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【開催報告】映画上映会 「それでも僕は帰る~シリア若者たちが求め続けたふるさと~」が開催されました

日 時:2018年12月6日(木)16時30分~19時00分
会 場:早稲田大学早稲田キャンパス3号館305教室
司 会:郭 舜 早稲田大学法学学術院准教授
参加者:47名(うち学生42名)

2018年12月6日(木)に、グローバルジャスティスを考えると題して、シリア人映画監督タラール・デルキによる映画「それでも僕は帰る」を上映し、参加者による意見交換を行った。

この映画は、2010年にチュニジアで始まった「アラブの春」という民主化運動が中東で高まりを見せる中、シリア西部の都市ホムスで反政府運動に身を投じた2人の青年の姿を追ったドキュメンタリーである。2011年、サッカー選手であった19歳のバセットは、歌とデモにより平和的に民主化を求めようとするが、政府による圧政に耐え切れず、銃を持ち武力による抵抗運動を始める。そして、主人公の友人であるオサマが撮影するカメラは、デモの様子から始まり、バセットのスピーチと歌、傷つき血まみれとなった子供、泣きながら逃げる老人、迫撃砲により廃墟と化した町など、シリア内戦の残酷で生々しい実態を次々と描き出す。主人公たちは、政府軍に包囲された故郷ホムスから脱出するが、片時もホムスに戻ることを忘れず、友人が次々と倒れ、自分が撃たれても、ホムスに戻ろうと言いながら戦い続ける。そして、主人公がトラックに乗り、銃を持ち、歌いながらホムスを奪還しに行く途中でこの映画は終わる。
観る者に世界正義(グローバル・ジャスティス)とは何か、人権保護はどうあるべきかという問いを投げかけているのである。

映画の上映後、郭舜先生より、以下の補足説明があった。
シリアで2011年に起こった内戦がこの映画の背景である。舞台となるホムスは、その歴史がローマ時代にまで遡ることができる都市で、市民はさまざまな宗教を信仰している。シリア国民は、アサド政権による監視・圧政のために、生活に苦しみながらも腐敗した政府を自由に批判することができない。追い詰められた国民は反政府運動を起こすが、政権を倒すことはできなかった。
結局、内戦は長引き、2015年に結ばれた停戦協定も守られることはなかった。反政府運動を支援するアメリカ・日本・ヨーロッパ諸国などがアサド政権を支援するロシア・中国などと対立するという国際社会の構図が、そのままシリア国内に持ち込まれたからである。さらに、対立の間隙を縫ってISをはじめとするイスラム過激派が勢力を広げるなど、いまだに混乱が続いている。
この映画からは、いろいろなことを読み取ることができるだろう。例えば、ジャーナリストは、紛争地で今起きている状況を世界に発信するという重要な役割を担っているが、自らの安全は保障されておらず、命を狙われる存在である。また、国際法の観点では、内政不干渉の原則により他国への武力行使は禁止されているため、外国による武力介入は困難であるが、市民の権利を保護しない政府に対して国際社会が介入すべきかどうかの問題は残る。なお、主人公たちの武力による抵抗は、政権による虐殺又は武力鎮圧への抵抗という意味では合理性があるが、抵抗行為の背景にある要因を吟味する必要がある。

続いて参加者との意見交換に移り、中村民雄所長は、主人公たちの活動は、世の中の不正への義憤によるものという点で、1960年代の日本や欧米で起きた学生運動との共通性があることを指摘した。

また、参加した学生からは、国際法的に内政不干渉の原則により外国の介入が困難であることは理解できるが、現に難民問題などの問題は差し迫っており、信頼できる第三国を介して政府と市民の間の関係を回復させることはできないかという意見があった。
これに対して、郭舜先生より、第三国の仲介によって戦争をやめさせることが重要であり、日本が信頼される第三国として、政府・民間の外交力を生かし国際社会の一員にふさわしい役割を果たすべきではないか、というコメントがあった。

参加した学部学生、大学院生、教員からのアンケートには、日本ではなかなか観ることのできないシリア映画を観ることができてよかったという意見、自らの利益を最大化することと普遍的正義のどちらを選ぶかについて考える機会となったという意見、シリアの深刻な事態を実感したので、不正に対する道義的な意識をシリアの人々と共有し、シリアで起きていることを自分たちの問題として考え続けたいという意見など、映画を高く評価し、またこの企画を好意的に評価する感想が多数寄せられた。

この上映会は、学生・大学院生そして教員にとって大変有意義なものであったといえる。

以上

参考
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