Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

News

ニュース

【開催報告】日中比較法シンポジウム「憲法原則の私法領域における応用」に参加しました

 

【開催報告】日中比較法シンポジウム「憲法原則の私法領域における応用」

2017年9月22日(金)

中国社会科学院法学研究所(中国/北京市)

 

本シンポジウムは、2017年9月22日(金)に、中国社会科学院法学研究所3階会議室において開催された。当日は全て同時通訳で行われ、パネリストに加えて、社会科学院の研究員と院生、早稲田大学に留学中の大学院生など、数多くの参加者があり、終始大変盛況であった。

9時からの開幕式では、莫紀宏研究員(中国中国社会科学院法学研究所副所長)の司会で、中国側を代表して、李林研究員(中国社会科学院学部委員・法学研究所所長)、日本側を代表して、中村民雄教授(早稲田大学比較法研究所所長)が、それぞれ挨拶を行った。

9時45分から午前の部として、第一部「憲法からみる憲法と私法の関係」が開始、李忠研究員(中国社会科学院法学研究所、以下、社会科学院と記す)と中村教授の司会のもと、日中が交互に5本の報告(各20分)と、それらに対する総括コメントが1つ(15分)、以上が、途中休憩なしに連続して行われた。簡単な概要は以下の通りである。

報告1では、莫研究員が「違憲審査における法律的事実の根拠に関する考察」と題し、中国における違憲審査は民法や刑法の要件論に依存する傾向が強いことから違憲と違法の境界が曖昧になっている、本来、違憲審査は国民の権利及び公権力の行使の二つの要素からなる「憲法的事実」に基づき発動されるべきものであり、この点で日本の違憲審査は参考になると論じた。

社会科学院01中村先生続いて、中村教授が、報告2「民事法の解釈適用における国際人権条約―日本の事例と特徴」において、三つの日本の事例を素材に、日本の裁判所が民事紛争の法的判断において、国際条約(憲法を経由する形も含めて)を積極的に解釈適用する姿勢が概して見られない点を厳しく指摘した。

報告3、謝鴻飛研究員(社会科学院)の「中国民法典の憲法的機能―『民法総則』を中心として」は、中国では憲法の執行が不十分であるため、民法が「民事憲法」として憲法の機能を補完し、代替する可能性を肯定的に評価し、現に、民法総則(未施行)には一般的人格権等、憲法的な規定が多く設けられていることが詳細に紹介された。

報告4では、金澤孝准教授(早稲田大学法学学術院)が、「日本における憲法と民法の係り合いについて」というテーマのもと、違憲審査と私人間効力論の二つの場面で、憲法と民法の現にある関係の分析を行い、違憲審査においては、立法裁量を前提に憲法の民法への規範統制は弱く、他方、私人間効力論も実務的には無効力説に近いという結論が示された。社会科学院02金澤先生

報告5は、賀海仁研究員(社会科学院)の「『オルタナティヴ』としての法律に忠実な行為と実践と反省」であり、現代の脱革命化された中国憲法秩序において、市民的不服従という抵抗が理論的・実践的に如何なる意味で可能かを検討するものであった。

以上の報告によって、予定された時間を大幅に超過したため、コメントの時間は短縮され、自由討論は午後に持ち越しとなった。コメンテーターを務めた翟国強研究員(社会科学院)は、午前の部の報告は中日間での相違が目立つ内容であったと総括しつつ、憲法と民法の関係性についてであれ、憲法、民法それぞれについてであれ、中日における共通点に目を向けたほうが生産的ではないかと述べた。

14時から午後の部の前半として、第二部「民法から見る憲法と私法の関係」が、薛寧蘭研究員(社会科学院)と金澤准教授の司会で行われた。当初の予定では、報告3本とコメント1本、自由討論(午前の部の分も含む)と、司会者による総括コメントであったが、やはり時間の関係で、自由討論は第三部に持ち越すこととなった。なお報告時間は一人15分を目途に最大20分と制限された。

社会科学院03秋山先生報告1は秋山靖浩教授(早稲田大学法学学術院)による「区分所有建物の建替えにおける区分所有権の保障の変容」である。これは、憲法29条の財産権保障の一内容である所有権、その中の区分所有権について、2002年区分所有法改正が、権利の実体保障よりも手続き保障へと移行する影響を与え、さらにそれが建替えだけでなく所有権解消の場面にも及んでいることを明らかにするものであった。

報告2では、夏小雄研究員(社会科学院)が「商法の憲法化―現代商法の発展における帰趨」と題し、憲法と民法ではなく、憲法と商法の関係に焦点を当て、社会主義市場経済体制、しかも地方毎に取引ルール(商慣習も含む)が異なる中国にあっては、統一商法典の制定が一刻も早く望まれるのだが、それが難しい当面の間は、憲法規範によって市場を規制すべき(商事法の憲法化)だと主張した。

報告3の岩志和一郎教授(早稲田大学法学学術院)「家族法と憲法」は、日本に限らず家族を含む親族関係のあり方が、歴史的・社会的な形成物であり、もともと民法によって制度化されたものが近代以降は国家法(憲法)秩序に取り込まれていった、という経緯をスケッチした上で、事実婚や、近時の同性同士のパートナーシップについて、日本国憲法14条、24条との関係を問い直す内容であった。社会科学院04岩志先生

以上の報告について、コメンテーターの竇海陽副研究員(社会科学院)から、特に、日本側の報告に対して、秋山報告に関しては、所有権概念は異なるとしても、中国でも集合住宅の建替えという全く同じ問題状況があること、建替えのルールが日本よりも緩く、かつ家主の力が弱いことが特徴だという応答があり、岩志報告については、同性婚は中国にも全く同様の問題が存在することが紹介された。第二部の総括として、司会の一人である金澤准教授から、三つの報告についてそれぞれ、憲法の側からすれば、憲法の限界(秋山)、憲法への期待(夏)、憲法への問題提起(岩志)として受けとめたという発言があった。

 

若干の休憩を挟み、15時45分より、最後のセッションである第三部「憲法原則と労働法」が、謝増毅研究員(社会科学院)と岩志教授の司会で進められた。第二部の様子も踏まえ、報告時間は当初の予定通り20分とされ、第三部では、報告2本とコメント1本に加え、本日の自由討論をまとめて行うことになった。

報告1では、王天玉副研究員(社会科学院)が、「憲法平等原則の労働法の傾斜的保護構造における適用」として、労働の平等の実現のためには、労働権の自由権的側面として、人格の形式的平等が保障されることと、同時に、社会権的側面として、国が積極的に資源配分等をすることで実質的な平等が図られることが肝要だと論じた。

日本側からの、報告2については、欠席した竹内寿教授(早稲田大学法学学術院)の発表原稿を、鄒庭雲助手(早稲田大学比較法研究所)が代読する形をとり、さらに報告1と2の両方について、鄒助手がコメンテーターを務めた。竹内報告は、日本では労働関係において法律の規定がない場合に、裁判所が民法の一般条項の解釈に憲法原則を読み込む形で欠缺を埋める法理を形成してきたとし、具体例として、解雇権濫用法理や、男女差別を禁ずる「公序」、さらに不法行為における人格権の保護の三つが詳しく紹介された。

鄒助手のコメントでは、日中においては労働を考える前提条件が相当に違っているものの、労働の平等という問題それ自体や、憲法、法律に加えて、裁判を通じてもまた労働者を保護することの重要性は、日中において何ら変わりはないという点が指摘された。その後に、自由討論の時間が若干設けられた。日本の憲法について比較的関心が高く、70年もの間、憲法が一度も改正されていない理由、違憲判決が少ない理由などが質問として出された。また同性婚は中国でもホットな話題であることから、日中間で活発な意見交換が行われた。

 

社会科学院07集合写真引き続き17時より、閉幕式が行われた。司会は開幕式と同じく莫研究員が務め、陳甦研究員(中国社会科学院法学研究所副所長)と中村教授の順で挨拶が述べられた。中村教授は、午前の部では日中間の違いが強調される報告が多かったものの、おそらくそれは法律や制度、あるいは抽象理論のレベルでの議論が多かったことに起因し、それに比べると午後は具体的な話題・問題を論じるものであったこともあって、日中の共通点が浮かび上がり、より実りある検討がなされたのではないか、とシンポジウム全体の講評を行った。司会の莫研究員からは、次回は日本において開催の予定であるが、たとえば憲法と刑法の関係なども考えられるとの発言があった。最後に、参加者全員で記念撮影を行い、17時30分過ぎに、無事全ての日程が終了した。(了)

 

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/folaw/icl/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる