ベルナール・アフテル(ソルボンヌ・パリ北大学教授。翻訳者は越智幹仁講師〔大阪経済大学〕)は最初に、デジタル・プラットフォームにかかわる諸問題が主として国際私法の古典的手法に組み込まれる一方、異なる論理や新しい規定の適用が関わってくることも事実であると述べました。アフテル教授によると、古典的手法をインターネット環境で適用することには、行為が行われた場所を確定することが難しいであるなど、多くの困難が生じやすいと言われています。他方、デジタル・プラットフォームを通して展開される経済活動も、結局、現実世界に活動がなされていることが指摘されました。
なお、国際裁判管轄の場面において、欧州司法裁判所は「アクセス可能性」に基づいた判断を示しました。換言すれば、損害のある国において問題のあるウェブサイトが常にアクセス可能であれば、国際裁判管轄権が認められています。アフテル教授によると、同様な判断手法はローマII規則において準拠法の確定に場面にも適切と考えられます。最後に、アフテル教授は、GDPRをはじめとする、デジタル・プラットフォームに関連する新しい準拠法規定は、当事者間の法律関係の法的性質を考慮せず、一方的な規定であると認めた上で、伝統的な手法を完全に超越するような準拠法確定規則があり得ないと述べました。
質疑応答
すべての報告が終了した後、欧州連合におけるいわゆる「忘れられる」権利、プラットフォームによる予防的な措置、小規模プラットフォーム運営者に過剰な義務を課すことによる利用萎縮などについて、盛んな議論がされました。以上をもって、今回のシンポジウムは盛会のうち終了しました。
(文:周洪騫・比較法研究所助手)